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第二章祖国を守る為に

第八話:キアマート帝国

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「どうだ奴等は?」

 岩山を越え前線が敷かれる戦場を眺めながらロメル皇帝は聞く。
 カーム王国の西の町は今キアマート帝国の侵攻を食い止めるべくレベリオ王国の魔法騎士団も加わって善戦していた。

 キアマート帝国の軍隊は主力が「闇の森」と呼ばれる場所から引き連れて来た魔獣や魔物である。
 この世界では通常剣と剣の戦いが主流だが魔獣や魔物が徒党を組んで襲ってくるなどあり得なかった。
 こういった類には魔法の補佐が無いと倒せない者もいて今まで侵略された国はそれが原因で負けた所がほとんどであった。

 しかし今回は違っていた。

「戦闘は膠着気味ですな。流石はレベリオ王国の魔法騎士団と言ったところでしょう、敵ながら見事なものです」
 
 やって来たロメル皇帝の質問に同じく戦況を見ていたランベル将軍は腕組みをしながらそう答える。
 それを聞いてロメル皇帝は口元に笑いを浮かべる。

「アルニヤは落した。全く、つまらん連中だった。むしろこちらの方が面白そうではないか?」

「ロメル皇帝、あなたは今では我がキアマート帝国の皇帝ですぞ? あまりお戯れをしてもらっては困ります」

 そう言うランベル将軍にロメル皇帝はニヤリとしながら剣を引き抜く。


「なに、しばしの戯れよ。あの町を攻め落としたら引き下がるわ」


 そう言ってすぐに軍馬を用意させ前線に向かうのだった。


 * * * * * 


「はあっっ!!」


 ザシュッ!!


 ルルシアは魔法で威力を増した剣で大男に牛の頭を持つ化け物を切り伏せていた。

 レベリオ王国からカーム王国に増援できた魔法騎士団はそのほとんどが女性で構成されていた。
 勿論少数の男性騎士もいるのだが、魔法を唱えながらの戦闘は何故か女性の方が適合していた。

 これは男性にはながら作業が苦手な者が多いと言う理由からだろう。
 呪文を唱えながらの行動が上手くできず男性の魔法騎士は大体が戦闘中に詠唱が途切れ魔法発動が出来ないことが多い。

 しかし女性騎士は見事に詠唱をしながら戦闘を行っている。
 結果魔法の効力もあり化け物でさえ斬り伏せることが出来ていた。


「とは言え、流石に魔物が主体の中弓兵の攻撃もあると厄介だ。騎士団は防衛に徹しろ! 弓兵と魔法使いは援護射撃!!」

 ルルシアのその命令を受け、魔法騎士団は城壁にまで下がり進入する魔物を各個撃退する戦術へと変えて行く。
 そして後方からの魔法の炎の矢や通常の矢がキアマート帝国の兵たちに降り注ぐ。
 流石にこの町の城壁を突破するには闇の森の魔物たちでも苦慮していた。

「このまま押し返せ! ここを突破されたら首都まですぐだぞ!!」

 ルルシアのその声にカーム王国の兵たちも怒声をあげて応戦をしている。
 おかげでキアマート帝国の魔物たちが下がり始めた。


「よくやる、ここで一番強い奴は誰だ?」


 その声はこの混戦する中まるで突き刺さるように聞こえて来た。
 そしてその声が聞こえた瞬間、キアマート帝国の兵士たちが動きを止め道を開く。

 その異様な光景にこちらのカーム王国とレベリオ王国の増援部隊も動きを止める。
 それは軍馬から降りて大ぶりの大剣を肩に担ぎ、ゆったりと開かれた道を進んできた。


「我はキアマート帝国の皇帝ロメル! さあここで一番強いやつと一騎打ちをしてやろう。我を負かせば軍は退くぞ?」


 大声でそう言いながら大剣を地面に突き刺す。

 
「ふざけているのか? あれが皇帝ロメルだと??」

 ルルシアは現れたその人物を見てそう言葉を吐き捨てる。
 それもそのはず、皇帝ロメルは奴隷から成り上がった孟者と聞いていた。
 しかし今目の前にいるのはどう考えても少年。
 年の頃十二、三歳くらいにしか見えない。
 その少年が自分より大きな大剣を地面に突き刺し腕を組んで仁王立ちしている。


「ルルシア殿、間違いない。あれはキアマート帝国の皇帝ロメルだ」

 そう言ってこの砦を守るカーム王国の騎士団長は剣を抜きながら前に出る。

「ロゾット殿!?」

 ロゾットと呼ばれたカーム王国の騎士団長は仲間たちの間をすり抜け城壁の外へまで進み出る。
 そして叫ぶように言う。

「これは好機、皇帝ロメルの首を取ればこの戦局を覆せる!!」

 ロゾット騎士団長は皇帝ロメルの前にまで出る。
 そして気合を入れて大声で名乗りを上げる。


「カーム王国が騎士団長、ロゾット参る!!」

「楽しませてくれよ」


 皇帝ロメルが大地から剣を抜いた時だった。



「伝令! 我が軍が海から悪魔に襲撃を喰らいました!! 皇帝陛下、すぐにお戻りを!!」


 その知らせにこの場にいた者全員が凍り付く。

 それもそのはず、海は悪魔の領域。
 この世界ではそう伝えられていて皆海を恐れていた。

 その海から破竹の勢いで侵攻をするキアマート帝国に攻撃が有った?
 一体どう言う事だ?

 皇帝ロメルは一瞬考えるが、今は未知の海からの攻撃の方が気がかりになる。
 なので大剣を軽々と振ってロゾットにその剣先を向ける。


「興が冷めた、この勝負貴様に預ける」


 そう言って剣を引き振り返ろうとするのをロゾットは剣を振り上げそのまま後ろから襲いかかる。

「ふざけるな、覚悟皇帝ロメル!!」


 ぶんっ!!


 小柄な皇帝ロメルの身体にロゾットの剣が触れる瞬間、ロゾットの首は皇帝ロメルの振った大剣によって宙を舞う。


「え”っ!?」


 宙を舞うロゾットの首は最後にそんな言葉を放って地面に転がった。


 ごとっ


「ふん、一騎討をする程のものではなかったか、つまらん。行くぞ!」

「待て皇帝ロメル!」

 振り返り引こうとする皇帝ロメルにルルシアは待ったをかける。
 それを肩越しにちらりと見た皇帝ロメルは言う。

「ふむ、魔法騎士か? 興味深いが今は引く。次に会った時は貴様と一騎討ちがしたいものだな」

 そう言ってまた踵を返して軍馬の元へ行きそれに乗ってこの場を立ち去ってしまった。
 それに習うかのようにキアマート帝国軍も退いて行く。



 ルルシアはそれを見てその場に剣を突き刺し大きく息を吐くのだった。 
 
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