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第三章決戦
第十四話:略奪
しおりを挟むカーム王国の南方から海の悪魔たちの下僕を加工した食料がキアマート帝国の侵攻を防御する西の町に運ばれようとしていた。
海辺から西の町まで馬車で約三日の距離。
総数三百を超える大量の馬車は西の町へと向かっていた。
「おい、あれ見ろ!」
馭者の席に座っていた補給班の兵は丘の向こうに見える大量の魔物を見てぎょっとする。
それはまるで彼らを待っていたかのように丘の上にあふれるかのようにいた。
「敵襲だ! 各馬車はすぐに逃げろ!! 間に合わなければ荷物を捨ててもかまわん!!」
護衛の騎士風の者がそう大声で言った途端丘の上の魔物たちが動きだした。
「ひっ!」
「おいこらバカ、死にたくなければ逃げるぞ!!」
一斉に逃げ出した補給班の面々は護衛の騎士たちの足止めの間に逃げ出すも、すぐに追いつかれてしまう。
騎士たちも時間稼ぎにもならないとみてすぐにこの場を離脱し始める。
「かまわん、馬車を捨てろ! 補給班は早急に馬に乗って逃げろ! 急げ!!」
馬車をその場で捨てて馬にまたがり逃げだす補給班。
しかし魔物群れは彼らを追う事無く馬車に群がる。
そして積まれていた積み荷をひっくり返し、その中にある食料をむさぼり始めるのだった。
* * * * *
「どうやらうまく行ったようですな。補給物資は全て我らの手に入りました。今魔物たちにそれを食わせている所です」
ソームはニヤリと笑いながら皇帝ロメルに報告をする。
それを聞いて隣に控えていたラメリヤは心底嫌そうな顔をする。
「ソーム、本当に我が軍の者たちは大丈夫なのでしょうね? あのような恐ろしい物を食するとは非常識と言うものなのに……」
「それは大丈夫でしょう。事実カーム王国の者たちは淫魔共に勧められそれらを食しているとの話。淫魔共自体も男を食わずそれらを食しているらしいですからな。事実であれば多分魔力補給がそれで出来ると言う事でしょうな。素晴らしいものです」
宮廷魔術師にしてみれば魔力回復などそれこそ願っても無い事である。
この世界の魔法は大魔法ともなれば天より隕石を召喚できる魔法もある。
いくら屈強なキアマート帝国の軍隊でも流石に天より隕石をぶつけられればただでは済まない。
しかしそれ程の魔法を使うには大量の魔力が必要である。
普通の魔法使いにはそこまで莫大な魔力が無いのが一般的だった。
だがもし魔力補給が容易であれば?
魔法を使ってもすぐに魔力が回復できれば?
それは魔法自体がこの戦争を覆せる程の功績が残せると言う事だ。
「これにより我がキアマート帝国の力はより増大しましょうぞ! 魔法が戦局を変えられるのです!!」
ソームはそう言って両の手を広げ歓喜に酔う。
「だがあちらには海の悪魔が加担しているのであろう? 何ゆえ奴等はアザリスタに協力する? カーム王国の後ろにはあの魔女がいるのであろう?」
皇帝ロメルはそれでも酒杯を飲み干しラメリヤにそれを手渡す。
それを受け取ってラメリヤは首を振る。
「申し訳ございません。何ゆえ奴等に海の悪魔どもが加担するかは分かりません。しかし淫魔とあの魔女が何らかの契約を結んだのであれば…… アルニヤ王家はあの魔女を恐れていたと聞いております。アザリスタは魔法学園を首席で卒業したとも聞いております。何か古代魔法の秘術でも見つけだしたのやもしれません……」
「おとぎ話で出て来る黄金のランプに封じられた風の精霊ですかな? はははは、例えそうであってもここは陸地。海の悪魔どももそれほどの力を振るえはしますまい。むしろ解せぬはベトラクス王国の大賢者。何故アルニヤに攻め入るのに手を貸すかですぞ!」
ラメリヤのその回答に横からソームが口をはさむ。
宮廷魔術師としては攻めて来たベトラクス王国にいる大賢者の方が気になる所だ。
報告ではアルニヤの首都でベトラクス王国の侵攻は止まっているらしいが、首都に籠城するキアマート帝国の軍は四分の一を消耗してしまった。
対してベトラクス王国の兵はほとんど無傷。
当て馬に使っていたアルニヤの兵もベトラクス王国に寝返る者まで出始め、事実上元アルニヤ王国を守るのはキアマート帝国の兵だけとなってしまった。
数では勝てる。
しかし大魔法を使われてしまえばいくらキアマート帝国の軍隊でも負けてしまう可能性がある
「早急にカーム王国を打ち倒しレベリオ王国へ侵攻すればベトラクス王国も引きましょう。我らの兵力であればそれも出来ます。陛下御決断を」
ソームはそこまで行って深々と頭を下げる。
それを眺めていた皇帝ロメルは口元をゆがめ言う。
「師を越えようとするのは難しいな、ソームよ。だが我がキアマート帝国に敗北は許されない。ランベルよ馬を引け! カーム王国を一気に落とすぞ!!」
皇帝ロメルのその言葉にこの場にいる者すべては平伏してその命を受け動き出すのだった。
* * * * *
「先行は魔物の部隊にいかせて城門を突破する。如何に城塞があろうと城壁を瓦解させれば後は時間の問題だ! 行くぞ!!」
補給班の襲撃の後、魔物たちに食事をさせてカーム王国への再進撃を準備していたキアマート帝国の本陣約六万が一気に動きだした。
先行は闇の森からなる魔物の部隊。
屈強なその体と強い生命力は従来の戦場での常識を覆してきた。
そしてこの世界の常套手段である城門を破壊し、その力で各国を瓦解させて来た。
ランベル将軍は今回も同じ戦法でこのカーム王国の西の町を落城させるつもりだった。
「押せっ! 例え海の悪魔どもがいようと数で押し切れる! ここを突破すればカーム王国の王都なぞすぐにでも落とせる。行けぇっ!!」
ランベル将軍の掛け声でキアマート帝国の主力部隊が動き出すのだった。
* * *
「いよいよ来ましたわね! まずは投石器で数を減らすのですわ! 弓兵と魔法で城壁に取り付く者も狙撃をするのですわ!!」
『始まっちまったかぁ。しかし本物の城塞もほとんど出来あがった。城壁を突破されてもしばらくは持つな?』
城壁にてキアマート軍の動きを見ていたアザリスタはいよいよ動き出した敵に声を張り上げ指示をする。
既にカーム王国の本陣や更にレベリオ王国からの増援も到着している。
総勢二万弱の兵力が今ここ西の町に集結している。
「戦いは数ではありませんわ! 目にもの見せて差し上げますわ!!」
『やだ、アザリスタさんかっこいい! 大丈夫だ、そろそろあちらさんだって問題が出始める頃だ』
相変わらずビキニ姿のアザリスタはその大きな胸をぶるんと震わせ決戦へと立ち向かうのだった。
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