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第十二章:留学
12-32大魔導士杯第二戦目その3
しおりを挟む大魔導士杯第二戦目が始まる。
参加チームは合計で八チーム。
これに勝てればベストフォーに入る。
「えーと、うちは第三試合か、じゃあそれまではどんな障害が有るか見ていられるわね?」
ヤリスはそう言いながら控え席でこれから始まる第一試合を見学する。
私たちも同じく控え席でその様子を見ることになるけど、第一試合はあのホリゾンチームと魔道研究チームと言う学生たちの集まり。
魔道研究チームは男性二人に女性二人と言う構成で、出身とかはバラバラらしい。
アニシス様の話ではアニシス様同様の学年で、平民やどこかの魔導士のお弟子さんらしい。
「後ろ盾がないチームとなると実力派かぁ、ホリゾンチームは公国の後ろ盾があるから獣人たちも公国の何かかな?」
「へ? 国が後ろ盾になってるんですか??」
「そうですわね、ただ単にここへ留学させるのではなく国の威信をかけたこの『大魔導士杯』を目指して留学している者もいますわ。ここでの上位入賞はそのままその国の魔道に対する力の誇示にもなりますものね。国の名を背負っているチームは少なからずとも国からの支援を受けている人たちですわ」
となると、ホリゾンチームは皆公国の関係者だけど、相手の魔道研究チームはそうではないけど実力派ってことか。
なんか第二回戦の初戦からピリピリしているのはそう言う事だったんだ。
「お姉ちゃん、始まるよ!」
ルラは指差し第二回戦の第一戦目を見る。
既に両チームとも設置されたプールのようなコースの上に浮いている足場の前で準備をしている。
『さあ、それではこの浮いている足場のコースを回りあそこに見えるゴールにチームの誰か一人でも先に到着すれば勝ちです。なお途中プールに落ちても失格にはなりませんが、その場合海洋生物との遭遇もありますのでご注意ください。それでは第一戦目はじめ!!』
司会のその合図で両チームともに一斉に走り出す。
「見せてもらいましょうですわ、今年の参加者の技量とやらをですわ!!」
アニシス様はそう言ってその勝負に見入る。
「魔術の技量だけが勝負の決め手とはならないわ!」
ヤリスもそう言って刮目する。
「え、えーと。取り合ず心境的にはホリゾンチームに頑張ってもらいたい気もしますが」
同志。
そう、きっと彼女たちも私たちよりはましだけど相手の魔術研究チームのあの二人の女性の揺れるものには思う所があるはず!
くぅうううぅ、なんで人族は皆豊かなのよ!!
何故か心境的にホリゾンチームを応援してしまう私の目の前でいきなり水しぶきが上がる。
『おおっとぉ! ここで早くもホリゾンチームのロティ選手が足を滑らせたぁ!!』
「あれは! 摩擦を軽減する魔法ですわね? フロートの上であの魔法トラップがあるとバランスを崩してプールへ落ちてしまいますわね!!」
アニシス様はいち早くその魔法トラップに気付く。
どうやら足元が滑りやすくなる魔法のようだけど、足場の悪いそこでこれはきつい。
しかし見ると他のホリゾンチームの面々はそれでも体制を維持し何とかここを通り抜ける。
ちなみに魔道研究チームは【浮遊魔法】を使ってここを全員通り過ぎる。
「【浮遊魔法】使ってもいいんですか?」
「魔法障害を越える為には問題無いわね。相手に対して妨害をしている訳じゃないしね」
ふと疑問に思いそう聞くとヤリスが解説してくれる。
なるほど、トラップ回避であれば問題は無いんだ。
私がそう思っているとプールに落ちたロティさんとやらが悲鳴を上げる。
「いやぁ~んっ! なにこれ、体にまとわりつくぅっ!!」
悲鳴が上がった彼女を見るとクラーケンがへばりついている。
それはもうもううねうねと!
「うわっ、何ですかあれは!?」
「あれはボヘーミャの港近くに沢山いるクラーケンですわね。確か魔力に反応して絡み付いてくると言う厄介な相手ですわ」
魔力に反応してまとわりつくクラーケンって……
「もう、離れてよ!! 【身体強化魔法】!!」
「あっ、それやっちゃたらまずいのに!」
もがいているロティさんは身体能力を底上げする魔法を使ったようだ。
しかしその瞬間、ちっこいクラーケンが更にロティさんにまとわりつく。
「うわっッぷ! ちょ、ちょっと何処に入り込んでるのよ!!!? いや、そこ駄目ぇっ!!」
なんとあのクラーケンたちはロティさんの水着の中にまで入ってうにょううにょうとうごめく。
「いやぁーっ! らめぇっ!!」
うおぉおおおぉぉぉぉっ!
途端に会場にもどよめきが。
いや、なんか嬉しそうなんだけど……
「何と恐ろしいのでしょうかしら! あの攻めは的確に彼女の敏感な場所を攻めていますわ!」
「ああっ、なんか可哀そうだけど可愛い子が悶える姿は萌えるわ!!」
アニシス様とヤリスはそう言って何故か興奮している。
いやいやいや、あれってまずく無い倫理的に!
「うーん、魔法使うと余計にくっついてくるんだ。じゃあさ、あたしのスキルなら問題無いのかな?」
「スキルは確かに魔法じゃないから反応はしないかもだけど、魔法を使えないってのはそれはそれで大変かもしれない……」
私たちも精霊魔法以外に授業で少しずつ魔法を習っている。
生活魔法以外にもその原理を説明されそして実戦もしているのでそこそこ上達はしている。
そもそもエルフは体が華奢ではあるけど保有魔力量は人族より多い。
それは魂の構造が違うかららしい。
保有数る魔力が多い理由はあの「命の木」のお陰らしい。
あっちの世界に存在する私たちの「命の木」が魔力保有をしているらしく、こっちの身体以外にもあっちの世界の魔力を使える分エルフは人族より魔力容量が多いとか。
それを授業の中で話された時には周りの子からうらやましがられたけど、ソルミナ教授の理論では人族の魔力量もギリギリまで使い気絶するくらいの酷使をするとその容量が徐々に増えていくらしい。
但しそれは成長期までがほとんどで、大人になってからそれをやってもなかなか容量が増える事は無いそうだ。
「でも、プールに落ちるとああ言った海洋生物が襲ってくるんじゃたまったもんじゃありませんね……」
私がそう言うと何故かアニシス様とヤリスがこちらを見て赤い顔をする。
「リルさんが海洋生物に凌辱されるのですの?」
「リルのいけない姿が!?」
いやそこ、なに私が酷い目に遭うの前提で嬉しそうにする!?
「あ、お姉ちゃん次の障害に入ったみたい!!」
ジト目でアニシス様とヤリスを見ているとルラがそう言って指さす。
見れば次の場所は高い壁がある。
それをよじ登るか何かしなければ越えられそうにない。
と、魔道研究チームは引き続き【浮遊魔法】を唱えその壁を越えよとする。
だが、ここでホリゾンチームはあの狼みたいな獣人の女性が一瞬でその壁を駆け上り、魔法のロープを残りの二人に向かって投げて一気に引き上げた。
この辺は流石に身体能力が高い獣人族。
【浮遊魔法】でちんたらと障害を越えていた魔道研究チームを大きく引き離す。
「この辺は純粋に体力勝負ですわね」
「魔道だけではなく、体力も必要ってことね?」
普通の障害もあるのかと私はそれを見ていると……
いきなり障害を越えたホリゾンチームの面々が獣人の女性を抜いてみんな膝をついている!?
「お姉ちゃん、魔道研究チームが落っこちていくよ!!」
「え?」
見えれば【浮遊魔法】でやっと壁を越えた魔道研究チームの面々がコントロールでも失ったのか、いきなりフロートの上に落っこちる。
そしてホリゾンチーム同様へばりつくかのようにそのフロートに膝をついていた。
「どうやら【重力魔法】のようですわね、普通の障害と思わせてそのちょっと先にすぐに次のトラップを仕掛けておくとはですわ」
「うっわぁ~、気を抜いたところにトラップ?」
なるほど、次の魔道トラップが発動していたのか。
しかも気を抜いたその矢先に準備するとはなかなかえぐい。
この勝負、第三試合でよかった。
私はこの障害レースのそのえぐい障害をまじまじと見るのだった。
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