テグ戦記

さいとう みさき

文字の大きさ
上 下
2 / 89
第一章

第2話第一章1-1目覚め

しおりを挟む
 ―― 2342年8月 ヘミュンの街近郊 ――


1-1目覚め


 「うっ? 俺は‥‥‥」


 目が覚めた。
 体中が痛い。
 まだ意識がはっきりとしない中俺は目覚めた。
 視界はまだぼやけているし周りの音もよく聞こえない。
 俺は確か前線の中で突撃命令が出て仲間たちと一緒に‥‥‥

 「ぐっ、どうなったんだ? いや、俺は‥‥‥」

 痛む体を引き起こし初めて気付いた。
 荒野の所々から煙を上げたこの戦場に仲間の死体が俺にのしかかっているが無残にも半分が焼けただれて死んでいた。
 周りを慌てて見ると同じような傷で絶命している仲間たちがいる。

 「お、おい、おまえあらっ! 救急車っ!」

 そう言って俺ははたと気付く。

 救急車だと?
 この世界にそんなものはない。
 ここは剣と魔法の世界。

 なのに俺の記憶から湧き上がるこれは?


 ずきっ!


 激しく頭が痛んだ。
 この状況に混乱をしているのだろうか?
 そしてドクンと心臓が高鳴る。

 なんだこれ?
 俺も死ぬのか?

 そう思った途端周りの騒音が聞こえて来た。


 「撤退だっ! 逃げるぞ!! おい、そこのお前、生きているなら走れ!! 奴らの『鋼鉄の鎧騎士』がやって来るぞ!!」


 どうやら仲間の軍人らしい。
 俺は痛む頭を抱えてなんとか立ち上がりそれを見る。

 それは戦場の焼けただれた大地の向こうから土煙をあげて歩く「鋼鉄の鎧騎士」たち。
 身の丈六メートルを超えるその魔道兵器はゴーレムより強く魔術師のちんけな攻撃魔法は全く受け付けない。

 ガレント王国のこの化け物の軍団に俺たち傭兵を含む部隊が敵う訳もない。
 本国の騎士団にも「鋼鉄の鎧騎士」はいるが俺らの様な前座の部隊にはそんな大そうな魔道兵器は与えられない。

 せいぜいこの一回使ったら終わりの魔装具の剣くらいか?

 俺は立ち上がりそんな事を思い出す。

 この戦場でにらみ合っていた両軍はその戦線の切っ先を開いた。
 通常の合戦が始まると思い、最前線の俺たちの部隊は突撃命令に突っ込んだは良いがすぐに魔光弾の嵐に会い吹き飛ばされていった。
 俺もその中の一人。
 そして今知った衝撃の事実が相手側の引っ張り出してきたあの魔道兵器、「鋼鉄の鎧騎士」だ。
 普通の兵士にあんなバケモノの相手が出来る訳がない。

 悔しさに奥歯を噛むが所詮消耗品の傭兵部隊。
 しかも俺はテグの出身だ。
 そう、地下奴隷層の出身。

 俺は踵を返して走り出す。


 せっかく拾った命、こんな所で終わらせてたまるか!



 俺は仲間だった死体を踏みつけ本陣が待つ丘の向こうへと逃げ去るのだった。
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

処理中です...