上 下
250 / 437
第十二章:留学

12-3食事

しおりを挟む

「これはお刺身!? まさか生魚が食べられるだなんて!」

「ん~、こっちはお魚煮たやつだねぇ~」


 私とルラは思わずうなる。
 お刺身は白身魚だけど、ちゃんとお醤油とわさびも付けられ大根のつまの上に青しそのような物が敷かれ、飾りに小さなお花も添えられている。
 
 煮魚も型崩れすることなく奇麗に煮られて、芽生姜とかさやえんどうの湯がいたものが飾られていた。

 前菜から始まって様々な小料理が連続で出て来る。
 そしてそのどれもが正しく和食。
 しかも懐石料理。
 
 どれもこれもハイレベルな味わいでもの凄く驚かされると同時に、にわか和食の私とは次元が違う。


「凄わねぇ~、このお野菜お花の形しているのね?」

「こっちは果物の恰好をしているけど全く別の食材か、何とも驚かされるね」

 お母さんもお父さんもこの料理に驚いている。
 そりゃぁ確かに本物の和食、しかも懐石料理を出されればそうもなる。


「どうだい? 今回は季節の良い魚が入ったから魚料理を中心にして見たが、刺身は大丈夫かい?」

 イチロウ・ホンダさんはニカッと笑いながら目の前で次の魚をさばいて見せる。
 それを見ながらお母さんはイチロウ・ホンダさんとファイナス長老に言う。

「初めて食べたけど、思いの外血なまぐさく無いものなのね? でもこれが有名なファイナス長老のおもてなしですか」

「来賓の時にイチロウにお願いして作らせているものですね。普段はもっと簡単なものが多いですが、イチロウの料理はどれもこれも素材の味が引き出されていてエルフである私たちにも食べやすいものが多いのですよ」

 ファイナス長老がそう言っているとアレッタさんと言う胸の大きなエルフのお姉さんが徳利を持って来てファイナス長老たちのお猪口に透明な液体を注ぐ。

 さっき聞いたけどこのアレッタさんってイチロウ・ホンダさんの奥さんなんだって。
 だからイチロウ・ホンダさんも千年以上こっちの世界で生きているとか。
 うーん、あんなに美人な奥さんにもらうだなんて、イチロウ・ホンダさんも隅に置けない。 

 と、ここで徳利から注がれるその液体の香りに私は気付く。

「あの、もしかしてそれって日本酒ですか?」

「ふむ、分かりますか? これはボヘーミャで醸造している日本酒です。ここの気候では高かすぎて発酵がうまく行きませんからね」

 学園長はそう言ってお猪口をくいっと傾ける。
 
 日本酒があるなんて……
 そう言えばお醤油も生醤油っぽいし、煮物に田楽とか有るからお味噌もあるってことよね?
 漬物もどうやら米ぬかを使った奴らしく、カブとか人参、大根が良い感じでつかっている。

 この世界にも醤油や味噌、お酒とか有るんじゃないの!!


「お母さん、こう言った食べ物って知っていたの?」

「聞いた事はあるけど、食べるのは初めてよ。それにエルフの村にいるとお腹がふくれればあまり味は気にしてなかったからね」

 うん、エルフ族の問題はそこなんだよねぇ。
 外の世界に出ている渡りのカリナさんたちはエルフの村の食事のまずさを知っている。
 いや、素朴でその素材自体を味わうには良いよ?
 エルフ豆だって新鮮なのは確かに美味しい。

 しかしこう言った和食を出されれば如何に普段自分たちが食べている物がマズ飯だか分かると言うモノ。


 お母さん、あなた知っていたのに毎日エルフ豆だったのかーいぃ!


「うーん、あたしこう言うの嫌いじゃないけどもっとお肉とか食べたいなぁ~」

「お? そっちの嬢ちゃんは肉が好きなんか? 待ってな、今串カツも揚げてやるからな」

 そう言って今度はイチロウ・ホンダさんは揚げ物の準備を始める。
 てんぷらかと思ったけど、どうやらフライのようだ。

 見ているとお肉とかに切れ込みを入れたりと流石に芸が細かい。


「あれ、野菜にまで切れ込み入れるんですか?」

「ああ、こいつは串カツって言うらしいがな、エルハイミの嬢ちゃんから教わったやつで火の通りをよくする為なんだよ」

 え?
 エルハイミさんとも面識あるんだ、イチロウ・ホンダさん。
 あ、でも、ファイナス長老のお抱え料理人ならそれもそうなのか……


「イチロウはエルハイミからもアインからもいろいろな料理を学んでいますからね。私も一旦あちらの世界に帰りましたが、役目を終えたのでまたこちらに戻った時にあちらの新たな食べ物も持ち帰りイチロウに再現してもらっています」

 学園長はお猪口をくいっとしながらそんな事を言っている。
 
「ユカさんにも教わったあのカキフライってのは美味いよな。あっちの世界じゃもうみんな腹いっぱい食事が出来るって話じゃないか? そうだ、エルフの嬢ちゃんたちもあっちの世界の料理について教えてくれねぇか? どうやら俺らよりずっと後の時代から来たみてーだしな」

「えっと、それはいいんですけど、代わりに少しお醤油やお味噌なんか分けてもらえませんか?」

 お米が手に入って醤油やお味噌があれば日常的二だって和食が食べられる!

「それについては学園にもあります。あなたたちは私たちと一緒に住むのですから基本は和食となります」

 学園長は私とイチロウ・ホンダさんが話しているとそう言ってくる。

 え?
 身元引受人はマーヤさんじゃなかったの??
 一緒に住むってどう言う事?

「あ~そうか、二人には言ってなかったわね。学園では私たちの家に住んでもらうけど、ユカも一緒なのよ」

 マーヤさんは美味しそうに串カツを食べながらそう言う。
 えーと、マーヤさんが学園長と一緒で、私たちも学園長と一緒に住むってこと?

「しっかりと鍛えてあげますから覚悟をしなさい」


 そう言って学園長は私とルラを見て薄く笑うのだった。
  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

TSしちゃった!

恋愛
朝起きたら突然銀髪美少女になってしまった高校生、宇佐美一輝。 性転換に悩みながら苦しみどういう選択をしていくのか。

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...