33 / 89
第六章
第33話第六章6-4ガレントの影
しおりを挟む
6-4ガレントの影
「なあ、今晩どうだ?」
「百年早いわ、出直して来い」
イザンカ王国の傭兵になって早三か月が過ぎた。
ここはたとえ俺たちの様な者でも仕事さえこなしていれば何も言われない。
そう言う意味では非常に助かるのだが。
「なあアイン、またザシャの奴声かけられてるぞ?」
「ルデンなんで俺に言う?」
傭兵部隊は勝手にイザンカの街、ブルーゲイルには入れない。
まあ、ならず者の俺たちから善良な市民を守る為と言えば仕方ないが、そうなると余計に羽目を外したくもなる。
一応傭兵用の酒場は有るが女を抱くところがない。
だから合法的に傭兵同士でああ言った事が行われるわけだが。
「ザシャっていい女だからな、やっぱ人気あるよな?」
「ルデン、お前溜まっているのか?」
仲間の下の世話なんぞ俺にはできない。
気持ちはわかるがそこは自分で何とかして欲しいもんだ。
「いや、相手にされないだろうしすぐに終わっちまう、あの時みたいにな‥‥‥」
苦笑するルデンを見ながら俺もつられて苦笑する。
「おい、アイン。ビブラーズ隊長がお呼びだぞ? また『鋼鉄の鎧騎士』の出番のようだ」
オクツマートがやって来て俺に伝えてくれる。
オクツマートやルデン、ベリアルは通常の傭兵部隊に配属されている。
ザシャは精霊魔法が使える数少ない人材なので本体直属の魔法部隊にいる。
そして俺は勿論「鋼鉄の鎧騎士」部隊に所属する。
現在世界各国で攻めるも守るも「鋼鉄の鎧騎士」が戦争の決定打になっているが、イージム大陸のような特殊な所ではそれ以外にも重宝されている。
このイージム大陸は異常に魔物や魔獣が多い。
おかげでここで生きていくには力が無ければ死んでしまう。
そして一般人でさえ、いや、農家の畑でさえ通常では考えられない程の城壁や堅強な柵の中で守られている。
なので作物を作るのでさえなかなか畑を拡張できずに収穫量も限られてしまう。
だから森に入り狩りをするのが多い。
だが、今回呼ばれて行って隊長から聞かされたのはそんな狩人たちからの情報だった。
「本来イージム大陸にはほとんどいないヒドラが発生した。この近くの森でだ。今回はそのヒドラ討伐が仕事だ」
ビブラーズ隊長はそう言いながら目撃の詳細を説明始める。
「珍しいな、こんな所でヒドラとは‥‥‥」
「あんたもこっちか?」
説明を受けているとザシャが俺の横にやって来た。
相変わらず面白くもなさそうだがそれでも口はきいてくれる。
「サージム大陸には沢山いるがこんな所にいるとはな。しかし並の人間では歯が立たないだろう。『鋼鉄の鎧騎士』でもモノによっては吐き出す炎に耐えられず中身の操縦者が蒸し焼きになる場合もあるからな。厄介な相手だ、だから魔法を使える者も呼び出されるだろう」
そう言ってビブラーズ隊長の説明を受ける。
「西の森の狩場はこの街の貴重な食料調達場だ。早急にヒドラを見つけ出し討伐するぞ!!」
最後にそう言って準備を始める。
俺は言われた通りに「鋼鉄の鎧騎士」部隊に戻るのだった。
* * * * *
「鋼鉄の鎧騎士」部隊は全部で六機。
どれもこれも旧型でその見てくれは俺のも含めぼろぼろの見た目の物が多い。
『待機と言われてもなぁ』
『ハイルド、これも仕事だ。ここで待つのも儂ら勤め、それよりあまり無駄に魔力を使うでないぞ? 急時に魔力切れではかなわんからな』
三機づつ交代となったがバビルを小隊長とするこの「鋼鉄の鎧騎士」部隊も癖のある奴等ばかりだった。
ハイルドと呼ばれるこいつはどうやら元貴族で家が没落した時に唯一所有していた「鋼鉄の鎧騎士」を持ち出しここまで来たと聞く。
この部隊の中では俺に次いで若いがそれでも確か二十八だったはず。
『分かってるって、バビル小隊長殿。こいつだって今は待機状態で魔力何ぞ周りを見る事くらいにしか使ってない』
他の者に何か言われるのが一番嫌いなハイルドだがそれでもバビル小隊長には大人しく従う。
城壁から出て臨時の拠点を西側の森の前に作った俺たちは「鋼鉄の鎧騎士」をいつでも森に突っこめるようにしてはいるものの、レンジャーの連中がヒドラを見つけ出すまで暇なのは事実だった。
「アイン、聞こえるか?」
すっと俺の「鋼鉄の鎧騎士」の肩に姿を消したザシャが現れた。
彼女がこうしてやって来るとは、何か有ったのか?
『どうした?』
俺は「鋼鉄の鎧騎士」の外部音声をかなり絞ってザシャに聞く。
「森の様子がおかしい。いや、それだけではない。ヒドラ以外にも何か潜んでいそうだ」
ヒドラ以外にも何かいるって言うのか?
一体何が?
「私はビブラーズ隊長にこの事を話して来る。お前らも気を付けるがいい。この感じ、良いモノではない」
『‥‥‥分かった』
ザシャの豊富な経験が警銅を鳴らしているのだろう。
俺は素直にその言葉に従う。
そして俺はひそかに「鋼鉄の鎧騎士」の知覚拡大を始めるのだった。
「なあ、今晩どうだ?」
「百年早いわ、出直して来い」
イザンカ王国の傭兵になって早三か月が過ぎた。
ここはたとえ俺たちの様な者でも仕事さえこなしていれば何も言われない。
そう言う意味では非常に助かるのだが。
「なあアイン、またザシャの奴声かけられてるぞ?」
「ルデンなんで俺に言う?」
傭兵部隊は勝手にイザンカの街、ブルーゲイルには入れない。
まあ、ならず者の俺たちから善良な市民を守る為と言えば仕方ないが、そうなると余計に羽目を外したくもなる。
一応傭兵用の酒場は有るが女を抱くところがない。
だから合法的に傭兵同士でああ言った事が行われるわけだが。
「ザシャっていい女だからな、やっぱ人気あるよな?」
「ルデン、お前溜まっているのか?」
仲間の下の世話なんぞ俺にはできない。
気持ちはわかるがそこは自分で何とかして欲しいもんだ。
「いや、相手にされないだろうしすぐに終わっちまう、あの時みたいにな‥‥‥」
苦笑するルデンを見ながら俺もつられて苦笑する。
「おい、アイン。ビブラーズ隊長がお呼びだぞ? また『鋼鉄の鎧騎士』の出番のようだ」
オクツマートがやって来て俺に伝えてくれる。
オクツマートやルデン、ベリアルは通常の傭兵部隊に配属されている。
ザシャは精霊魔法が使える数少ない人材なので本体直属の魔法部隊にいる。
そして俺は勿論「鋼鉄の鎧騎士」部隊に所属する。
現在世界各国で攻めるも守るも「鋼鉄の鎧騎士」が戦争の決定打になっているが、イージム大陸のような特殊な所ではそれ以外にも重宝されている。
このイージム大陸は異常に魔物や魔獣が多い。
おかげでここで生きていくには力が無ければ死んでしまう。
そして一般人でさえ、いや、農家の畑でさえ通常では考えられない程の城壁や堅強な柵の中で守られている。
なので作物を作るのでさえなかなか畑を拡張できずに収穫量も限られてしまう。
だから森に入り狩りをするのが多い。
だが、今回呼ばれて行って隊長から聞かされたのはそんな狩人たちからの情報だった。
「本来イージム大陸にはほとんどいないヒドラが発生した。この近くの森でだ。今回はそのヒドラ討伐が仕事だ」
ビブラーズ隊長はそう言いながら目撃の詳細を説明始める。
「珍しいな、こんな所でヒドラとは‥‥‥」
「あんたもこっちか?」
説明を受けているとザシャが俺の横にやって来た。
相変わらず面白くもなさそうだがそれでも口はきいてくれる。
「サージム大陸には沢山いるがこんな所にいるとはな。しかし並の人間では歯が立たないだろう。『鋼鉄の鎧騎士』でもモノによっては吐き出す炎に耐えられず中身の操縦者が蒸し焼きになる場合もあるからな。厄介な相手だ、だから魔法を使える者も呼び出されるだろう」
そう言ってビブラーズ隊長の説明を受ける。
「西の森の狩場はこの街の貴重な食料調達場だ。早急にヒドラを見つけ出し討伐するぞ!!」
最後にそう言って準備を始める。
俺は言われた通りに「鋼鉄の鎧騎士」部隊に戻るのだった。
* * * * *
「鋼鉄の鎧騎士」部隊は全部で六機。
どれもこれも旧型でその見てくれは俺のも含めぼろぼろの見た目の物が多い。
『待機と言われてもなぁ』
『ハイルド、これも仕事だ。ここで待つのも儂ら勤め、それよりあまり無駄に魔力を使うでないぞ? 急時に魔力切れではかなわんからな』
三機づつ交代となったがバビルを小隊長とするこの「鋼鉄の鎧騎士」部隊も癖のある奴等ばかりだった。
ハイルドと呼ばれるこいつはどうやら元貴族で家が没落した時に唯一所有していた「鋼鉄の鎧騎士」を持ち出しここまで来たと聞く。
この部隊の中では俺に次いで若いがそれでも確か二十八だったはず。
『分かってるって、バビル小隊長殿。こいつだって今は待機状態で魔力何ぞ周りを見る事くらいにしか使ってない』
他の者に何か言われるのが一番嫌いなハイルドだがそれでもバビル小隊長には大人しく従う。
城壁から出て臨時の拠点を西側の森の前に作った俺たちは「鋼鉄の鎧騎士」をいつでも森に突っこめるようにしてはいるものの、レンジャーの連中がヒドラを見つけ出すまで暇なのは事実だった。
「アイン、聞こえるか?」
すっと俺の「鋼鉄の鎧騎士」の肩に姿を消したザシャが現れた。
彼女がこうしてやって来るとは、何か有ったのか?
『どうした?』
俺は「鋼鉄の鎧騎士」の外部音声をかなり絞ってザシャに聞く。
「森の様子がおかしい。いや、それだけではない。ヒドラ以外にも何か潜んでいそうだ」
ヒドラ以外にも何かいるって言うのか?
一体何が?
「私はビブラーズ隊長にこの事を話して来る。お前らも気を付けるがいい。この感じ、良いモノではない」
『‥‥‥分かった』
ザシャの豊富な経験が警銅を鳴らしているのだろう。
俺は素直にその言葉に従う。
そして俺はひそかに「鋼鉄の鎧騎士」の知覚拡大を始めるのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる