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第二章祖国を守る為に

第十一話:対峙

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 キアマート帝国はカーム王国に侵攻していたその手を止め、前線の一部を残し一旦本陣が敷かれている元ホジスト王国まで後退していた。


「カーム王国に海の悪魔が与すると言うのか?」

「はい、間違いないようです」


 皇帝ロメルはそう言って酒杯をテーブルに戻す。
 集まったラメリア宰相やランベル将軍、そして宮廷魔術師ソームは広げられた地図を見ながら次のロメル皇帝の言葉を待つ。


「例え海の悪魔どもを相手にしようと我らキアマート帝国は前進あるのみ。部隊を再編成し、今一度カーム王国へ攻め入るぞ!」


「皇帝陛下、発言をお許しください」

 皇帝ロメルがそう言うと宮廷魔術師であるダークエルフのソームは一歩前に出てそう言う。

「ソーム、我が決定に不服か?」

「いえいえ、しかしながらどのような手を使ったかは分かりませぬがカーム王国は何時の間にやら城塞まで作り上げていました。このまま侵攻は戦力の消耗も激しく、ここは我らが傘下に入りましたアルニヤ王国を利用するのが良いかと思います」

 そう言ってソームはいやらしい笑をする。
 それを見て皇帝ロメルは片方の眉毛をピクリと動かすも、ランベル将軍に聞く。

「アルニヤ王国の我が軍は?」

「およそ二万。それに加えてアルニヤ軍も我が配下に加われば総勢約四万となりましょう」

 皇帝ロメルはその数を聞き少しの間目をつぶる。
 単純に考えればカーム王国の兵は約一万と五千、援軍として来た魔法騎士団は一般兵を含めても二千程度。そこへ本陣とアルニヤ王国の兵を合わせた総勢十二万の兵で押し寄せればおのずと結果は知れる。


「ふん、つまらんが海の悪魔どもがどれほどいるか分からんからな。良いだろう、ランベル、ソームよカーム王国を落せ!」

「「ははぁっ!」」


 ランベル将軍とソーム宮廷魔術師は皇帝ロメルのその決断に頭を下げる。
 皇帝ロメルはそんな様子を見てから地図を見る。


「北から攻めれば海の悪魔どもも手出しは出来まい。全く、奴等は一体どう言うつもりやら……」


 言いながらまた酒杯を口元に運ぶのだった。


 * * * * *


「キアマート帝国が退き早十日が過ぎましたが、一向にこちらに攻め入るつもりはない様ですわ。お姉さまの策が功を成したのですわ!」

「フィアーナ、まだまだですわ。キアマート帝国はこちらに約八万、アルニヤ王国に約二万の兵を向けたと聞いていますわ」


 最前線であるこの町の城壁からキアマート帝国の軍隊の様子を見ながらフィアーナは嬉しそうにそう言う。
 しかし同じくその先を見ていたアザリスタは後ろに控えていたカローラ王子に言う。

「カローラ様、民兵の方はいかがですの?」

「それが、集まったのはわずかに千と二百程、ほとんどが農民です///////」

 そう言ってカローラはアザリスタから目を背ける。
 まあ、あれほど立派なものをぶるんぶるんされれば目のやり場に困ると言うモノ。


「所でお姉様、まだその格好でいるのですの?」

「何を言うのですわ、私がこの格好をしている限り我が魔法騎士団の精鋭たちも海の悪魔どもを恐れる事なく奮闘しているではありませんの!」


 そう、あれから十日以上経ってもアザリスタたちはビキニ姿のままであった。
 戦場の、しかも美しい騎士団の女性たちが下着同然の姿でいるのは確かに目のやり場に困る。  

 しかし、その聖衣による海の悪魔たちへの恐れはやわらぎ、更に海の住民共を自身の血肉に変えていると言う高揚感で魔法騎士団は既にこの格好に慣れまくり見事な肢体をさらけ出す事に躊躇する者はいなかった。


「確かに海の悪魔たちが食料になるとは思いもしませんでしたわ。ちょっと美味しいですし。しかしそれでもキアマート帝国はあそこへ軍を駐留させこちらを睨んでいますわ、お姉さま」

「そうですわ、だからカローラ様、民兵は全て城塞を作る事にその労力を回してくださいですわ。城塞が出来あがるのにどれ程の時間がかかりますの?」

「この規模ですと、魔術師たちの体力にもよりますが民兵が加われば二カ月程と思われます。それまで持てば如何に大軍とてここを落城させるには時間がかかりましょう」

 城壁に城塞が構えた町を落すのは一苦労となる。
 数に物を言わせ襲おうとしても流石に城壁と城塞の二重の防御は魔物たちを主体とするキアマート帝国には不利ではある。


「後二カ月ですわね? それだけ持てば切り札も使えましょう」

「切り札ですか? 何か策があるのですか!?」

「うまく行けばもうじき次の一手は動きだしますわ、そろそろロメスタが成果を発揮する頃ですわ!」


 アザリスタがそう言っているとちょうど一羽の鳩が飛んで来た。
 それはまるでアザリスタを目指すかのようにここへやって来て城壁に止る。


「まさしくこのタイミングですわね! いい子ですわね、いらっしゃいですわ」


 そう言ってアザリスタはその鳩の足についている手紙の筒を取り、中身を読む。
 そしてにんまりと笑うのだった。
 

 * * * * *


「なんだと? ベトラクス王国が動いただと!?」

 皇帝ロメルは流石にこのタイミングでベトラクス王国が動くとは思っていなかった。
 ましてやベトラクス王国から元アルニヤ王国へ攻め入るとは完全に想定外だった。

「しかも北の大賢者が加担していると噂されています。あの大魔法【隕石召喚】メテオストライクが我が軍やアルニヤの軍に降り注いだと大混乱をしております」

 ラメリヤは皇帝ロメルに頭を下げながらそう言う。


「北の大賢者は世俗には見向きもしないと聞いていたがどう言う心変わりか?」

「恐れながら、アルニヤの王族よりレベリオの魔女が動いたとの話があります。密告をしてきましたが、どうやらレベリオの第一王女、アザリスタが裏で動いているようです……」

 頭を下げているラメリヤの横にソームもやって来て軽く頭を下げながらそう報告をする。

「レベリオ王国のアザリスタだと…… 確かアルニヤの王子から婚約破棄をされたとか言うあの小娘か?」

「如何にも。アルニヤの王族の話では早々に我が軍の配下に収まるに、レベリオとの関係を切る為に婚約破棄をしたと言っておりますがアルニヤの王族はそのアザリスタに王家を乗っ取られる事も危惧していたようです」

 皇帝ロメルはそれを聞きしばし黙り込む。

「武にして世を制覇せし我に智にして対抗するか…… 面白い、その魔女の首、我が必ず取ってくれよう! アザリスタか、首を洗って待っているがいい!!」

 何故かうれしそうな皇帝ロメルはそう言いながら高笑いを始めるのだった。


 * * * * *


「ぶえっくしょんっですわっ!!」

『おいおい、大丈夫か? そんな格好でずっといるから冷えたんじゃないのか?』

「ぐずっ、おかしいですわね? この程度の事でこの私が風邪などひくはずは無いのですのに」

『いやいや、流石にずっとこの恰好じゃなぁ~』

「ふふふふふっ、しかしこの姿とても楽しいですわね。カーム王国の見習い騎士の少年たちが私を見ると顔を赤らませて目を背ける。良いですわぁ、その初心さがたまりませんわぁっ!! きっとこの姿でイケない妄想をですわ…… ぐふっ、ぐふふふふふ……」

『いや、あんたの趣味にとやかく言うつもりはないがほどほどにしとけよ、少年たちが可哀そうだろう?』



 アザリスタは今日も元気のようだった。
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