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第十六章
第87話第十六最終章16-4女神
しおりを挟む「うっ、くっ……」
「アイン! アインっ!!」
体がもの凄く重い。
そして力が出ない。
気が付いたときの俺の状態はそんな感じだった。
そして俺の顔にぽたぽたと雫が落ちて来る。
「アイン! しっかりして、駄目よ死んじゃぁッ!!」
「シャル、落ち着きなさい……」
俺の顔にぽたぽたと落ちてきたのはシャルの涙か?
なんだよ、せっかく助かったんだしお前を俺は守るんだぞ?
泣くこたぁないだろうに……
「アイン殿、聞こえますか?」
「学園長か……」
シャルの顔が少しぼやけている。
そしてその横に学園長のあの仮面の顔が見える。
学園長は仮面を外しながら俺を見る。
「何とかあなたの『鋼鉄の鎧騎士』の暴走は止めました。もうあなたはあの『魔人』に取り込まれる事はありません……」
「そうか…… なんか…… すごく疲れた……」
どう言う事だろうか?
体に力が入らない。
そう思っているとシャルの横にシャルによく似た、しかしもう少し年上に感じるエルフの少女がやって来る。
「あなたがアインね…… ごめんなさい。もっと早くエルハイミたちに知らせるべきだったわ……」
「姉さん! 女神様にお願いしてアインを救って!!」
なんだ?
シャルの姉か??
ははっ、姉妹そろって凄い美人じゃないか?
「シャル…… 分かっているでしょう?」
「でもっ! そうだ、エルフの癒しをまた私がすれば! それとも『時の指輪』を産んでアインと私の魂をつなげれば!!」
シャルは姉にそう言いながらぼろぼろと涙を流している。
「やめなさい、シャル。彼は立派に戦ったのよ、この私と。そして分かっているでしょう? いくら異界の魂を持つ者でもあそこまで『魔人』に魂を吸われてしまえば……」
「ティアナさん! お願い、ティアナさんからも女神様にお願いしてっ!!」
なんだ?
シャルの姉以外にも聞き慣れない女の声が……
いや、この声聞いた事が有る、そうだ、あの赤い「鋼鉄の鎧騎士」の女の声だ!
俺は声のした方に瞳を動かす。
たったそれだけでもなかなか思うようにいかない。
しかし何とかそちらを見ると真っ赤な髪の毛でシャルよりさらに年下の様な女の子だった。
アガシタの奴と同じくらいか?
「は、ははははは……」
力なく思わず笑いがこみ上げてくる。
数々の「鋼鉄の鎧騎士」たちを倒してきたこの俺がこんな成人前みたいな少女に負けたのか?
今まで様々な戦場を生き抜いてきたこの俺が!
「いや…… それでも…… 世の中には…… 上には上が…… いるもんだ……」
「あなたは…… それでも立派な戦士だったわ。この私とあそこまで戦ったのだから」
「世辞は…… いらない……」
大きく息を吐く。
なんかだんだん身体の力も抜けて来たな。
「アインっ!!」
シャルが俺を揺さぶる。
なんだろうな、シャルの顔がよく見えなくなってきた。
「エルハイミ、どうにかならないのかい?」
「エリリア様、こればかりはいくら私でもどうしようもできませんわ。最初のティアナが死んだ時と同じく、魂と体のつながりが無くなってしまえばいくら私の力でも……」
エリリアと話すこの声は?
まるで鈴の音のように心地よいその声は俺の耳にすんなりと入って来た。
何とかそちらを見ると金髪碧眼の少女がいた。
そしてそれは俺があの壊された「鋼鉄の鎧騎士」の胸の扉の隙間から見たあの少女だ!
「お、おま…… えは…… ?」
「私はエルハイミ。今はこの世界の女神をしている者です。私と同じく異界の魂を持つ者よ」
「!?」
女神だと?
異界の魂を持つ者だと!?
こいつが、こいつがこの世界の女神か!?
「くそ…… 女神が…… なんの…… ようだ……!?」
こんな時に女神が俺の目の前にいやがる。
気が遠くなる俺にその怒りだけで少し目の前がはっきりと見えるようになる。
「私は、私はただ平穏な世界を望んでいたのですわ。だから人の世界に極力女神である私の力を、私の影響を与えないようにしたかっただけなのに…… 人は不完全すぎたのですわ…… 何百年経っても平穏な世界を受け入れないのですわ…… 結果人々は争い、そしてまた血を流してゆく…… だから人々に希望の光を見せたはずなのに!!」
「俺は…… 神を…… 信じない…… お前らは…… 俺から…… いつも…… 全てを…… 奪う…… ぐっ!」
「アインっ! 駄目ッ!! 女神様、アインを助けてください!! 体が、光って消え始めている!! 女神様! 私の命を使ってもいいです、だから、だからアインを!!」
もう手足の感覚がない。
俺は死ぬのだろう。
しかしシャルはこんな時でも女神なんぞに助けを乞う。
しかも自分の命を差し出すだと!?
もうたくさんだ!!
「やめろ…… シャル…… 生きろ…… お前は俺の…… 希望なんだ……」
「アインっ!」
動かない手をシャルは握ってくれている様だ。
しかし残念ながらもう手の感覚がない。
「守れたんだ…… お前だけでも…… だから…… 生きてくれ……」
「アインっ!! 女神様っ! お願いです、アインを、アインをっ!!」
シャル、もう止めてくれ。
こいつに、女神にすがったって助けちゃくれない。
こいつらはいつもそうだ。
本当に助けてほしい時にその手を差し伸べない。
「シャル……ごめんなさいですわ…… 私の力を使っても彼はもう……」
「嫌ぁっ! アイン、アインっ!!」
すまないな、シャル。
俺はここまでだ。
もうシャルの声も聞こえなくなってきた。
ああ、とうとう死ぬのか。
死んだ後どうなるかなんて知らないが最後にシャルだけは守れた……
もうそれだけでも満足かな?
俺が最後に思ったのはそんな事だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『アイン、聞こえますかアイン?』
いきなり俺はその声をはっきりと聞いた。
もう目も耳も使い物にならなくなった俺にその声は、はっきりと聞こえた来た。
―― どう言う事だ? 俺は死んだのではないか?? ――
『はい、あなたは死にましたわ。とても残念ですが。しかしあなたの魂はまだこの世界に拡散して吸収されていませんわ』
―― そうなのか? まあどうでもいいさ。って、貴様! この声は女神か!? ――
『そうですわ。エルハイミという女神ですわ。アイン、あなたは死にました。しかしあなたの魂は異界の魂。転生する資格がありますわ。あなたは転生を望みますか?』
―― やめろ女神! 転生だと? またテグの奴隷にでもするつもりか!? 冗談じゃない。散々俺を使ってまた俺を利用するつもりか? ――
『いえ、あなたはあなたのしたい事をしてくださいですわ。あなたの魂は特別なのですわ。だから私のもとへ来てもらえないでしょうか?』
―― なんだと? この俺に女神の下僕に成れってのか!? 冗談じゃない!! そんなモノになるくらいならこのまま消えた方がマシだ!! ――
『落ち着いてくださいですわ、アイン。このままあなたの魂がこちらの世界で霧散するとその異質の魔素がまた良く無いモノを呼び込みますわ。あなたが守ったモノがまた危険にさらされるかもしれないのですわ』
―― ふざけるな! 俺が良く無いモノを呼び寄せるだと!? ――
『あなたの魂はそう言う運命を背負っているのですわ。だから私のもとに来ませんか? そうすればその魂は輪廻転生をしてこの世界に影響を及ぼさず安定を致しますわ』
―― 断る! 神の使い何ぞやれるか!! ――
『シャルは、シャルの事は良いのですか?』
―― なっ!? 汚いぞ、シャルに手を出すつもりか!? ――
『逆ですわ。シャルを守りたいと思わないのですの?』
―― どう言う、事だ? ――
『シャルはエルフ、姉のシェル同様その寿命は人のそれとはかけ離れたモノですわ。そんな彼女を守るのであれば普通の方法ではダメですわよ?』
―― ……俺に何をしろというのだ? ――
『あなたは何をしたいのですの? あなたの望むモノは何なのですの?』
女神は俺にそう言ってくる。
だから俺は俺の望むモノを言うのだった。
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