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第十五章:動く世界
15-21試験
しおりを挟む「お、終わったぁ~っ!」
ルラはそう言って大きく伸びをする。
実技試験は難なく合格できたけど、筆記試験が厳しいルラはそれでも私やヤリスとの勉強会で何とか乗り越えられそうだった。
「どうだった? ルラ??」
「う~ん、ヤリスやお姉ちゃんの言った所は全部出来たよ。赤点取らなきゃ合格なんだよね?」
「ま、まあそうなんだけどルラ、あんた本当に大丈夫なんでしょうね?」
教室から出て食堂に向かいながらそんな話をしている。
私は難なく全問解けたし、十分に自信もある。
ヤリスもその辺は大丈夫と言うか、意外と筆記の成績もいいんだよね~。
そうするとこの中で問題はルラだけ。
実際ここは確実に出るだろうと言う所を何度もやらせたから合格点はぎりぎり大丈夫なはず。
「確か、得点が六十点以上取れないと追試だったわよね?」
「ええ、確かそうでしたね。ルラ、いけそう?」
「う~ん、全部は書き切れなかったけど八割は書けた。それもお姉ちゃんやヤリスが言ってたところだから多分間違っては無いと思うけど」
なんかギリギリっぽい。
生前の高校なんか赤点が三十五点だったから、それより厳しい。
とは言え、ちゃんと受講を受けて要点だけでもしっかりと覚えていれば最低限の点数は取れるはずなんだけど……
「私はむしろ実施試験の方が難しかったわよね。魔力制御して押さえなきゃならないなんて」
「いや、気合入れて覚醒しちゃったのはヤリスに問題があるんじゃ……」
「同調」の奥義を会得しているはずなのにヤリスはたまに感情が高ぶると「覚醒」をしてしまう。
いや、「覚醒」状態を押さえられなくなる。
本当は魂と身体のつながりをうまく制御するはずなんだけどなぁ。
「ともあれ、ご飯食べたらソルミナ教授の所へ行って見ましょ。もしかしたら先に結果教えてくれるかもしれないわよ?」
「はははは、ちょっとずるですが一応聞いてみますか」
私たちはそんな事言いながら食堂へと向かうのだった。
* * * * *
「えっ?」
「だからルラだけ追試よ」
食事を終えて、ソルミナ教授の研究室へ向かった。
一応、私たちの担任でもあるソルミナ教授は難しい顔をしてルラの解答用紙を眺めていた。
「え~、頑張ったのにダメなんですか~?」
「頑張ったのは認めるけど、後二点足らないわよ。五十八点、追試ね」
マジ?
あれだけ教え込んだのにあと二点足らない??
「ソ、ソルミナ教授、本当なんですか?」
「何度か見直ししたけど、後二点足らないわ。多分ここなんか問題最後まで読んでないでしょう? 反対の答えを書いているわ」
そう言って問題用紙を出して指さす。
私はすぐにそれを手にしてそこを見る。
「ルラ、これ最後までちゃんと読んでないの?」
「え~と、ああ、そこって教わったのと全く同じだから教わった時の答えそのまま書いた~」
「これ途中から教えた問題と反対の結果について聞いてるんだけど?」
「ええ~? あ、ほんとだ~」
こいつわぁ~っ!!
「はぁ~、じゃあルラだけ追試ね? ソルミナ教授ほかにも追試の人っているんですか?」
「ルラだけ……」
ヤリスの質問にソルミナ教授は目頭を指でつかんで目を閉じなら答える。
どうやらみんなが合格できるための問題構成になっていたようで、受講をちゃんと聞いていれば難なく赤点だけはま逃れるようになっていたらしい。
ただ、流石に簡単すぎてはいけないのでさっきみたいに真逆の答えをさせたりはしていたようだ。
それでも文章をちゃんと読んでいれば解ける問題だった。
「ルラぁ~」
「だってあたし頑張ったよぉ~」
「はぁ、追試ね。ソルミナ教授追試はいつやるんですか?」
「明後日ね。明日結果を発表して翌日追試よ。問題は全く同じだからちゃんと最後まで問題読んで答えなさいよ、ルラ」
「ふえぇえええええぇぇぇぇぇ~ん」
ソルミナ教授からもの凄いヒントもらっているのにルラのやつは涙目になっている。
正直全く同じ問題って事は受かるのを前提にしてるって事だ。
私はルラを捕まえて言う。
「帰ったら猛特訓よ! ユカ父さんがいないんだから稽古の分も覚えるまでしっかりとやらせるからね!!」
「ふえぇえええええぇぇぇぇぇ~ん」
ルラの情けない悲鳴が上がるのだった。
* * * * *
「ルラだけ試験駄目だったの?」
「はい、この子ちゃんと問題読んでないから……」
「だって途中まで全く同じ問題文だったんだもん! だったらお姉ちゃんたちに教わったとおりの答えだと思うじゃん!」
「それでも問題はちゃんと最後まで読まなきゃダメでしょうに! ご飯食べたら復習よ!!」
家に戻って結果をマーヤ母さんに話すと困り顔で私たちを迎えてくれた。
マーヤ母さんは魔術についてはそこそこだけど、学園に通ってたわけではないので勉強を見るのは難しいと言っていた。
実践派なのでそれは仕方ないだろう。
でも長年ここにいるので意外と魔術については詳しい。
「私も手伝ってあげたいんだけどねぇ~、座学はからっきしなのよ」
「大丈夫です、私がしっかりとルラに教えます!」
私がそう断言するとマーヤ母さんはにっこりと笑って、「じゃ、後でお夜食持って行くわね。頑張って」そう言って夕ご飯の準備を始める。
私たちもそれを手伝って早いところお風呂に入ってルラの勉強を見始めるのだった。
* * *
「ルラ、今度こそ合格してよね!」
「まあ同じ問題だから大丈夫でしょうけど」
「いや、頑張ってもらわないとまたルラだけ追試になっちゃうから、頑張ってよね? さて、リルとヤリスはそろそろ部屋から出て行きなさい。追試を始めるわよ」
ソルミナ教授にそう言われ私とヤリスは教室を出る。
あの後さんざんルラに最後まで問題を読ませるようにして、問題の答えまで何度もやらせたので今度こそは大丈夫だろう。
ただ追試なので全部正解しても六十点にしかならない。
それでも六十点分の点数さえ取れればいいのだから頑張ってもらいたいものだ。
「ルラ、大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ、あれだけ復習させましたから!」
心配そうに教室の閉じられた扉を見てからヤリスはポツリとそう言う。
あれだけ復習させたのだから多分大丈夫だと思うのだけど、ルラだからなぁ……
正直ほんのわずか心配は残る。
「ま、心配しても仕方ないから食堂でお茶でも飲んで待っていようか?」
「そう、ですね。そうしましょう!」
ヤリスの提案で食堂のテラスでお茶でも飲んで待っていよう。
結果が出るのは一時間ちょと後。
その場で点数つけて合否の判定が出る。
私たちはそれを待ってお茶を飲みに行くのだった。
* * *
「お”ね”え”ち”ゃ”ぁ”~ん”!!!!」
一時間半後、ルラが食堂に涙目でやって来た。
そしてその後ろにソルミナ教授も苦虫をかみつぶした顔で着いてくる。
「ルラ、終わったの? どうだった??」
「また落ちたぁ~!!」
「「はいっ!?」」
思わず私とヤリスの声が重なる。
いや、だって、同じ試験問題であれだけ復習していたのになんで!?
「ソルミナ教授、なんでルラが不合格なんですか!?」
思わず後ろにいるソルミナ教授に聞いてみると、苦虫をかみつぶしたような顔が更に歪んで大きなため息を吐いてから言う。
「零点よ。全く、問題は全部解けているというのに……」
「え? 問題が全部解けているのなら合格なんじゃ……」
「これよ、これ。流石に私も教育者の立場と学園の決まりを破る訳には行かないわ、名前、名前書いてないのよ!!」
「はぁ????」
ばっと試験の解答用紙を出すソルミナ教授の手には全問正解になっている用紙があった。
しかしソルミナ教授は一番上の欄を指さして言う。
「名前の書き忘れは零点という決まりなの。ルラ、二日後に再追試! ああ、全く忙しい時に!!」
それを見て私は涙目で抱き着いているルラに目を向ける。
「ル、ルラあんたって子はぁ~」
「だって、問題に集中してたんだもん! 追試あたしだけだし、いいじゃんおまけしてくれても!!」
「駄目に決まってんでしょ! 何やってんのよルラぁっ!!」
「ひぃーん、お姉ちゃーん!!」
まさかの名前書き忘れ。
初歩的なミスもいいところ。
しかし決まりでは不合格。
これでは全問正解していても言い逃れが出来ない。
あまりの事に怒りしか湧き上がってこない。
そんな私にヤリスは言う。
「はぁ、また追試ね。今度は名前を書く練習もさせる?」
「やります! ルラ、ノートの端から端まで自分の名前書きなさい!!」
「ひぃーん! ごめんお姉ちゃぁーんッ!!」
私はルラの首根っこ掴んで復習と自分の名前を書かせる練習をさせるのだった。
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