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第十六章:破滅の妖精たち
16-21ジルの村の授業その1
しおりを挟む翌日朝から私たちは村の上にある学び舎に来ていた。
「ううぅ、本当にみんなこんな道を毎日通っているんだ……」
「どうしたのお姉ちゃん?」
断崖絶壁の上にあるような学校は一歩間違えれば谷底に真っ逆さまに落ちてしまうような場所。
こんな危なっかしい場所に子供たちは毎日通っている。
しかも万が一落っこちても自力で上って来られるって、この村ってやっぱり普通じゃない。
「やっと着いた……」
何とか危なっかしい道を上り終わると学校の庭に着いた。
既に何人かがやって来ていて掃除をしていた。
「おはよう、無事来られたか?」
「おはようございます、アインさん」
「おはよう~」
掃除している子供たちを見ていたらアインさんがやって来た。
挨拶されたので挨拶を返す。
そして聞く。
「あの、私たちもお掃除手伝いましょうか?」
「ん? ありがたいがあれは宿題をやってこなかった罰だからな、手伝いをしてしまっては教訓にならん」
え~。
あれって当番とか何かじゃなくて宿題やって来なかった罰なの?
言われて見ればなんかしょんぼりしながら掃除している子供たち。
「罰で掃除ですか……」
「ああ、平和的なペナルティーだろ?」
平和的なペナルティーねぇ。
確かに罰としては有効なのかもしれないけど。
「さて、授業を始めようか。教室に来なさい」
アインさんはそう言って私たちも教室へ来るように言うのだった。
* * *
「今日はエルフの二人も一緒に授業を受ける。みんな仲よくしてやってくれ」
はーいぃっ!
教室に入ると、十数人の子供たちがいた。
年齢的には小学生から中学生くらいまで。
みんな一緒の部屋にいた。
私たちはアインさんに言われ自己紹介をする。
「えっと、リルと言います。見ての通りエルフ族です、よろしく」
「ルラだよ~、よろしく~!」
私たちがそう挨拶すると、子供たちはざわざわとざわめく。
「シェル様と同じだ」
「もしかしてシェル様と女神様の子供?」
「双子だぁ~」
わいわいがやがや
いや、興味を持ってくれるのは良いけど、シェルさんとエルハイミさんの子供じゃなーぃいいぃぃっ!
思わずその所だけは訂正しようとしたら先にアインさんが口を開く。
「自己紹介はもう良いだろう、授業を始めるぞ。リルとルラはそうだな、パルムの隣にでも座ってくれ」
そう言って指さす場所は昨日の獣人の男の子だった。
私とルラは頷いてから彼の隣に行く。
「よろしくね」
「よろしく~」
「うん、よろしく。お姉ちゃんたちってシェル様の子供?」
「違います、断じて!!」
思わず子ども相手に即答してしまった。
変な勘違いされて変な勘違いのままではよろしくない。
なのでたとえ相手が子供でも真実だけはしっかりと伝えた。
「ふーん、そうなんだ」
パルム君はそれだけ言って前を見る。
するとアインさんが授業を始めるけど、何と普通の授業だった。
午前中は文字の読み方とか計算の仕方など生活するうえで必要な知識が中心だった。
ただ、その合間合間に外の世界だと思われる事を話の中に混ぜ込んで退屈な授業を興味を持ってもらうようにしている所は流石だった。
「さて、それじゃぁ座学はここまで。そろそろ昼だからみんなで昼食をとってから午後は実技だ」
そうアインさんが言うとみんな立ち上がって喜ぶ。
何をそんなに喜んでいるんかパルム君に聞いてみると、何と今日は「鋼鉄の鎧騎士」を使った実技だとか。
いや、「鋼鉄の鎧騎士」と使った実技って何っ!?
思わずパルム君に突っこもうとしたらさっさと席を立ってみんなで教室の外へ出て行ってしまった。
「リルとルラも急いだほうがいいぞ、ここでは早い者勝ちだから下手すると昼食が無くなってしまうぞ?」
「え”っ?」
「それやだ! あたしもご飯食べる!!」
アインさんにそう言われて私たちは慌ててみんなの後を追うのだった。
* * *
食堂はアインさんの自宅だった。
あの入ってすぐの居間ではテーブルに丸椅子がびっしりと並べられ、お椀にシチューがよそられていた。
「先生、これ先生の分。あと言われた二人分も取っておいたわ」
そう言って見た感じ二十歳くらいの女性が私たちにもお椀を手渡してくれる。
誰だろうと思ってその人を見ていると、気付いたようでにっこりと笑って挨拶をしてくれる。
「一応血縁上は先生の妹よ。ラーシアと言います。産みの父と母はもうなくなってしまっているの。だから先生の周りの事は私がやっているの」
「あ、どーも。リルです。こっちは双子の妹のルラです」
「ルラだよ」
そう言えば昨日はこのラーシアさんには会わなかった。
結構綺麗な人で、言われなければアインさんの奥さんと間違えてしまいそうだ。
奥さん……
「あの、アインさんラーシアさんの事はシャルさんには……」
びくっ!
私がこっそりとアインさんにそう聞くと思わずビクッとなって脂汗を流し始める。
そしてぎぎぎぎっとこちらを向いてから小声で言う。
「頼む、シャルには内密に! この村では例え血がつながった者でも前世の絡みがあるから下手な事言っても信用されんからな……」
「前世って…… まさか!!」
私がそう言うとラーシアさんは顔を少し赤くして言う。
「今世で関係は持ってませんよ、ちゃんと妹として先生の身のまわりだけ見てますから」
そう言うラーシアさんはアインさんに横目を流す。
アインさんは更に脂汗をかいて首を振る。
「ないぞ、今は実の妹だし、絶対に手なんか出してないぞ?」
「誰もそこまで聞いてません。分かりました、シャルさんには内緒にしておきます…… って、そうだ! 連絡!! アインさん、ここって風のメッセンジャーありますよね!? エルフの村に私たちの事伝えないと!!」
あまりにもバタバタしていて私たちの事をみんなに伝えることを忘れていた。
しかし、アインさんは首を振って言う。
「リルとルラの事は既にシェル様がエルフのネットワークで伝えてるはずだ。いろいろ有ったらしいが全てシェル様が対応してくれたらしい。だから安心しろ」
「シェルさんが対応?」
なんか余計に心配になって来るのは何故だろう。
しかしとりあえず私たちの事はみんなに伝わっているらしい。
正直申し訳ない。
特にヤリスには……
でもユカ父さんもマーヤ母さんも、多分エルフの村の本当のお母さんやお父さんも心配していただろう。
少なくともソルミナ教授やマーヤ母さんから伝わっているはずだ。
「……心配か?」
「私たち、皆さんに酷い事しちゃったから……」
アインさんは私の様子に気付いてそう言ってくれる。
しかし私の背中をポンと軽くたたいて言う。
「後悔したならその償いをすればいい。リルやルラはエルフなんだ、時間はたっぷりとあるさ」
「そう、いう、もんですかね……」
「ああ、だから俺は後悔を、償いをする為にみんなに穏やかな心で、温和になってもらいたい。そう言う優しい世界にする為に。さ、シチューが冷めてしまう。早く食べよう、ラーシアの飯はうまいぞ?」
そう言われて私はラーシアさんが作ったお昼ご飯を食べ始めるのだった。
……これ、かなり美味しい!!
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