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第十二章:留学

12-36大魔導士杯第二戦目その7

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 芸能人水泳大会張りにお約束の展開をしたヤリスだったが、気を取り直して試合に集中する。


「くっ、ノルウェンに追い越されちゃったわね。でもここからは負けないわよ! ルラ一緒に先行するわよ!!」

「うん、それならばあたしは『最強』!!」

 覚醒者であるヤリスとチートスキル「最強」を持つルラは尋常ならざる身体能力の持ち主だ。
 はっきり言って、巨人族だって彼女らには敵わないだろう。
 ルラなんかきっちり手をかざし、変身でもしそうな変なポーズをとってから「とぉっ!」とか言って走り出す。
 
 ヤリスもしっかりとビキニの紐を締め直してからルラに平行して走り出す。

 流石に二人ともその能力は素晴らしく、あっさりと三歩でノルウェンチームを追い越す。
 そして第二の関門、壁の前に立ち上を向いて二人同時に飛び上がる。


「よっと!」

「ふっ!」


 軽々とその壁を飛び越え、そして重力トラップに入る。


 ぐんっ!


「おおぉ~体が重くなった~」

「そうだけどこれなら別に問題無いわね。アニシス様、リル先に行くわよ!」


 ルラとヤリスはそう言って【重力魔法】をものともせずに先に進む。

 うーん、誰かが先にゴールすれば勝ちだから私たちは無理せずに行けばいいかな?
 そう思いちらりと見るとノルウェンチームはやはり身体強化する魔法を唱えてこのトラップを越えようとしている。


「アニシス様、私たちはどうしましょう?」

「そうですわねぇ、とりあえず浮遊魔法で壁の上に行ってから【重力魔法】にかかったエリアに逆作用の【重力魔法】をかけて中和しましょうかしら?」

「え? でも同時に魔法を上掛けって出来なんじゃないでしたっけ、確か魔性干渉とか何とかで?」


 ソルミナ教授の授業でもあったけど、魔法ってのはその効力がある所に別の魔法はかけられないらしい。
 なんでもマナに干渉する現象がぶつかり合い弾かれるので最悪両方ともかき消されるらしい。

「その理論には少し裏があるのですわ。同系統の魔法の場合は魔力がマナに影響を及ぼすモノが同じ作用となるので干渉しあわず力の強い方へとその現象が変換されるのですの」

 アニシス様はびっと人差し指を立ててそう説明をしてくれる。
 つまり同じ魔法なら力が強い方へとその効力が変わると言う事?


「っと、そんな事を言っていましたらノルウェンチームが頑張って【重力魔法】のエリアを抜け出しましたわね?」

「でもなんでそんな面倒な魔法を使うんです? ノルウェンチームと同じ【能力強化】の魔法であそこは抜けられるのではないですか?」

 わざわざ高等な魔法を使って重力操作なんてしなくてもアニシス様の魔法なら力技で行けるのではないだろうか?

「そうなのですが、これ以上重くなると支えて歩かなければなりませんわ。それに万が一垂れてしまったらもう元には戻らないとも聞きますわ」

 そう言ってアニシス様はチューブブラで覆われているその大きな胸を下から両腕で持ち上げる。


「ぐっ!」


 思わずうなってしまった私。
 確かに生前聞いた事がある。
 女性の胸はそれを押さえている筋だか筋肉が切れたり伸びたりすると垂れてしまうと言う事を。
 胸の大きな女性は年齢が上がると、どうしても胸が垂れ下がってしまうと言う事を。

 しかし今の私は限りなく平原。
 揺れることなど全くない、何処に胸が有るか分からない程のまっ平!

 思わず涙を流しながら言う。


「そ、それは確かに大変ですね。分かりました全てお任せします……」

「ごめんなさいねですわ。代わりにこの勝負が終わったら私の胸で存分に甘えさせてあげますわ。もしリルさんにその気があればそのまま私と…… ぽっ♡」

「それは遠慮しておきます、断固として」


 私の断腸の思いの思いやり発言を自分の欲望に誘い込むアニシス様にきっぱり、はっきりとお断りを宣言してアニシス様の落胆のため息を聞く。
 「残念ですわぁ」とか言いながらもそこはそこ、アニシス様はちゃんと高速詠唱で【重力魔法】の上書を始める。

「これで大丈夫ですわ。リルさん行きますわよ」

 そう言って再び浮遊魔法で私も一緒にそのエリアを抜ける。
 それからルラたちを追い始めるけど、既にヤリスとルラはあのロープに絡み付かれそれをぶちぶちとちぎりながら先に進もうとしているのだけど……


「あーうっとうしいぃっ!」

「簡単に引きちぎれるけど、すぐにまた伸びて来る~」


 ルラとヤリスはそのロープに苦戦していた。
 身体能力が高い二人は造作もなくロープを引きちぎるも、やはり次々と伸び出るロープに邪魔され先に進めないでいる。

 あのロープ、対象物を捕まえて束縛しようとするから切っても切ってもキリがないようだ。


「【創造魔法】クリエイティング!」

 しかしそれに追いついたノルウェンチームは【創造魔法】で岩のような物を作り上げる。
 そしてそれをロープに投げつけるとロープはそれに反応して亀さんの模様にその岩を縛り上げ大人しくなる。  


「なるほど、あの縄は【束縛魔法】の応用ですわね」

 走りながらその様子を見ていたヤリス様がそう言う。
 つまり捕まってしまえばそれ以上は動きが無くなる訳だ。

 そう言えばスィーフチームも仲間を犠牲にしながらここを渡った時には渡るミリンディアさんには縄が反応してなけったっけ。
 
 ルラとヤリスは力任せにぶち切っても魔法の効力があるから何度でも再生して絡み付いてくる。
 しかしノルウェンチームは作りだした岩でロープの束縛を押さえてその上を渡ろうとする。


「アニシス様、あれじゃいくらルラとヤリスでも!!」

「参りましたわ、これでは後一人分の縄をリルさんに相手してもらう事になってしまいますわ」

「はい?」


 いや、そこはこっちも【創造魔法】で何か作り出して縄に投げつければ良いんじゃないの?
 私が驚きの表情でアニシス様を見ていると、アニシス様はポンと口元で手を合わせて言う。


「【創造魔法】に消費する魔力は膨大で、付近にあるマナを岩に作り替えるには今の私の魔力残存量では出来ないのですわ。となると誰かが犠牲になってあの縄に縛りあげられなければなりませんわ。これはリルさんのその体の色々な所に縄が食い込んでしまうのを見れる絶好の機会ですわ!!」


 ちょっと待てーいぃ!
 勝たなきゃならないけど何故そこで私が犠牲になる前提!?
 しかも何処にその縄を食い込ませる気だ!!

 ヤリス様ははぁはぁと息使い荒く私にその手を伸ばして来る。


「ちょ、ちょっと、アニシス様! 嫌ですってば、いやぁっ! 『消し去る』!!!!」


 嫌だよあんな恥ずかしい格好で縛り上げられいろいろな所に縄が食い込んじゃうなんて!

 思わず私は迫りくるアニシス様の手を振り払い何故か頭の中にあるあの危険な縄をイメージしてチートスキル「消し去る」を使ってしまった。
 その瞬間、ルラやヤリスを束縛しようとする縄も、束縛された岩を足場にここを渡ろうとしたノルウェンチームの縄も奇麗さっぱりと消え去ってしまった。


 ばっしゃーんッ!!!!


 途端にプールに投げ出される面々。

「ぷはっ! 何いきなり縄が消えた!?」

「お姉ちゃんだね、あ、ヤリスの所にクラゲが行った!」

 しまった、この辺のプールには痺れクラゲがいるんだった。
 このままではヤリスとルラが!!


「ん~、今の私にこんなものは効かないわよ? それよりルラは大丈夫なの?」

「うん、今のあたしは防御も『最強』だからチクチクされても全然問題無いよ~」

 二人してあっけらかんとそう言っていると隣で同じくプールに投げ出されたノルウェンチームが一斉に変な声を上げてどざえもんになった。


「あらあら、どうやら【防御魔法】の詠唱が間に合わなかったようですわね? せっかく体中に魔晶石を沢山つけて魔力量を補っていても詠唱が間に合わなければ魔法は発動しませんものね。それではリルさん行きますわよ【浮遊魔法】」

 アニシス様はそう言って自分と私に【浮遊魔法】をかけて対岸の足場まで運ぶ。
 ルラもヤリスもひょいっと飛び上がればすぐに対岸に上がれるのでそのまま私たち四人でゴールする。



『勝者【エルフは私の嫁チーム】!!』


 司会のその声で私たちの勝利が確定した。
 

 わぁああああぁぁぁぁぁ!


 観客席から声が上がりヤリスもアニシス様もニコニコ顔で手を振っている。
 はぁ、何とかこれで目標のベストフォー入り出来た。
 これでヤリスも怒られなくて済むだろうし、アニシス様のティナの国の方も面子が保たれただろう。

 私がそう安堵したその時だった。


「かろうじてのその勝利、ヤリス少しお話があります!」



 勝利を喜ぶ私たちにその声がかけられるのだった。
 
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