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第十二章:留学

12-38大魔導士杯第三戦目その1

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「う~頭痛い……」

 
 本日はいよいよ第三戦目となる。
 この辺に来るとベストフォーなので会場は観客でごった返していて、立ち席でもいいからと入場券を買おうとする人で朝から賑わっていた。

 そんな会場を横目に私たちはげっそりとしていた。


「ヤリス、もしまた始祖母エルハイミ様のお力を使うなら無様をさらすような事は許しません。分かっていますね? 今度はお尻だけでは済ませませんからね? 私に妹を女にするような事をさせない様に」

「ひえっ! わ、分かっておりますお姉さま!!」

 げんなりとしていたヤリスだったけど、アイシス様のその一言で背筋をピンと伸ばし敬礼でもするかの勢いでそう答える。
 なんかものすごく引っかかる所があるけど怖いからあえて突っ込まない。
 何せあのアイシス様だもの……


「う~、なんかまだズキズキ頭くらくらするぅ~」

「ああ、ルラもだめか、ちょっと待ってアルコールを『消し去る』」

 私はルラに向かってチートスキル「消し去る」を使う。
 すると途端にルラの表情が明るくなってにっこりと笑う。

「ありがとうお姉ちゃん! なんか頭がすっきりしてきたよ!!」

「ごめんごめん、もっと早くやってあげればよかったね。私も今朝気付いて自分にもやったけど、二日酔いになるってこんな感じなんだね……」


 そう言って昨晩の事を思い出す。
 それはそれは恐ろしい事だった。

 酒池肉林。

 まさしくそんな言葉がぴったりだった。
 幸いアイシス様の趣味が年端もいかない男の子を好むと言う事で、私たちの貞操は守られたけどそれでも「俺の酒が飲めねえってのかぁ? エルフ族とガレント王国は盟友なんだぞ? それが俺の酒を断るとは良い度胸じゃねぇかぁ、ああぁぁん?」とか言って無理矢理お酒を飲まされた。
 ヤリスなんか飲みが足りないとか言われて無理矢理口移しでお酒を飲まされていてその光景をアニシス様はうれしそうに眺めている。

 もうね、欲望が大爆発したかのような一晩だった。

 勿論アニシス様だってこのチャンスを逃そうとはせずに私やルラから承諾を取ろうとあの手この手をしてきて本気で危なかった。
 途中から酔っぱらったルラを後ろから抱きしめているアニシス様から引っぺがすのにどれだけ苦労したか。
 アニシス様ったらルラの身体いいように撫でまわすんだもん!

 勿論私も危なかった。

 ヤリスが口移しでお酒飲んでいるから「私たちもしましょうですわ♡」とか言って覆いかぶさって来るアニシス様を振り切るのに大変だった。

 もう絶対にこの人たちとお酒は飲まない様にしよう。
 もしくは個室は断固拒否しよう。


「さて、それではアイシス様、私たちはこれにて。控室へ参りますので会場でまたですわ」

「頑張ってくださいねアニシス様。応援しております」

 そう言って二人はにっこりとほほ笑んでから分かれるけど、アイシス様の姿が見えなくなってからヤリスはやっと大きな息を吐く。


「ぷっはぁ~っ、やっと行った。ねえリル私にもルラにやったそれやってよ。頭痛いの我慢してたんだから」

「ヤリスがアイシス様を恐れるのが分かりましたよ…… はい『消し去る』」

 私がチートスキル「消し去る」でヤリスのアルコールを消し去るとホッとした表情になる。
 
「助かったぁ~。これで今日の試合も何とかなるわね。そう言えばアニシス様は平気なんですか?」

 ヤリスに聞かれてアニシス様はにっこり顔で言う。
 
「はい、問題ありませんわ。酔い始めたらすぐに【状態回復魔法】を使いましたから。いくら羽目を外せるとは言え、せっかくのチャンス。リルさんとルラさんの言質を取って私の部屋にお招きしようとしましたのに残念ですわ」

 あれってしらふだったってこと!?
 酔ったような勢いで散々私たちに手を出していて実はしらふ。
 確信犯だ。
 やっぱりアニシス様も危ない人だ!!


「まあ、流石にアニシス様ですね。お姉さまと仲が良いだけの事はある……」

 ヤリスはそう言ってジト目でアニシス様を見るけど当の本人はにこにこしているだけだった。
 やっぱり王族の人ってこう言う所がしたたかで顔の皮が厚い。

 私は小さなため息を吐いてから控室に向かうのだった。


 * * * * *


『さぁさぁお待たせしました、みんなのアイドルメリヤちゃんです! 今日も元気いっぱいに始めましょう大魔導士杯、みんな準備は良いかなぁ?』


 いいでぇ~すっ!!!!
 

 生徒会の司会役であるメリアさんがそう言ってマイクを観客席に向けると怒声の如く元気なお返事が戻って来る。
 まるでどこかのアイドルのライブのようだ。
 実際メリヤさん推しのファンもいるらしく、司会のいる舞台下には同じ服ではっぴを着た人たちいがいたりもする。

 会場は観客満員御礼どころか、通路にも立ち見の観客がいるほど大盛況だ。
 来賓席も今日あたりは見るからに貴族っぽいなんか偉そうな人が大勢来ている。


「いよいよ第三戦ね、ここでもう一度勝ち上がればお姉さまもしばらくは何もしてこないわね!」

 参加者は舞台の上に集合させられて紹介をされている。
 そんな中ヤリスはそう言ってぐっとこぶしを握っている。
 私は歓声のなかヤリスに聞く。

「やはり勝ち上がると嬉しいの、ヤリスは?」

「勿論よ! ここでもし魔導士杯を制すれば国に帰って私が後宮作っても誰も文句言わなくなるわ、だからリルたちも私の所に来てね♡」

「行きませんってば。なにさらっと変な事言ってるんですか……」

 そんなヤリスのボケに突っこみを入れているといよいよ第三戦目のお題発表となる。


『それではお待たせしました大魔導士杯第三戦目、お題はこれだぁ!』

 メリヤさんがそう言って手を掲げるとどう言う理屈かは分からないけど舞台奥にある掲示板がまるで大きなテレビのように画面が変わる。
 そしてそこに書かれていたお題は……


 『美しき料理』

 
 そうコモン語で書かれていた。
 一瞬何を言っているのか理解できなかったけど、何度読み返してもそれは変わる事無く「美しき料理」であった。


『第三戦目は芸術を基軸とする【美しき料理】だぁっ! 美味しいのは当たり前、しかし見た目も重要。料理は魔道と同じくその原材料をうまく調合して作り上げるもの。しかしただ美味しいだけでは人の欲望は満たせない! そこで今回は学園長からのリクエストも汲み入れ【美しき料理】となりました! さあ、料理の鉄の意思を持つ者たちよ、今こそ立ち上がれ!!』

「はぁっ?」


 饒舌にすらすらとテンポよく司会のメリヤさんはそう言って更に手をかざすと先ほどの掲示板の画面がまた変わる。
 そこには美味しそうなフランス料理のような料理の数々が現れる。


 おおおぉぉおおおぉぉぉぉ~
 
 ごくり


 観客席からも声が上がり誰かが唾を飲み込む。
 確かに料理は見た目も重要なのはわかる。
 しかしそれを提案したのがうちの学園長?

 思わず特別席にいる学園長を見るとマントの下でぐっと親指を立てている。

 あなたって人はぁ~。
 ちょっと目まいを感じて「親バカ」と言うものの恐ろしさを実感する。
 隣に座っているマーヤさんも、もの凄く良い笑顔だから共犯だなあれは。

 
「美しい料理って…… どうしよう、アニシス様!!」

「参りましたわね、私お料理は全くと言って良いほど出来ないのですわ。何時も他の誰かがしてくれますので……」

 私がため息を吐いているとヤリスとアニシス様が慌てている。
 しかしそこへルラがにっこり顔で言う。

「大丈夫だよ、うちにはお姉ちゃんがいるんだもん!」



 なんか今回は私にもの凄く大きな圧力がかかって来るのだった。
 
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