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第十六章:破滅の妖精たち
16-11女神
しおりを挟むあたしは目の前のエルハイミさんを睨みつけていた。
「う~ん、そんな怖い顔をされましても何がどうなっているのか説明してもらわないとわかりませんわ」
きょとんとしながら平和そうな顔でそう言う。
何となくムカッと来る。
私たちが不幸になるのはエルハイミさんが我が儘で、この世界をちゃんと管理していないせいだ。
だから私はアリーリヤに協力している。
「エルハイミさん、酷いです。あなたの我が儘で世界は矛盾だらけです。静香……いえ、アリーリヤだってそんな世界が嫌だからジュメルになってこの世界を破壊しようとしているのですよ!」
「はい? 私が我が儘ですの? それに彼女はジュメルだったのですの!?」
私の文句に驚きの表情をするエルハイミさん。
どうやら自分が我が儘である事すら気付いていない様だ。
「そうです、エルハイミさんは我が儘です! だってこの世界は貧富の差が激しくそして有力な人はみんなエルハイミさんが転生してもジルって村で掻き集めちゃって自分の思いどおりにしてるって話じゃないですか! こっちの世界に来てもう千年以上いるって言うならあっちの世界の知識でもっとこっちの世界を便利にしたって良いじゃないですか!」
私は思わずいきり立ちながらそう言う。
するとエルハイミさんは更にきょとんとしてしばし考えこむ。
「えっと、リルはあちらの世界の転生者ですわね? どの時代辺りか分かりませんが多分私のいた国で私の時代とあまり変わらない時代見たいですわね。だとすれば私はこちらの世界をこちらの自力で発展してもらう事を望んでいますわ。確かに魔道を使った便利道具とか人の時代に作りましたが、それはこの世界の住人としての事。女神になってからは人の営みに極力干渉をしないようにしていますわ。でないと経済戦争が起こりますわよ?」
経済戦争?
なんで発展すると戦争が起こるのよ?
「だって、貧富の差はあちらの世界の知識があれば……」
「あちらの世界はあちらの世界ですわ。あちらの世界の知識をおいそれとこちらの世界に広めすぎるとただの戦争ではなく経済という目に見えない戦争が始まりますわ。それは人々の見えない水面下で起こり、国家の管理を逸脱し、そしていつの間にかその権力が国家をうわまる、そうなってしまえば武力蜂起が起こりテロリストによる無秩序の状態が多発し、国家の治安は著しく悪くなりますわ。結果、世界は更に貧困が進み管理すべき国家も機能をしなくなり人々の苦しみは今以上になりますわ。確かにこの世界にはまだまだ貧困が存在しますわ。ですから私の名のもとに女神信教は人々の救済に手を差し伸べていますわ。孤児などに関しても努力した者はシーナ商会に抜擢され、ベイベイの館で訓練を受け、世界各国に散らばるシーナ商会に派遣されその地域の経済活性化に役立てますわ」
エルハイミさんは一気にそこまで言う。
なんか難しい話だけど、要はこの世界にあちらの世界の知識は広めず自分で発展しろって事?
貧富の差も何も自分でどうにかしろって事?
しかしちゃんと女神信教として救済の手を差し伸べている?
努力すればシーナ商会には入れて世界各個にある支部で地域経済に貢献する?
「だって、それでも!」
「リル! ごほっ、騙されちゃダメ! それでも魂の輪廻転生システムに干渉して自分に必要な英雄たちを掻き集めている、自分の欲しい人材を!!」
私がエルハイミさんのその言葉に動揺を覚えた時、アリーリヤが起き上がり咳込みながらもそう言う。
「アリーリヤ!」
私はアリーリヤの所にまで駆けつけて癒しの精霊魔法を使う。
「まったく、リルには借りがありますがお母様に仇なすなら容赦しませんよ?」
「あ~、リル、異空間に巻き込んでイージム大陸に飛ばされたのは謝るからエルハイミをそんなに敵視しないでよ。私たちもシーナ商会を使ってあなたたちを探させたのよ? 支援は余りできなかったけど」
コクさんもシェルさんもエルハイミさんの前に立ちそう言う。
正直私の心は揺れていた。
だってアリーリヤの、静香の言う事は……
「輪廻転生システムはですわね…… 確かにあれは私の我が儘でもありますわ。でも一つ理由があるのですわ。この世界で魂の力が強い者は転生後も著しい力を持ちますわ。特に力のある魂はほぼほぼ転生が出来る。そうして魂は育って行きさらに力強い魂になるのですわ。それは人としてまっとうな生活が出来なくなるほどにですわ。そして、それは遅かれ早かれ私に関わって来る。そんな人たちを世に野放しで転生させてしまうとそれこそ英傑が判断を誤り戦争を始めてしまうきっかけにもなりますわ。ですから力ある魂は私のもとに来てもらい平穏で温和な心を持つようあの村で教育を受けるのですわ」
エルハイミさんはコクさんとシェルさんを除けて一歩前に出てそう言う。
アリーリヤを見ながら。
「うるさい! だったら何故私はお前の村に転生しない? この世界でもう何百年と悲惨な死を迎える? 何度転生しても私は不幸な生い立ちになる!?」
「あなたは転生者ですのね? この魂の色は…… ふう、「あのお方」にも困ったものですわ。結局私にこう言った事を押し付ける訳ですわね。あなたのその生い立ちの不幸はあちらの世界から続く因縁ですわね。こちらに転生する時に『あのお方』がわざとそれを残し、私にでも会わせてどうにかさせるつもりですわね? あなたの魂に呪いがかけられているのですわ。転生するごとに一番あなたが望まない場所に生まれ出るようにですわ」
「なっ!?」
アリーリヤ、いや静香はそれを聞き絶句する。
それはそうだ。
あの駄女神が魂にかかっている呪いを解除してなかったのだ。
しかもわざと。
私は思い出す。
あの駄女神は私たちがこちらに転生する時にも『何せあなたたちは面白そうですもの、良い暇つぶしになりそうですわ~♪』とかふざけた事言っていた。
いや、先ほどエルハイミさんにあの駄女神が出て来た時の様子からするとあの駄女神はもともと私たちの事なんてその程度にしか思っていないのかもしれない。
「とにかく誤解があるようですわね。私としては例えジュメルでもこの世界に自発的に発生したものであれば目に余る事さえしなければ片眼を瞑るつもりですわ。ジュメルでさえもこの世界に発生したこの世界の意思ですもの」
「女神が、私たちジュメルを認めると言うのか?」
「だってもともとは戦の女神ジュリ様を信仰する人たちから分かれ出た存在ですもの。あなたたちの信仰する神はもともと古い女神様の一人、ジュリ様ですわよ?」
それを聞いたアリーリヤは驚きの表情をする。
それに気付いたエルハイミさんは軽くため息を吐く。
「どうやら長い間に信仰していた女神様の事も忘れてしまったようですわね?」
「そんな…… 我々の神は異界の破壊神のはず。それが古い女神を信仰していただと?」
わなわなと肩を震わせるアリーリヤ。
私は思わずそんな彼女の肩に手をかける。
「アリーリヤ、いえ静香……」
とその時だった。
「ふう、こちらは終わりましたわよ~」
「この人もジュメルだったらしいですわね~」
現れたのはエルハイミさんたちだった。
見れば周りで騒ぎになっていた魔物たちはひと所に閉じ込められて光の牢獄に捕らわれていた。
イリカもエルハイミさんに光の縄で亀さんの模様のような縛り方で中からぶら下げられてふよふよと浮いている。
しかもなんか赤い顔してうっとりとよだれ垂らして……
「お疲れ様ですわ、エムハイミ、エスハイミ。騒ぎの元凶はジュメルだったのですわね。しかしセキが助けを呼ぶ原因がリルとルラたちだったとはですわね」
エルハイミさんはそう言って私を見る。
そして手を振りながら言う。
「それに、リルは普通ではないようですわね? 正常に戻しますわ」
途端に私の頭の中がすっきりしたような感じがする。
そして一気に今までの事が走馬灯のように思い出される。
「あ、ああぁ…… ああっ!!」
そうだ私は、私はっ!!
何もかもが狂っていた。
そう、アリーリヤに捕まってから。
アリーリヤが静香だと分かって驚きはしたけど、私の知っている静香ならあんなひどい事なんてしない。
それに私はなんてひどい事をみんなにしてしまったのだろう。
「どうやら正気に戻れたようですわね?」
「私は、私はぁっ!!」
涙があふれる。
私はなんて事をしてしまったのだろう。
その場にしゃがみこみ、エルハイミさんを見上げる。
と、その瞬間だった。
「お姉ちゃんに何するんだぁっ! あたしはエルハイミさんより『最強』っ!!」
ルラの声がした瞬間この場にありえない程の存在の爆風が広がったのだった。
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