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第十六章:破滅の妖精たち

16-8女神神殿強襲

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 聖地ユーベルトにある女神神殿はこの世界で最大の規模らしい。

 もともとは他の古い女神の神殿だったのを今のエルハイミさんが主神となる事で統合されたらしい。
 なので今では女神様と言ったらエルハイミさんの事を指す。


「我々ジュメルが世界にその存在を再び知らしめるには正面から神殿を襲う必要があるわ。それも派手にね」

 アリーリヤはそう言いながら神殿の見取り図を開く。
 そしてテーブルの上に開かれたそれを見ながら言う。

「流石に神殿に『鋼鉄の鎧騎士』の配備は無いわ。でもマシンドールだけでも五十体以上もいる。神聖魔法の使い手も確認できるだけで二十名。武闘派と駐在騎士を含めると総勢百名と五十体以上となる大規模警備よ」

 言いながら控室や警備室の場所を指さす。
 そして本堂の一番大きな場所を指さし言う。


「目標は本堂の女神像。ただここには例の赤竜がいるわ。本堂の赤竜を倒し女神像を破壊できれば女神信教全体のメンツは丸つぶれ。ここで女神が出てこないとなればさらにその動揺は広がるわ」


 見取り図を指でトントンと叩きながらアリーリヤは言う。

「あの、万が一それでもエルハイミさんが出てこなかったら?」

「その時は我々ジュメルの勝利宣言をして近隣諸国をどんどん破壊し始めればいいのよ。狙うは王族、貴族。主要な所を倒せば国は混乱する。そして国として機能しなくなれば後は我々ジュメルがそこへ参入し、我々の高尚な理念を民衆に理解させればいいだけよ」

 アリーリヤはそこまで言って楽しそうに笑う。

「まずは女神よ。あいつさえいなくなればこの世界は矛盾が無くなる」

「うーん、まあいいけど。エルハイミさんがいなくなってそんなにうまくいくの?」

 しかしそんなアリーリヤに意外な事にルラがモノを言う。
 アリーリヤは楽しそうな表情を一変、ルラを睨む。

「女神亡き後は我々ジュメルが世界を破壊し、再建をする。それは貧富の無い理想郷よ? みな平等で努力しない者はそれ相応、努力した者が報われる、そう言う世界よ?」

「じゃあ力ない人はやっぱり貧しいまま?」

「それは努力が足らないのよ。何もしないでパンは食べられないわ。人は死ぬまで働き、その代価を受け取るのよ。それが本来の正しい生き方。一部の何もしないで血筋だけで富を占有する連中をまずは無くす。そうしなければ有力者が世界を支配し、実権を握ったまま何も変わらない、変われないのよ。私たちは人本来の正しい生き方が出来る世界を作ろうとしているのよ」

 アリーリヤにそう言われルラは難しい顔したけど、パッと表情を変えて言う。

「ま、いいや。あたしは神殿の赤竜と戦ってみたいしね。終わればまたイリカが気持ちいい事してくれるって言うしね」

「ルラ、あんた本当にイリカに何されたの?」

 流石に我慢できず私はルラに聞く。
 するとイリカがポンと手を叩き言う。

「あらあら、リルさんも気になりますか? う~ん、リルさんにもしても良いのだけどリルさんはアリーリヤのモノだし、勝手に手を出したらアリーリヤに怒られちゃいますもんね~。それにリルさんはもうアリーリヤとしてるのでしょう?」


「なっ/////////」


 イリカにそう言われ私は思わず顔を真っ赤にしてしまった。
 じゃ、じゃあやっぱりルラはもうイリカにあーんな事やこーんな事されちゃてるんだ……

「何よ、リルはあれもっとしたいの? まあいいわ、これが終わったらご褒美にたくさんしてあげるわ」

 アリーリヤはそう言って妖艶に笑う。
 いや、静香ってこっち来てから変わった?
 確かにアリーリヤ事静香にはいろいろされちゃったけど、本来私はそう言う趣味は無いのに……

 私が一人赤くなっているとアリーリヤは立ち上がり宣言する。


「決行は八時間後。他のジュメルの七大使徒にも連絡。作戦の成功有無にかかわらずこれより一週間後にジュメルは表舞台でこの世界を破壊する、聖戦の始まりよ!」


 そして私たちはアリーリヤのその言葉に静かに頷くのだった。


 * * *


「準備は良いわね?」

「うん、あたしはいいよ」

「こちらも大丈夫ですよ~」

「いいよ、アリーリヤ」


 翌日朝の日が登り清々しい空気の中、私たちはユーベルトの街の中心に在る女神神殿の前に立つ。
 正直ジュメルの他のスタッフでは足手まといになるので女神神殿を強襲するのは私たち四人だけ。
 しかしその戦力は一国の軍隊を超える。


「じゃあ手はず通り始めるわ、リル」

「うん、結界を『消し去る』!」


 神殿にかけられている結界は並みの解除魔法では歯が立たない。
 更に言うとその術式を攪乱する魔法も強力すぎて歯が立たないらしい。

 そう、この結界を構築したのは女神であるエルハイミさんなのだ。

 しかし私のチートスキル「消し去る」はそんな強力な結界も簡単に消し去った。


「お姉ちゃん、気付かれたみたい。多分赤竜ってのだ!」

 
 ルラは私が結界を消し去ったとたんに神殿の異常に気付く。
 それを聞いたアリーリヤはすぐにイリカに声を掛ける。
 

「イリカ」

「はいはぁい~、い出よ魔物たち!」

 
 きゅぅ~
 どんっ!!


 イリカはすぐに封印のひょうたんをかかげ中から魔物たちを呼び出す。
 神殿が異常を確認すればすぐにマシンドールたちが警戒に出て来る。
 普通の人間では到底かなわないけど、サイクロプスやオーガの皆さんであれば一体につき何人かで襲いかかればなんとかなると予想される。
 それにヤツメウナギ女さんも出して来るから「鋼鉄の鎧騎士」を出しても対処できる。


「行くわよ! 【炎の矢】!!」

 
 ぼっ!
 しょぼぼぼぼぼぼぼっ!!


 アリーリヤは攻撃魔法を唱えて「賢者の石」の力を借りて一度に何十と言う火の矢を放つ。
 
 朝の空気を焼いてその炎の矢は一直線に神殿に向かう。
 本来なら防御結界で防がれるそれは私のスキルで消し去った。
 
 なので炎の矢は次々に神殿に刺さり火の手を上げる。


 どっ、どどどっ!!

 ぼわっ!


 流石にここまで来ると警備兵やマシンドールが出て来るも、サイクロプスやオーガの皆さんに襲われ動きが鈍い。
 そこへアリーリヤが更に「賢者の石」を使って広範囲に魔法をぶっ放す。


「燃え尽きろ、【火球】ファイアーボールっ!!」


 やはり「賢者の石」で威力を増して何十という火の球を発生させそれを神殿目掛け放つ。
 いくつかは慌てて出て来た神官たちの防御魔法によって防がれるも、その絶対数が多い。
 

 ぼわっ!

 ぼーんっ!
 ぼぼーんっ!!


 炎の弾は神殿やマシンドールたちに着弾して爆発するかのように燃え広がる。
 流石にこれだけ派手にやっているので市民たちも気がつき騒ぎになり始める。
 
 そんな中、ヤツメウナギ女さんがマシンドールたちを切り刻みながら神殿へと突き進む。
 その後を私たちも駆け出し神殿へと向かう。


「賊だっ! 魔物もいるぞ!!」

「ちくしょう、結界はどうなっている!?」

「マシンドール部隊前に集中させろ! デカ物までいるぞ!!」

「【絶対防壁】! 前線を確保城! 防壁展開したぞ!!」


 色々な場所から警備の騎士やマシンドール、僧侶たちも出て来て応戦が始まる。
 しかし私たち四人を止められる者はいない。


「あたしは『最強』!」

「絶対防壁を『消し去る』!」

 
 ルラも私もスキルと使いまくりながら前へ進む。
 それは破竹の勢いで防戦にまわる人たちを薙ぎ払い、吹き飛ばし神殿の入り口まで行く。

 そして先行していたヤツメウナギ女さんが扉を切り裂き突っ込んだ瞬間だった。


 どがぁーんッ!!


 中に入った瞬間ヤツメウナギ女さんが吹き飛ばされた!?

「なっ!?」

 思わず驚く私たち。
 そして扉の前で足を止める。



「ったく、もうじき朝ごはん時間だって言うのに襲ってくるなんて。エルハイミ母さんの結界を消し去るだなんて何者?」



 ヤツメウナギ女さんを吹き飛ばし、扉の中から出てきたのは真っ赤な髪の毛の色をしてどことなくエルハイミさんにも似ている大人の女性だったのだ。 
 
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