アザリスタ‐婚約破棄された姫様の処世術-

さいとう みさき

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第四章アザリスタ

第十八話:連合結成

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 キアマート帝国がカーム王国に侵攻して、それを撃退してから二週間が過ぎていた。


「それで、その原子とか言うのは何なんじゃ?」

「えーと、しばしお待ちくださいですわ」


 現在カーム王国の西の町ではちゃんと作り上げられた城塞の一室でかなりの高齢の男性とアザリスタが面と向かって話をしていた。
 彼は誰がどう見ても魔術師の恰好をしていて大量の本を開きながらアザリスタの話を一字一句書き記している。

 彼の名は大賢者ヲン。

 古今東西の中でも特にその力は強く、あのキアマート帝国の宮廷魔術師であるソームの師でもある。
 そんな彼はここ一週間あれやこれやとアザリスタを捕まえて話を聞いている。


『いい加減疲れてきたぞ…… 一週間も問答攻めじゃ気が滅入る』

「仕方ありませんわ。大賢者ヲン様に協力していただく代償が異界の知識ですもの。でなければキアマート帝国に対しての決定打が打てませんでしたわ。正直アルニヤ王国のキアマート軍が籠城せずに南下してこのカーム王国に攻め入られていたら流石にこの西の町など死守できませんでしたわ」


 実際の所今回の戦いはかなりギリギリであった。

 アルニヤ王国が落とされた時点でレベリオ王国での決戦を覚悟さえしていたアザリスタは、各国に親書と自分の妹たちを派遣して半ば脅すかのように協力をさせていた。
 「魔女」と裏では囁かれていたアザリスタであったが、敵に回すにはとてもまずい相手であった。
 故にキアマート帝国のカーム王国侵攻で各国はそのアザリスタの親書を受け入れるしか無かった。

 そして思う、敵に回す以上に味方にした方がもっとヤベー奴だったと。

 それもそのはず、各国に派遣されたアザリスタの妹たちは皆あのビキニ姿で海の悪魔たちの下僕を干物にして持ち込んだのである。
 そしてアザリスタは海の悪魔を神の力で屈服させているので、言う事を聞かなければ海の悪魔たちが腹いせに陸上に攻め込んできても助けないと言い張ったのだ。
 妹たちのその姿は「聖衣」で唯一悪魔たちを退ける、または屈服させるモノだとも親書には書かれていて、レベリオ王国に協力するのであればその力を宿すその妹たちをその国に嫁がせる約束もあった。

 勿論各国の王たちは大いに焦った。

 あの海の悪魔たちを従えると言う事は沿岸部の国々はそのすべてが対象となるからだ。
 しかも悪魔の軍団が侵攻中のキアマート帝国に攻撃を仕掛けたと言う噂は遠の昔に響き渡っていた。
 その黒幕があの「魔女」アザリスタであれば各国も協力をするしかない状態であった。



「しかし、異界の知識とは驚かされる物ばかりじゃな。こちらの世界で魔法が物質に作用する理屈ははっきりとしなかったのじゃが、異界の知識のお陰で整合性が取れる。何とも理論立てがしっかりとしている事や!」

 大賢者ヲンはにこにこしながらタコの酢漬けを食う。
 現在彼のお気に入りのようだ。

「しかも海の悪魔と称されていた存在が我々の思い込みで、クラーケンやリバイアサンなどの大物の魔獣は確かに縄張りにでも入らない限り襲って来んからのぉ。海を移動すると言うあの布の付いた船、確か帆船じゃったか? あの考えは無かったの。風をあそこまでうまく使うとはのぉ。手漕ぎの船など遅くてもう乗れんわい」

 笑いながら上機嫌でそう言う大賢者ヲン。
 彼はアザリスタの再三にわたる交渉の末、異界の知識を教えるから協力すると言う約束でその重い腰を上げたのだった。
 勿論、学生時代から息のかかった学生たちや、大賢者ヲンに連なる人脈もフルに使った。
 そして一番の功労は雷天馬だった。

 天馬のあちらでの世界の知識はこちらの世界では異色のモノばかりだった。

 しかしそれのお陰で大賢者ヲンは興味を示し、海産物の献上でその気になったのだ。
 そもそも海の生物は魚以外悪魔の手下と言うのが常識だった。
 しかしそれを捕らえ、食用に加工した物を持ってこられればたとえそれがタブーであっても興味をそそられる。
 異界の知識だと言う投石器や、炭酸塩鉱物に酢などをかけて二酸化炭素などと言うガスを発生させ、それが炎の燃焼を阻害すると言う事も知らされればさらに興味を持つ事になる。

 結果大賢者であってもアザリスタに協力すると言う妥協点まで引き出せた。


「しかし、世の連中は未だに覇権争いなんちゅうくだらんものに固着しておるのか?」

「それが世の常なればですわ。凡人には大賢者様のような達観した考えを持つ事は難しいのですわ」


 そう言ってにっこりとほほ笑むアザリスタに大賢者ヲンは言う。


「口惜しいのぉ、おぬしほどの知識を持つ者ならば儂の後釜にでも指名できようモノが」

「残念ながら私にはしがらみが多くありまして、それを成す為には何でもしなければなりませんのですわ。たとえそれが禁忌を破ってもですわ」


 アザリスタがそう言うと大賢者ヲンはニヤリと笑う。


「まあよいわ、儂は異界の知識を聞ければそれで満足じゃしな。それにおぬしのような考えは嫌いではない。我が弟子ソームもさぞかし悔しがっておるのではないだろうかの?」

「キアマート帝国の宮廷魔術師ですわね? しかし、大賢者様がそのような者と繋がりがあったとはですわ」

「何、皇帝ロメルも一時期儂の所におったのじゃ、そしてあの大剣『魂喰らい』を手にしおって若返っておる。おおよそ知恵とは正反対の者じゃったが、その執念ともいえるものはすさまじかった。故に奴は奴隷から成り上がり今では皇帝を名乗っておる」

 大賢者ヲンはそう言ってまた酢だこを口にする。
 アザリスタはそれを聞きやや眉間にしわを寄せる。

「そうしますと、あの少年の姿は偽りですの? もったいないですわ」

「いやいや、身体は紛れもなく若返っておるだろう。その気迫や力、執念はしっかりと残っておるだろうがな」

 本に何かを書きながら大賢者ヲンはちらっとアザリスタを見る。
 そして静かに聞く。


「おぬし、何を欲しておる?」


「そうですわね、皇帝ロメルを私のペットとして飼うのも一興ですわね」

 それを聞いて大賢者ヲンは大きく笑い出す。


「がはははははははっ! あの者をペットにか! それは良い、まったくおぬしは一国の姫になぞしておくのがもったいないな!!」


『いや、比喩じゃなくこの姫さん本気だぞ?』

 大賢者ヲンのその笑い声に雷天馬はボソッとそう言うのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 キアマート帝国の侵略からカーム王国を守り、退けてからひと月が経った。
 今ここレベリオ王国には各国の王族たちが集まっている。


『まさか本当に連合を設立するとはなぁ~。それでどうする気だ?』
 
「勿論、連合を締結しキアマート帝国に対して侵攻をしてあの皇帝ロメルを捕らえるのですわ。そして私の元でたぁ~っぷりと可愛がってあげるのですわぁ! ぐふ、ぐふふふふふふふふっ」

『いや、あんた姫さんなんだから…… まあとにかくこれでひと段落かな?』


 雷天馬のその言葉にアザリスタは不思議そうな顔をする。
 そして言う。


「何を言っているのですの? 私をふったアルニヤ王国のロディマス様にもまだ仕返しをしてませんわ。それに連合を締結して我がレベリオ王国が主権を握る工作もしなければなりませんわ。まだまだこれからですわよ、あなたには期待をしていますわよ?」

『へいへい、俺に出来る事は手伝いますよ、お互い死なないためにもな』

「そう言う事ですわ。それでは参りますわよ!」



 そう言ってアザリスタは会議場である部屋の扉に手をかけるのであった。

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