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第二章:変わりゆく世界
その五:水上都市スィーフへ
しおりを挟む私とイオタは「迷いの森」を迂回するルートで、ポヤポヤと草が所々生えている街道を歩いている。
「うーん、開けた所は久しぶり。この時期は温かくて気持ちいよねぇ~」
「いや、気持ちはわかるけど精霊都市ユグリアを出発してもう一週間、本来なら次の目的の水上都市スィーフに着く頃なんだけど……」
草原になっている街道は天気もいいし、春なのでいろいろな花が咲いている。
思わずそんな脇道に行って花を摘んでみたり、今晩のご飯になりそうな山鳥なんかを狩ったりしていると、だんだんとイオタの様子がおかしくなってくる。
不思議に思い、聞いてみるとムスッとして言う。
「確かにサーナにしてみれば久しぶりの外の世界かもしれないけど、寄り道が多すぎる!」
「え~、だって久しぶりで面白いんだもん。それに私がいれば狩りに関しては問題無いからご飯の心配はないわよ?」
事実、ここまでふらふらとしていても食料に関してはほとんど問題はない。
肝心な塩も、近くの野生動物の後をつけて岩塩の場所を見つけ出したりするから問題無かった。
「とは言え、かかり過ぎだよ。君だってちゃんとした街で体を洗いたいだろう?」
イオタがそう言うので、私は思わずきょとんとする。
そして先日の事を思い出し言うと真っ赤になってそっぽを向く。
「私は別に小川で体を洗うだけでもいいんだけど。一緒に背中の流しっこしようって言ってもイオタは来ないんだもん」
「いや、それは、いくら君がエルフ族だからと言っても男女なんだから裸で一緒に水浴びとかは///////」
そう言えば、人族って男女が一緒に水浴びとかするのを恥ずかしがるんだった。
エルフの村では混浴なんて当たり前だったから、ついぞ忘れてた。
思わずため息を吐いて私は言う。
「こんなエルフの貧相な裸見ても面白くないでしょうに。それに私と一緒に水浴びできないって言うのは仲良く成るつもりがないってことかしら? エルフの村では一緒に水浴びをするのは『水を分かち合う者』って言って、親睦を深める行為なのよ?」
私がそう言うと、イオタは更に赤くなり首を横に振って言う。
「それはエルフの村だけにしてくれ! そ、外の世界でそんな事してたら君だって簡単に襲われてしまうぞ!?」
「こんなペタンコな胸で興奮するものかしら?」
私はそう言いながら自分の胸に手を当ててみる。
エルフの中では標準的な大きさ。
もし子供が出来てもちゃんとお乳をあげられるくらいには膨らんでいる。
しかしイオタは横を向いたまま言う。
「そ、それでもサーナは奇麗だから、男なら誰だってサーナがそんな姿してたら変な気を起こすって……」
「あら、ありがとう綺麗って言ってくれて。でも、やっぱりイオタも私が裸だと変な気分になっちゃうの?」
下から彼の顔を覗き込むように見ると、プイッとさらに明後日の方向を向いてイオタは言う。
「か、からかうなよ! 俺だって男なんだから!!」
「ごめんごめん、分かったわよ。以後気をつけます。まったく、イオタはそう言う所が紳士よねぇ~」
からからと笑いながらそう言うも、イオタはまだそっぽを向いたままだった。
私は軽く息を吐いてからイオタの腕を取り引っ張る。
「とにかく、せっかくの外の世界なんだから楽しまないと損よ! あっちに林があるでしょ? 今日の晩御飯を狩りに行こうよ!!
にっこりとそう言うとイオタはやっとこちらに顔を向ける。
私は微笑みながら更に彼の手を引っ張るのだった。
* * * * *
「いや、この時代でもやっぱりこういう人たち居るんだ……」
二日後、あとちょっとで水上都市スィーフに着く所まで来ていた。
でも街道の岩場が多い所で出ました、盗賊さんたちが。
「へっへっへっへっへっ、こんな所を二人で歩いてるなんざ不用心にもほどがあるぜぇ? 命までは取らねぇ、全部おいて行きな」
この時代でも台詞まで同じとは恐れ入る。
私はローブのフードを取ってその盗賊の頭を見る。
するとその盗賊は口笛を吹いて言う。
「ほう、エルフとは珍しい。まぁ、お前さん方をどうこうするつもりはねえから、おいて行くもんおいて行けばここは通してやるぜ? それとも俺が朝まで可愛がってやった方がいいか?」
げへへへへと周りの連中が嫌らしい笑いをする。
と、隣にいたイオタが黙ったまま剣を抜く。
「ほう、やるつもりかい? この人数を相手に。だったら殺されても文句を言うなよな! 男はやっちまえ、女は捕まえろよ!!」
そう言って盗賊たちは一気に私たちの周りに押し寄せて来る。
「大地の精霊よ!!」
私はすぐに土の精霊魔法を使って、盗賊たちの足元に突起を出させる。
押し寄せてきた数人はそれで躓いその場に転ぶ。
そこへイオタが剣でとどめを刺し、次々と三分の一位を仕留める。
「くそっ、精霊使いのエルフを先にやれ!!」
盗賊のお頭は標的を私に変えてそう叫ぶも、こちらも既に精霊魔法が完成している。
「風の精霊よ!!」
私に向かってくる盗賊たちに手をかざし風の精霊による風の刃を打ち込む。
途端に盗賊たちは見えない風の刃に体中を切り刻まれ、慌てて逃げ出す。
「ちくしょう!」
「お前の相手は俺だ」
浮足立った盗賊たちのお頭の後ろに、いつの間にかイオタが立ち塞がり退路を断つ。
盗賊のお頭は剣を振り上げ、イオタに向かうも力の差は歴然であっさりと切り伏せられる。
漸っ!
ばたっ
残った盗賊たちはそれを見て持っていた武器を放り出し散り散りに逃げ出す。
「ふう、今の時代もああいうのはいるものね」
「大丈夫だったかい、サーナ」
「ええ、問題は無いわ」
このくらいの盗賊なら私一人でも十分に撃退できる。
しかしイオタは剣をしまいながら私の方へやって来て心配してくれる。
なんかこう言うのも久しぶりかな?
私はにっこりと笑ってイオタの応える。
「この時代もこう言った盗賊は出るものなのね」
「そりゃぁ、この辺は盗賊が良く出るって言われるからな。昔っから変わらないんじゃないか?」
「うん、まぁこう言う所は何時の時代も変わらないものなんだね。でもイオタって思っていた以上に強いじゃないの?」
「へへへ、言ったろ剣には少し自信があるって」
そう言って拳をあげる。
私もその拳に自分の拳をぶつけてにっこりとする。
まあ、なかなかの相棒かな?
「さて、もう少しで水上都市スィーフだね。あそこもこの二百年でどう変わったかな?」
「俺はこっちは初めてだな。どんなところなんだい?」
イオタは私にそう聞いてくるので、知っている事を話す。
まあ二百年前の姿なんだけど、変わってなければ話した通りかな?
「ふーん、沼地に街が建っているのか。水害とか無いのかな?」
「うん、昔からだから問題無いのじゃないかな。それに古い女神様で水の女神様がいた場所だって言い伝えもあるからね。あの辺は古代魔法王国なんかの遺跡も多いしね」
「じゃぁ、まだ見つかっていないお宝とかもあるかな?」
「あはははは、流石にもう全部盗掘されてるってば」
そんな話をしながらこの岩場を抜けると、草原から湿地帯になり始める。
流石に街道は整備されていて、馬車なんかも通れるようになっているけど、この辺からがらりと風景も変わる。
「っと、見えてきた。あっちの湿地帯の真ん中にあるのが水上都市スィーフよ!」
「いやいや、ぼうっとしててよく見えないよ。エルフって目が良いんだな?」
遠くに水上都市スィーフのお城が見える。
しかし人族にはまだ見えないみたい。
そう言えば、エルフって人族より遠くが見えたり、夜も星の明かりで昼間と同じくらいに周りが見える。
そんな違いをすっかり忘れていた。
「ここからなら後、一日くらいかしら?」
遠くを見ながら私がそう言うと、イオタは同じくそっちを見るも、ため息交じりに言う。
「やっぱり見えないや。ほんとエルフって目がいいなぁ」
そう言って、親指で鼻の下をスンっと擦る。
私はその姿を見てまたドキリとさせられる。
彼と同じだった。
ちょっと悔しい時に彼がした仕草と同じ。
それを目の前のイオタがしたのだった。
「ん? どうしたのサーナ?」
「あ、いや、なんでもない。それより行きましょう途中の乾いた場所を見つけないと野営が大変よ?」
「あ、うん。それじゃぁ行こうか」
私とイオタはそう言ってまた歩き出すのだった。
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