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第十五章:動く世界
15-22その日
しおりを挟むルラの追試は三回目で何とか合格に至った。
「これで中等科に行けるね~」
「ルラあんたねぇ、中等科はもっと難しくなるんだからちゃんと勉強しなさいよね?」
「まあ、でも中等科はどちらかというと実技が主だからそちらの比重の方が多いらしいわよ?」
合格をもらって食堂のテラスでお茶を飲みながらささやかなお祝いをしていた。
購買でたこ焼きも各種買って来たし、今はキャッキャウフフと話に花を咲かせていた。
「でも、中等科の課程が終わると私はガレント王国に帰らなきゃかぁ~。ね、リルとルラも私の後宮に来ない?」
「だから行かないって言ってるじゃないですか!」
まったく、ヤリスもしつこいなと私が思った瞬間だった。
どがぁ~んッ!!!!
いきなり大きな音がした。
う~ん、この大きさはかなりなモノだ。
「またどこかの研究室で爆発でもしたかしら?」
「どこの教授でしょうね? でもいつもより音が大きいような……」
この学園では学生は「戒めの腕輪」というアイテムをつけているので勝手に魔法が使えない。
しかし場所によってはそれが解除されて魔法が使える。
または研究棟とかの特殊な場所でも魔法が使える。
となると、研究棟では三日に一度くらいは爆発音が聞こえてくる。
だからだろう、最初はだれもそれほど気にも留めなかった。
しかし……
「なんだろうね? なんかいつもより騒がしいみたいだけど?」
ヤリスはお茶に口を着けながらそう言う。
確かにいつもより騒がしいようだけど?
「お姉ちゃん!」
いきなりルラが立ち上がった。
それと同時に悲鳴が聞こえて来た。
「きゃぁーっ! 魔物っ!!」
その声は女性だったが、今確かに魔物と言った?
ルラは既に走り出して外へと向かっている。
私とヤリスも顔を見合わせてから急ぎルラを追うのだった。
* * *
「なっ、なにこれ!?」
それは破壊された校舎だった。
三階建ての校舎の半分近くのまでが崩れ去っている。
まだ中に人がいるのか、慌てて逃げ出す人がいる。
「リル、あれっ!」
ヤリスは指差しそう言う。
私は言われたその先を見るとそこにはいるはずの無いモノがいた。
「ヤツメウナギ女さん!!」
そう、校舎を破壊したのはどうやらヤツメウナギ女さんだったようだ。
そしてヤツメウナギ女さんは今ルラと戦っている。
「なんでヤツメウナギ女さんが!?」
「リル! このっ!!」
ガンっ!!
私が驚いているとヤリスが覚醒しながら何かを叩き落とした。
それは鎖のついた首輪。
そしてその鎖の先にはイリカがいた。
「うふふふふ、やっと出てきましたねリルさん~。酷いですよ、あなたたちの学園長は私の『賢者の石』も腕も取って行ってしまうんですから~。でもリルさんが私のモノになってくれるなら許してあげますよ~」
「イリカ! 手が!?」
鎖の先にいたイリカは嬉しそうにそう言うも、その鎖の先にあるのは切り落とされたはずの手だった。
「うふふふふ、アリーリヤに言って治してもらったんですよ、『賢者の石』を使ってね! さあ、リルさん私たちに捕まってくださぁ~いぃ!」
そう言ってさっきの首輪を鎖を引っ張りながら引き戻す。
「何馬鹿な事言ってるのよ! リルは私の嫁なんだから渡すわけないでしょ! はぁっ!!」
ヤリスはそう言ってそのままイリカに飛び込む。
しかしイカはその顔に笑みを浮かべたまま動かない。
と、いきなりイリカに周りに煙が立ち込めてそれが無くなったと思うとそこにはアイシス様が立っていた!?
「ヤリス、この姉に手を出そうとしているのですか!?」
「げっ!? なんで姉さまが!?」
ヤリスは伸ばした手を引っ込めて地面に着地する。
そして目の前のアニシス様を見て困惑する。
「姉を粗末にする妹はこうです!」
じゃらっ!
ぶんっ
そう言ってアイシス様は手を振ると鎖のついた首輪がヤリスの首を捕らえる。
がきんっ!
「うわっ、ちょ、ちょっとアイシス姉さま!?」
「これであなたは私の言う事を聞く可愛い犬よ」
そうアイシス様が言った途端にヤリスの身体に電撃が流れる。
ばちばちばちっ!
「かはっ!」
ばたっ!
「ヤリス!! あなた、アイシス様じゃないわね!?」
電撃が流れたヤリスはその場に倒れて動かなくなった。
そして目の前にいたアイシス様はその姿が揺らいでイリカになる。
「うふふふふ、お友達は捕らえたわ。さあリルさんも私のモノになりましょうね~」
「イリカ…… 幻影か何かの魔法ね!?」
「大当たりぃ~♪ 流石リルさんですねぇ~。それじゃあリルさんも私に捕まってくださいねぇ~」
そう言ってもう一つ鎖のついた首輪を取り出す。
イリカはそれを私に向かって投げつけるけど私は手を向け力ある言葉を言う。
「首輪と鎖を『消し去る』!」
途端に目の前まで飛んで来ていた首輪と鎖は消えてなくなる。
次いで私はヤリスを拘束している首輪と鎖を消し去ろうとすると……
「リル、酷いじゃないか? 僕は君を迎えに来たんだよ?」
聞こえてしまった。
絶対に忘れないあの優しい声が。
思わずイリカに目を向けるとそこにはこちらを見て微笑んでいるトランさんが立っていた。
奇麗な金色の髪の毛。
深い緑色の瞳。
千切れてしまったはずの足もちゃんと二本あり、あの時の元気なままのトランさんがそこに立っていた。
「リル、僕の将来のお嫁さん。ずっと会いたかったよ」
「ト、トラ……ン……さん……」
その姿に思わず目の前が歪んでしまう。
瞳に勝手に涙が浮かび上がってしまう。
トランさん。
私の未来の旦那様。
でもトランさんは死んだ。
レッドゲイルの迷宮で守護者に殺された。
私はトランさんの遺髪をエルフの村に持ち帰った。
そのトランさんが!
「イリカ…… あなたって人はつくづく人をイラつかせます…… トランさんは、トランさんはもういないのにっ!!!!」
私は叫びながら「同調」を行って魔力を高める。
たとえ『戒めの腕輪』があっても「同調」をした私にはもうその効果はない。
「精霊たちよ、あの偽トランさんを捕まえて! 大地の精霊よ、風の精霊よ、水の精霊よ、この場にいるすべての精霊はあのトランさんを捕まえて! あの、ニセモノをっ!!!!」
それは私の魂の叫びだった。
トランさんをこんな事で汚された。
私の心の奥深くに奇麗な優しい思い出のトランさんを使って!
「そう、あなたのその力が必要なのよ。この矛盾した世界を壊す為にね」
その声は私のすぐ耳元からするのだった。
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