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第十一章:南の大陸

11-12忘却の彼方で

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 今私たちの目の前にヤツメウナギ女さんが胡坐をかいて遠い過去の記憶を話している。


 それは神話の時代にまでさかのぼり、何と「女神戦争」の話であった。

 当時女神様たちはその従者である者たちの言い争いを発端に誰が美しいかと言う小ゲンカを始めた。
 そして各女神様に従事していた種族は自分の女神様が一番と小競り合いを始め、やがてそれが女神様たち自身を巻き込む大喧嘩に変わって行った。

 それを押さえる為に天秤の女神、アガシタ様が天空に浮く青と赤の月を欠いて生み出されたが、その審判にはアガシタ様の天秤に相手の心臓を載せる必要があり、結果女神戦争はいよいよ殺し合いと言う悲惨な結末にまで発展してしまった。


『なので我が崇拝する水の女神ノーシィ様に着き、わがままなジュリ様と対峙したのじゃよ。しかしながら我が力及ばずジュリ様の業火に焼かれ干物になり我はここへ封印されたと言うことなのじゃよ』

 びっと水かきの付いた人差し指を立ててそう説明する。

『その時に我が同盟であったエルフ族の一部が加戦をしてくれたのじゃがな、全くを持って口惜しや』 

「は、はぁ、そうなんですか……」


 私はその話を正座しながら聞かされるけどいい加減に足がしびれて来た。
 ルラなんかあまりにも話が長すぎて船漕いでいるし、パキムさんはずっと胡坐欠いたままシュルシュルと下の出し入れをしている。


『でじゃな……はて、何処まで話したかのう? おお、そうじゃ我が何故此処に封印されたかじゃったかの!』

「あの、すみませんがそのお話五回目です……」


 流石に私も我慢できずに片手をあげてヤツメウナギ女さんに提言する。
 すると人差し指を顎に当て八つの目で上を向いてしばし考えこむ。

『ふむ、そうじゃったかのぉ~、まあ良いわ。それでじゃな~』


 長い!

 もう少なくとも二時間は堂々巡りの昔話を聞かされている。
 それも正座させられて!!
 既に足は痺れ感覚がなくなり始めている。
 動こうにも今は足がしびれてて動けないだろう。


「ふわぁ~、んむにゃ、お話終わったぁ~?」

「まだよ! ルラ、あんた足痺れてないの??」

「うん、あたしは正座も『最強』だからね~」


 何それずるい!
 まさかルラのチートスキルはそんな事にも使えるのか!?

 
 内心うらやましく思えっていたらルラはいきなりヤツメウナギ女さんに核心的な質問をする。 


「ところで、なんでここへ田ウナギがあんなに集まってるの?」

『ん? 我はヤツメウナギ故、原種じゃ。あ奴等は我の子孫のようなモノで我の復活の呼びかけにたまたま応答した連中じゃよ』

「はい? 原種?? じゃあ、田ウナギたちはヤツメウナギさんの子孫なんですか?」

『厳密には違うじゃろうが、我が同胞たちは見当たらんしな。当時も我が種族はその数を著しく減らしておった。しかし我が呼びかけに答えたのであれば我が血筋に連なるものであろう!!』

 そう言ってからからと笑う。

「いや、子孫かどうかもはっきりしないのを呼び寄せて復讐とか…… って、そうだ! ヤツメウナギ女さんは一体何に復讐をするつもりだったんですか!?」


『そうじゃ、我は復活をして女神ノーシィ―様の怨敵、ジュリ様に復讐をするのじゃった!! ジュリ様はいずこに!?』


 ハッとして元々の目的を思い出したかのように言う。
 私は大きくため息を吐いて指を天に向けて言う。


「伝承では古き時代の女神様は『女神戦争』で共倒れになり、その魂は天空の星座になられたと聞きます」

『な、なんとっ! では女神ノーシィ―様は!? 怨敵ジュリ様もか!?』


 私のその話を聞いてヤツメウナギ女さんは大いに驚く。
 そして立ち上がり大声で天に向かって叫ぶ。


『女神ノーシィ―様ぁーっ! なんとおいたわしやっ!! ノーシィ―様ぁーっ!!!!』


 ぐぎゅるるるるるぅ~


『と、それはさておき腹が減ったのじゃ。何か食うものは無いのかえ?』

「かるっ! い、いや、ご理解いただけたなら良いのですが。そうしたらもう田ウナギたちはここに居る必要ないですよね?」

『ふむ、怨敵ジュリ様がおられぬなら我のやる事は無くなった。それより腹が減った、何か食い物は無いのかえ?』

「あ~あたしもお腹減ったぁ~お姉ちゃんご飯!」


 ずいぶんと軽いのだけど、お腹すいた言われてルラもご飯を欲しがる。 
 どうしたものかと、ちらっとパキムさんを見るとようやく口を開いた。 


『ふむ、今は我らリザードマンも今生の女神様に仕えるので、過去の敵となるヤツメウナギ女殿にどうこうも無しか。ヤツメウナギ女殿、田ウナギどもを何とかしてもらえんでしょうか? こ奴等がいると作物が荒らされてしまい我らリザードマンの食料確保も難しくなってしまいますので』

『ん? こ奴等をここから退かせばよいのか? そんな事は簡単じゃ!!』

 パキムさんのお願いにヤツメウナギ女さんは片手をあげると田ウナギたちは一斉に鎌首を上げてにょろにょろと踵を返してどこかに行ってしまった。

 そのあまりの様子に私は暫し放心してしまう。
 今までのは何だったのだろうか?


『それより飯を食わせよ! 生きの良い者の生き血が良いの!!』

「はいっ!? い、生き血って、ヤツメウナギ女さんって吸血鬼なんですか!?」

『馬鹿者、あのような見境ない種族と一緒にするではない! 我はその体液をちび~っとずついただいているだけじゃ! 奴等は血液を吸い切って相手をカラカラのミイラにするじゃろうに!! それに我には顎が無いのじゃ、液化物以外食えんのじゃ!!』

 そう言って顔を上げるとその下から丸い歯のびっちり生えた口が現れた。
 それは三角の牙が何層にも輪っかのようになっていてびっちりとしている。
 怖いし気持ち悪いしで


「にょぉええええぇぇぇぇぇぇっ!!」

「うわっ!!」

『な、何とぉッ!?」


 思わず私もルラもパキムさんもそれを見て悲鳴を上げる。 
 しかしヤツメウナギ女さんはバコンとまた顔を下に戻し何事も無かったように話を続ける。


『とにかくずっと封印させられて腹が減っておる、何か食い物をくれなけばおぬしらの血を分けてもらうぞ?』

「ひょえぇえええぇえぇぇぇっ! 何か作ります、作るから吸い付かないでくださーぁぃいっ!!」


 
 私は慌てて腰のポーチに手を突っ込み食材をあさり始めるのであった。

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