テグ戦記

さいとう みさき

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第六章

第32話第六章6-3傭兵部隊

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6-3傭兵部隊


 「よぉしぃ、これより『鋼鉄の鎧騎士』の模擬戦を始める! 双方そこの木刀を取れ。先に一本入れた方の勝ちだ!」


 「鋼鉄の鎧騎士」の模擬戦を仕切る審査官は大声でそう言って壁際に立てかけてある模擬戦用の木製の剣を指さす。
 実力を試すには戦わせるのが一番早い。
 それに持ってきた「鋼鉄の鎧騎士」の状態も分かる。

 既に「鋼鉄の鎧騎士」に搭乗をしていた俺は言われた通りその木刀を手にして軽く振ってみる。
 そしてその木刀のバランスを確かめながら相手を見る。

 俺の相手はホリゾン製の旧型の「鋼鉄の鎧騎士」だった。
 もしや俺たち同様に軍から抜け出した奴か?

 しかし考えてみればお払い箱の払い下げ「鋼鉄の鎧騎士」は意外と世の中に出回っている。
 勿論その性能や状態はピンキリだがどれもこれも一つ言えるのは魔力総量の少ない奴はまず動かせないという事だ。
 逆に魔力総量が多い奴が乗ると多少悪い機体でも性能以上に力を発揮できることもある。

 だから「鋼鉄の鎧騎士」は外観だけでは分からない。


 『まあそれでも負けるつもりはないがな』


 俺はそうぼやいて模擬専用の広場に来る。
 周りには面白がってその様子を見に来ている傭兵たちでいっぱいだ。


 「アインー! 負けたらお前のおごりだぞ!!」

 ルデンが手を振りながら俺を応援している。
 俺は苦笑してから位置につく。


 「よし、はじめっ!!」

 審査官のその声で相手の「鋼鉄の鎧騎士」が動き出す。
 古いわりにその動きはスムーズで隙が無い。

 だが。


 かぁあああぁぁぁんっ!


 打ち込んできたその一撃を俺は簡単に弾き飛ばす。
 そして空いた胴体に木刀をゆっくりと入れようとすると弾かれた木刀の柄でその木刀の腹を叩き落した。


 『やるな!』


 思わず声が漏れる。
 手加減した一撃ではあったが見事に防がれた。
 
 相手の「鋼鉄の鎧騎士」は流れるようにその剣をまた構え今度は鋭い突きを放って来る。
 だがいくら鋭くてもその動きは俺にとってスローモーションのように感じる。
 これは多分機体の差だ。
 
 俺はその突きをワザとぎりぎりでかわしいかにも危なかったという風に立ち舞う。
 そしていったん大きく下がり盾を構え警戒するそぶりを見せる。
 
 と、相手の「鋼鉄の鎧騎士」が上段に木刀を構えた。

 次の一撃で決めるつもりか?
 俺も隙無くその様子と出方を見る。

 だが相手の「鋼鉄の鎧騎士」は動かない。
 完全にこの一撃で勝敗を決めるつもりだ。


 ならばっ!


 ドンっ!


 俺は盾を構えたまま突っ込む。
 その動きをそこそこ早くして相手の懐に入ろうとすると上段に構えたいた木刀を渾身の力を込め振り下ろしてきた。


 と、俺の頭の中に体の一部に魔力を集中して瞬間だけ肉体強化するイメージが飛び込んできた。
 「操魔剣」と言う言葉が頭の中に鳴り響いた。


 『こうかっ!』


 どんっ!


 振り下ろされる相手の攻撃が入る前に俺の「鋼鉄の鎧騎士」はその瞬間だけ驚く速さで相手の懐に入りその胴体に木刀を入れる。


 ばきっ!


 スピードも相まって俺の握りしめていた木刀は相手の胴体に入ると同時に折れてしまった。


 「そこまでっ!」


 審査官の終了を告げる声がして模擬戦が終わった。
 途端に見物をしていた傭兵たちが声を上げる。

 「畜生! 新入りが勝っちまった!!」

 「まさか負けるとはな‥‥‥」

 「ははっ! 大穴だったな!!」

 賭けでもやっていたのだろうブーイングと喜ぶ声が交互に聞こえる。

 まあ本当は余裕で勝てたがギリギリに最後に火事場の馬鹿力のように相手に必殺の一撃を入れたかのように見えただろう。
 俺は「鋼鉄の鎧騎士」を座らせ胸の扉を開く。
 向こうを見ると相手も同じく機体から降り、こちらを見ながら苦笑をして頭を掻いている様だ。
 その表情はしてやられたという感じだったが恨みを買うような風には見えない。

 審査官はうれしそうな表情で俺を呼ぶ。
 俺は審査官の近くまで行く。

 「見事であった。お前たちを傭兵として雇おう! しかし最後のあれは凄かったな? あんなぼろぼろの『鋼鉄の鎧騎士』なのによくもああ動けるものだな?」

 「こいつは古いが特別なんだ。よろしく頼む」

 俺は審査官と握手をして残りのこまごまとしたことを話し始める。
 すると‥‥‥


 「見事だったな、あの機体見た事がないが何処のだ? いや、すまん聞く必要は無いな」


 いきなり声を掛けられた。
 先程は遠くでよく見えなかったが、よくよく見れば老齢に近い人物だった。

 「儂の突きを見事避けるとは、かなりの腕か『鋼鉄の鎧騎士』が優秀かだが‥‥‥ どうやら両方のようだな?」

 「アインと言う。あの『鋼鉄の鎧騎士』にはあんたが?」

 「ああそうだ。バビル=フォーチェンだ。しかし儂も年だな、あの一撃をかわされるとはな」

 「いや、あの機体でよくもあそこまで動けるもんだ」

 俺はそう言いながら手を差し出す。
 するとバビルは素直にその手を握り返す。

 古参の傭兵独特のごつごつとした手。
 数々の戦場を切り抜けてきたのだろう。
 近くでよく見ると顔や腕にたくさんの傷がある。

 何となく好感を持てる人物だった。 

  
 「歓迎するぞ若いの。ようこそこのくそったれの傭兵隊にだ」

 「飯が喰えれば文句は言わんさ、よろしくな」


 そう言っているとまた別の奴が声を掛けて来た。

 「バビルに勝つとはな‥‥‥ 傭兵隊を預かるビブラーズだ。早速明日から編成隊に入ってもらって仕事をしてもらうぞ?」

 「アインだ、分かった」


 俺はそこまで言ってから仲間たちのもとへ戻って行ったのだった。
 
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