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第一章:旅立ち
その一:出発
しおりを挟む村の中心にあるそこには黄金の色に輝く大木がある。
神話の時代からここに在ると言う「世界樹」だ。
私たちエルフは、女神様に樹木と精霊から作られたと言われている。
古い女神様たちで、どの女神様かは分からなくなっているけど、そのせいか私たちには目を閉じるとここではない別の場所に自分の木を感じる事が出来る。
「命の木」と呼ばれ、この木が枯れない限り私たちエルフも死ぬことはないと言われている。
私が世界樹の前まで行くと、そこには四人のエルフが座っていた。
みな、うたた寝でもしているかのように見える。
私はそんなエルフたちの前に歩み出る。
「……サーナか。どうしたのじゃ?」
「メル様、お願いがあります」
四人のエルフは最古エルフと呼ばれる長老たち。
噂ではあの女神戦争すら生き残ったと言われている。
もしそうだとすると、彼女らは既に万年単位で生きている事となる。
「なんじゃ?」
最古の長老の中でも特に長生きをしていると言われている最長老のメル様。
威厳のあるその物言いに対してその姿は人でいう十三、四歳くらいに見える。
だが、エルフにあるまじき巨乳でもある。
いや、何故か最古の長老たちは全員胸が大きい。
一般的に私たちエルフは華奢な体つきをしている。
人によっては男だか女だかその外観からでは分からない程だ。
なので、普通は女性のエルフは皆胸が小さい。
まったくないわけではないが、人族のそれに比べればかなり小さい部類になる。
なので目の前にいる長老たちは異常な胸の大きさとなる。
「約束を思い出しました。そろそろ二百年経ちますので行ってこようと思います」
「もう二百年経ったか…… まあいいじゃろう。行ってくるがいい」
メル様はそう言うと又、瞑想をするかのように瞳を閉じた。
私は許可が下りたのでその場を後にする。
二百年ぶりに外の世界に出る。
約束を果たす為に。
* * * * *
「え、なになに、サーナって外の世界に行くの?」
「うん、約束を思い出したからね……」
村の泉で水浴びをしていたらシャルが来た。
彼女もその昔、村を出て外の世界でいろいろ有ったらしい。
しかもその時に恋人を作って、好い関係になったが相手は人間だったのでもう死んでしまっている。
ただ、女神様の祝福を受けた彼はその後何度も転生をある場所でしていて、その記憶を保っているらしい。
シャルの話では迎えに来てくれるまで絶対に自分からは会いに行かないとか言ってるらしいが、風のメッセンジャーと言う魔道アイテムで時折連絡を取り合っているらしい。
まったく、同じエルフとは言え長距離長期恋愛とは恐れ入る。
話を聞く限り最初の彼氏と死に別れして既に九百年が過ぎているらしい。
まあ、エルフだから時間的には気にならないかな?
いや、流石に待たせすぎでしょうに!
私たちエルフは時間の概念が鈍いけど、流石に千年経つとその容姿は人でいう二十歳くらいになる。
落ち着いたそぶりは、気品すら出て来るエルフの大人。
スタイルだって女性らしくなり、若干胸も大きくなる。
だから流石に千歳を超えた頃からつがいとなる男性を探し始めるのだけど、村の中ではなかなか好い相手がいないってのも事実だったりする。
親がいる場合は無理矢理お見合などせられて、つがいとなり子孫を残す事を求めらえる。
とは言え、うちに村はその辺がいい加減と言うか何と言うか、つがいになったり分かれたりは結構あるし、一人の男性の大樹に複数の女性の幹がつがいになる場合もある。
まれだけど、近親婚もあり兄弟でつがいの夫婦になった事例もある。
この辺は私たちの半分が樹木で出来ているせいだとも言われているけど、シャルのように一途に一人の男性を思う者もいる。
「あれ? シャルとサーナじゃないか。聞いたのだけど村の外に出るんだって?」
「ああ、アル。ちょっと約束を思い出してね」
「ふーん、まぁ気をつけて行くんだな」
そう言って彼は泉に浸かり頭に水をかけ始める。
そろそろ男性陣も泉に入ってくる頃だった。
このエルフの村では男女混浴が当たり前になっている。
これは「水を分かち合う者」と言う概念から仲の良い間柄では一緒に水浴びをする事は親睦を深める事となるからだ。
外の世界では驚かれる事だが、華奢な身体の私たちはそんな事を気にはしない。
あ、でも暗黙の了解で外の世界に出てそう言った事を気にする女性たちはもっと早い時間帯に水浴びするようにはしている。
あの双子の姉妹、リルとルラなんかは村に戻って来るといつも朝早く水浴びをしているっけ。
あそこの父親であるデューラなんか娘と一緒に水浴びが出来なくなって嘆いていた。
まぁ、私も外の世界に出て彼女らの気持ちも分からなくはない。
外の世界で男女が一緒に混浴しようものならほぼ確実に襲われる。
特に女性のエルフは確実だ。
中には男性のエルフも人族の女性に襲われる事例もあるらしいが、私たちは性欲と言うモノが薄い。
そもそもエルフの女性は植物と一緒で年に一回しか生理が来ない。
だから子供を作るとしてもその時期くらいしかそう言う気分にならない。
しかし人族は違う。
あの性欲と言うか、繁殖本能は呆れるほどだ。
なので外で色々を知ったエルフの女性の中では、村に戻ってから混浴を嫌がる人もいる。
「そう言えばサーナはなんで今回外の世界に行くんだ?」
「うーん、約束を思い出したからね……」
「なんの約束だよ?」
「あ、それ私も気になる」
アルのその質問にシャルも乗り気で聞いてくる。
私はしばし考えるも、ニカッと笑って言う。
「ないしょ」
それを聞いた二人は余計に気になるようだったけど、今は秘密にして帰ってきたら外の世界の事も含めて話してやろう。
私は暫し二人に水をかけられたり、何故秘密なのか聞かれ最後の水浴びを楽しむのだった。
* * * * *
「さてと、準備は出来たし良いかな?」
私はそう言って近所のエルフに不在の間の家の事をお願いして扉を閉める。
村の出入り口の結界付近にシャルがいた。
「もう行くの?」
「うん、行って来るね」
「そっか、気を付けてね、あなたに精霊の加護がありますように」
「ありがとう。それじゃあ行ってきます」
私はそう言ってシャルと抱き合ってから村の結界を出て行く。
いよいよ約束の地、ジマの国に向かって。
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