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第十章:港町へ

10-19歌声

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 フライドチキンって久しぶりに食べた。
 しかもあの白髭眼鏡おじさん人形の赤と白のお店のやつに味が似ているフライドチキン。
 圧力鍋のお陰でお肉も柔らかく、もうこれって完璧よね?


「あはははは、お姉ちゃんなんか楽しいねぇ~」

「うん、美味しく出来て良かったねぇ~」

「これは旨いな、是非とも俺にもレシピを教えてもらいたいな」


 何だろう、どう言う訳かものすごく楽しい。
 これってやっぱりおいしいもの食べられているからかなぁ?

 何となく甲板を見ると他の水夫の皆さんもやたらと楽しそう。
 お酒も出回ってみんな更に盛り上がっている。


「おい、月が出てきたぞ! こんな所にいかりをおろして止まってないであの二つの月を追おうぜ!!」

「それ面白いな、うまくいけば天界の女神様にも会えるぞ!」

「いいなやろうやろう!!」


 水平線から上り始めた赤と青の二つの月。
 この世界の月は二つあって、それが重なると冥界の門が開くと言われている。

 そんな危なっかしい場所だけど今なら水平線に出てきたばかりで急いで行けばそこへたどり着けそうだ。

 どんな門になっているのかな?


「よぉしぃ、お前らいかりを上げろ! あの月に向かって出航だぁ~」


 おおぉ~っ!


 なんか皆さんも盛り上がって船を出航させようとする、こんな暗くなった岩礁が多い海で……


「岩礁が多い海って危ないのかなぁ?」

「そりゃぁ危ないわな、下手したら船に穴が開いて沈没だ。そうしたら俺は船長を廃業してフライドチキンの店でも開くかね!」

 そうか危ないんだぁ。
 でも今は楽しいからいいかな?
 う~ん、でもやっぱ気になるから内緒で岩礁を「消し去る」かな??

 私はものすごく機嫌よく船の端っこまで行って水面に見え隠れする岩を見据える。


「面倒だね、あんなに有るなんて! じゃぁ目に入るこの辺の岩礁を全部『消し去る』っと!」

 もう何やっても楽しくて仕方ない。
 でも私のチートスキル「消し去る」が発動して船の先に見える海域の岩礁が消えた瞬間だった。

 今まで聞こえて来ていたあの歌声が途切れた。

 そして途端に楽しい気持ちが消えて目の前に見える黒々とした夜の海が波打った。


「って、なんで夜間航行してんだ俺らは!? この辺は岩礁地帯だ、夜間に座礁したら船が沈んじまう!! すぐに船を止めろ!!」

 デーヴィッドさんは慌てて水夫の皆さんに指示を出す。
 そして夜間に航行を始めた船は間もなく止まった。


「ふうぅ、幸い岩礁があまりなかったおかげで沈没せずに済んだ。しかし俺らは一体何をしていたんだ?」

 額の汗を手で拭ってデーヴィッドさんは甲板を見渡す。
 水夫の皆さんも今までに高揚していた気分が一気に冷め、自分たちがしていたことに驚きと戸惑いを感じている様だった。


「ねえ、お姉ちゃんあの歌声が聞こえなくなったよね?」

「歌声? ・・・・・なんでこんな海の上で歌声が聞こえて来ててのかな?」

「歌声…… だと? しまった! マーメイドか? それともセイレーンか!?」

 デーヴィッドさんはいかりを急いで降ろさせ、かがり火で周辺を確認させる。


「どう言う事ですか?」

「女の歌声がこんな海のど真ん中で聞こえてくる時は魔物が俺たちの船を沈めようとしている時だ。人魚か羽の生えた女の化け物の歌声は船乗りを惑わす。ちくしょう、美味いものが喰えるんで気を許し過ぎた!」

 そう言うデーヴィッドさんは自らもたいまつを掲げ周辺を見る。


「お姉ちゃんあれ!」


 暗がりの中ルラが何かを見つけた様だ。
 真っ暗でも私たちエルフは夜目が効くし遠くまでよく見える。

 船の右手、ちょっと離れた所の岩の上に琴を持った女の人が座っていた。
 しかし彼女の下半身は人のそれではなく、魚のようになっていて腰のあたりには羽が生えていた。


「デーヴィッド船長、あそこ!」


 私はデーヴィッドさんに彼女の方を指さしながら言う。
 すぐにかがり火をそちらに向けて見るけど少し距離がある。


「どこだ? くそ、遠くて暗いおかげでよく見えない! いや、あれか!?」

 どうやら何とか見えた様だ。   
 
「セイレーンだな…… 気をつけろ! セイレーンは複数で襲ってくることがあるぞ!!」

 デービッド船長がそう叫ぶと同時に岩に腰かけていたセイレーンが翼を開き飛びあがった。
 そしてこちらに向かってくる。


「お姉ちゃん下がって! あたしは『最強』!!」


 すぐにルラがスキルを発動させて私の前に出る。
 しかしこちらに向かっていたセイレーンは直前で急上昇をして声高々に言う。


「人間共! 我が愛しの一角獣が我を娶り子を授かるまでこの地から離れろ!! さすれば見逃してやる!!」


 船の上空を旋回しながらそのセイレーンはそう言う。

「なっ!? 一角獣だとぉ!?」

 セイレーンのその言葉にやたらと驚くデヴィッドさん。
 私は思わず聞いてしまった。

「どう言う事ですか、デーヴィッドさん!?」

 セイレーンのその言葉にデービッドさんは驚きに口を開いたままだったが、私の質問に驚いた顔のまま言う。

「一角獣ってあのボテ腹だぞ? セイレーンはたまに気に入った人間の男を襲って子供を作るが、相手があの一角獣だとぉ!?」

 いや、驚く所がそこなの?
 私は上空を舞うセイレーンを見る。

「あっ」

 よくよく見れば結構な美人だった。
 うーん、もしかしてデヴィッドさん美人のセイレーンが一角獣を好きになっているのに驚いているの?


「よいか、我が愛しの一角獣に害をなすならこの我が許さん! 早々にこの地を去るが良い!!」


 そう言ってそのセイレーンは飛び去ってしまった。
 後には何故か呆然と立ちすくデーヴィッドさんと水夫の皆さん。


「えっと、どうします?」

「許せん…… セイレーンに襲われ子供を作るのは男冥利に尽きるが、あの一角獣にだとぉ!?」

 何故か血の涙を流し悔しがるデヴィッドさん。
 そして皆さんを見ればやはり同じように歯ぎしりしたりこぶしを握ってふるふると震えている。


「「「一角獣許すまじ!!」」」



 何故か男たちの声が一斉に重なって何が何でも一角獣を駆除してやると意気込むのだった。

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