上 下
332 / 437
第十三章:魔法学園の日々

13-34隣の村

しおりを挟む

 ティナの国はこの西の大陸、ウェージム大陸の北方にあり、これをもう少し北に行くと北の大陸、ノージム大陸へとつながる港町があるそうな。

 
「まあ、今はホリゾン公国の管轄って事になってるけど、実際にはどちらつかずね」

 ファムさんはそう言ってアニシス様の許可をとって燻製にする前の魚を結構と持ち帰る。
 早速その調理方法をみんなに広めるつもりだ。

 良いのだろうか、いきなりそんな事して?


「あの、ファムさん。魚料理をみんなに伝えるのは良いですけど、寄生虫とか雑菌には要注意してくださいね? 川魚や沼魚はそう言った問題がありますからね?」

「分かってるって。でもこれで冬のあの燻製漬け以外にも料理が楽しめるとなれば僥倖よ!」

 かなり嬉しそうである。
 しかしこのティナの国って冬は厳しいっていうけどそれ程なのだろうか?

「アニシス様、ここって冬場はそんなに厳しいんですか?」

「ええそうですわねぇ~。ここは豪雪地帯で、降り始めれば五、六メートルはゆうに雪が積もりますものねぇ~」

 話しには聞いていたけど、本当にそんなに積もるんだ。
 そう言えば家によっては二階に出入り口がある家もあるし、なんか大変そうだ。

 ん?
 そう言えば近くの村とかは大丈夫なのだろうか?


「あの、そうすると近くの村とかは大丈夫なんですか?」

「そうですわねぇ~、近隣ですとジルの村がありますがあそこはちょうど豪雪地域から離れますから冬場でも意外と大丈夫ですわね」

 アニシス様はそう言って西の方を見る。
 ジルの村は向こうの山岳部中腹にあるらしい。
 なんでも普通の人がいけるような場所では無いらしく、荷物の運搬はもっぱら獣人族がしているとか。

 獣人族はもともと北の大地ノージム大陸にその集落があったそうな。
 その昔、獣人族の扱いはそれ程良く無く旧ホリゾン帝国では奴隷とかにもなっていたそうな。
 しかし今ではティナの国を中心にジルの村などにも沢山の獣人族がいるらしい。


「ジルの村ですか…… 噂ではとんでもない所だって聞いてますが」

「あのエルハイミさんに関係する人たちが転生する場所って言われているからねぇ~。とにかく普通じゃない村らしいわよ?」

 アニシス様につられて私も西の方を見ているとファムさんがそう言ってくる。
 エルハイミさんに関する人が転生するって、絶対にとんでもない所だろう。
 行きたくはない場所上位になる。


「あれ? なんか大きな荷物持った人たちがいっぱいいるね~」

 ルラが窓の外を見ていて何かに気付く。
 馬車でティナの街に戻っているとちょうど商人だか何だか大きな荷物を背負っている人たちがいた。

「みんな獣人みたいね?」

「はい?」

 ヤリスがそう言って窓から顔を出してその一行を見る。
 すると確かに獣人の人たちっぽい。

「あら、ジルの村の連中よ。鉱石か何か持って来たのね?」

「あらあらあら~、魔鉱石とか有ると嬉しいですわね~」

 ファムさんもアニシス様も窓からその一行を見る。
 背負っている荷物が人の三倍ほどあるのはやはりジルの村の人だからだろうか?
 もしあれに鉱石とか入っているならとんでもない重量になりそうだ。


「おーい、ジルの村の人~」


 ファムさんは呑気に手と振ってみるとそれに気付いた獣人の人たちもにこやかに手を振り返して来る。
 馬車はちょうど彼らの所で止まる。


「なになに、ティナの街に行商?」

「はい、これ売り払って下着とか食べ物とか買って来いってシェル様が言うもんで、何時もより早めに納品に来たんですよ」

「シェルって、今ジルの村にいるの?」

「シェル様どころか女神様やうちの村からティアナ姫の転生者が覚醒したとかで大騒ぎですよ。黒龍様まで来て毎日戦場ですよ」

 はははは、とか笑っているけど戦場ってなに!?

「あっちゃ~、噂には聞いてたけどそんなにもつれてるの、今回は?」

「ええ、何せ今回はもう子供が出来ちまって女神様も引くに引けない状態なんですよ」


 はいっ!?
 こ、子供ぉっ!?


 え、ええぇ?
 ティアナ姫の転生者って女性だよね?
 確かもう恋人がいるとか何とかでもめていたって聞いたけど、子供ぉっ!?

 お、女の子どうしで子供って、女神のエルハイミさんの力が無いと出来ないんじゃ……


「一体どうなってるんですか? シェル様たちが長々ジルの村にいるなんて??」

「気になりますわね~、ちょっと詳しくお話聞かせてくださいですわ」  


 ヤリスもアニシス様も興味を持って乗り出して来る。
 獣人の人たちはアニシス様に驚いて頭を下げるけど、アニシス様は堅苦しい挨拶は抜きにして、それより話が聞きたいと彼らに言う。



 とにかく街に戻ってからお城に来てもらう事になって、私たちも関わりたくないジルの村についての話を聞かされる羽目になるのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

TSしちゃった!

恋愛
朝起きたら突然銀髪美少女になってしまった高校生、宇佐美一輝。 性転換に悩みながら苦しみどういう選択をしていくのか。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

処理中です...