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第十六章:破滅の妖精たち
16-14神話
しおりを挟むこの世界には最初、「始祖なる巨人」がこの世界に存在していた。
それは全ての始まり。
しかし孤独を憂いた始祖なる巨人は自分の身体から女神である娘たちを生み出した。
そして女神たちによる世界創生が始まった。
作り上げられた世界は大地があり、海があり、空があり、そして緑があり様々な生物が生まれ出た。
それを喜んだ始祖なる巨人は空に赤と青の月を作り娘たちに贈った。
全ては美しく、孤独と決別した始祖なる巨人は楽しき時間を過ごした。
が、ある時始祖なる巨人は小さな傷が原因で死に絶えてしまった。
死したる始祖の巨人の骸から剥がれ落ちた爪は龍たちとなり、骨からは巨人たちが生まれた。
そして混沌が始まる。
女神たちは父なる始祖の巨人から生まれ出た脅威である暴れる龍と巨人たちを何とかしたかった。
しかし自分たち同様始祖なる巨人から生まれた彼らは力が強く、例え女神でも滅する事はままならなかった。
そこで始祖なる巨人の魂に助言を求め、父が死した大地の土より人間たちを作り従わせよと助言を受けた。
これが人族誕生の秘話である。
人族を従え、女神たちは龍族や巨人族の数を減らし大人しくさせた。
世界はかりそめの安定を覚えたが、増えた人間たちは各々の従う女神こそが唯一の神と崇め、争いを始めてしまった。
それは女神どうしにも伝わり、次第に女神どうしで争いが始まった。
それが「女神戦争」。
そして戦の女神であるジュリ様を祀った人たちがジュメルの祖先となる。
「当初ジュリ教は単に敵対者と勇敢に戦う事を推奨していましたわ。しかし時代が移り、戦う相手とその意味が変わって来るとジュリ様は『戦うのは己自身であり、おのれを治する為に戦う』と教えましたわ。しかしそれを歪曲して解釈した者がジュメルの始まりなのですわ」
エルハイミさんはそう言ってアリーリヤを見る。
しかしアリーリヤは黙って下を向いたままだった。
「ジュリ様のその理念を『戦う事』、つまり相手を殲滅する事が重要と歪曲したジュメルは、女神たちがその肉体を失い天の星座にその魂を宿した事をいい事に、女神の言葉を使って時の権力者たちまで取り込んで静かに、そして深く世界にその根を張りましたわ。そして千年前、当時のジュメルの十二使徒の一人、ヨハネスにより異界の神が召喚されこの世界の危機が訪れましたわ」
エルハイミさんはそう言って目の前にまるで薄型テレビのように画像を映し出す。
それは凄惨な戦いの様子だった。
身長五十七メートルはありそうな見るからに悪役の魔人と女性で全身を鎧で固めた銀色の長い髪を振りまくもの凄い美人が対決してたりもする。
「これは先代の女神、天秤の女神アガシタ様ですわ。彼女は異界の神と戦い、その力を使い果たしそして後の世界をこの私に託しましたの。ですから私はこの世界を安定させる義務がありましたの」
その映像の中でエルハイミさんは最後毛むくじゃらの悪魔のような相手を葬り去る。
そしてその画像を消してから言う。
「私は正直、愛するティアナの為にこの世界の女神になる事を承諾しましたの。今のこの世界を可能な限り安定させ、そしてこの世界の住人たちで世界を発展してもらおうと思っているのですのよ?」
「しかし、それでは貧富の差もなくならない。苦しむ人々は救えない!!」
「ですので私を崇める女神信教が出来あがったのですわ。古き時代の女神たちの了承を得てですわ。そして世界をより良い方向へ導くためにシーナ商会を立ち上げ、各地にその恩恵が行くように努力をしていますのよ?」
エルハイミさんはそう言ってシェルさんを見る。
シェルさんはそれを受け静かに頷く。
「確かに全部の人たちを救う事は出来ないわ。その行為は偽善かもしれない。しかしこの不安定な世界を少しでも安定させるために私はエルハイミに協力している」
「そうですね、お母様がそれを望むのであれば、このコクも全身全霊を使いそれに従うまでです」
コクさんもそう言って静かに頷く。
「でもエルハイミさんは可能な限りこの世界には手を出さないのでしょう?」
そこまで黙って話を聞いていた私は思わず聞いてしまった。
「確かに、基本的には私はこの世界の住人たちにこの世界を任せていますわ。但し、大きな戦や問題が起こった時は人知れず可能な限り影響を与えずに陰ながら処理をしてまいりましたわ」
エルハイミさんは私の疑問にそう答える。
そして手を振るとまたまた薄いテレビのような画像が浮かび上がり、いろいろな場面が映し出される。
それは「鋼鉄の鎧騎士」の戦う戦争だったり、荒れ狂う魔人たちとの戦いだったり。
ただ、そこには常に真っ赤な髪の毛の少女たちが一緒だった。
「あの、この赤い髪の人は?」
「彼女がティアナですわ♡ 何時も私と一緒に世界の安定に協力してくれて、時には私の子供を産んでくれてと、私の永遠の伴侶なのですわ!!」
そう言うエルハイミさんは一番の笑顔で言う。
が、すぐにしょんぼりとしてしまう。
「ですが、今回は既に他の方と所帯を持ち、あまつさえは二人目の子供まで…… あの浮気者ですわ!!」
びきっ
わなわなと震えて手に持ちティーカップにひびが入る。
「どうどう、いい加減にエルハイミも今回はあきらめなさいよ。ナディアだって記憶が戻る前に彼と結婚してしまったのだから」
「お母様、寂しいのならこの私がお慰めいたします! 勿論夜のお相手もさせていただきますから好きにして下さって良いのですよ!!」
「いや、あんた何言いだすのよ! あたしだってエルハイミとしたいわよ! 全然傷物にしてくれないんだから!!」
赤裸々にとんでもない事を言い出す二人。
みんなの前で話す内容じゃな―ぃいっ!!
「だとしてもそれで納得など行くか! 我らが崇める神が例え古き女神だったとしても、我らの高尚な意思は変わらない! たとえこの身が滅んでも貴様を許さない、貴様はこの世界を、私を!」
「アリーリヤ、いえ静香もう止めようよ! エルハイミさんもごめんなさい。だからアリーリヤに酷い事しないでください!!」
それでもなおエルハイミさんに喰ってかかるアリーリヤをかばうように私はエルハイミさんにお願いをする。
せっかく再び会えた私の親友にこれ以上この世界で酷い目にあっては欲しくない。
「リル、それなら彼女の魂の呪いはもう解除してありますわ。後はジュメルなどという組織から抜け、この世界の秩序にのっとった余生を過ごしてもらえば彼女ほどの魂の持ち主であればジルの村に生まれ変われますわ」
そう言うエルハイミさんはなんかドヤ顔している。
いや、魂の呪いとか言うのを解除してもらったのは嬉しいけど……
「結局この私さえ利用するつもりか? ふざけるな女神! 私は、私はぁっ!!」
「ちょ、ちょっとアリーリヤ! まさか!!」
イリカがいきなり焦り始める。
しかしアリーリヤは唇をかみしめ血を流す。
そして叫ぶように言う。
「我が魂と血肉を使いここにその盟約を果たせ!! 我らジュメルが七大使徒の血肉を使い現れよ、我らが神よ!!」
「ひぃいいいぃぃぃっ! それダメぇっ! 私はまだ死にたくないぃいいいぃぃぃっ!!」
アリーリヤのその叫びにイリカも慌てふためくが、アリーリヤが流した唇の血が床に落ちた瞬間魔法陣が現れる。
そしてその魔法陣が光ると同時にエルアイミさんが驚く。
「これは、悪魔召喚の魔法陣ですわ!! しまった、まだジュメルには悪魔召喚の技術が残っていたのですの!?」
「エルハイミ、対魔結界を!!」
「お母様! くっ、媒介がジュメル七大使徒だから展開が速すぎます!!」
驚くエルハイミさんにシェルさんが叫び、コクさんがエルハイミさんをかばうかのように前に出る。
が、
「いやぁあああぁぁぁ…… あがっ! あがぐがぁ……」
「はぁはぁ、せめて女神に一矢報いるのよ!!」
その魔法陣にアリーリヤとイリカの魂と血肉が吸われてゆく。
二人はまるでミイラのように干からびて行きそして魔法陣が更に光を増す。
「ダメですわ! 対魔結界が間に合いませんでしたわ!! 異界の悪魔がこちらの世界に現れてしまいますわ!!」
エルハイミさんのその叫びの中魔法陣が爆発的な光を放つのだった。
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