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第十章:港町へ

10-6宿屋

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 冒険者ギルドで伝言サービスをしてとりあえずはひと段落。 
 なので本日はここイーオンの町に宿をとる事とした。


「おすすめの宿かぁ…… とは言ってもイーオンの町に宿屋は三つしかないからな。俺が泊まっている『赤亭』と町の北側にある『青亭』、後は中央にある『黄亭』だな」

「なんか名前が面白いですね。どこもかしこも色が名前になっているなんて」

 リンガーさんの説明を受けて私はそれぞれの宿屋について聞いてみる。
 するとリンガーさんは一つ一つ説明を始める。


「まず俺が泊まっている『赤亭』だけど、とにかく安い。銅貨五十枚って破格の安ささ。但し壁は薄い。手を着くと壁が壊れて隣の部屋に突き出てしまうと言われている」

「ははははっ、まさか。大袈裟ですね~?」

 いくら何でもそんな宿屋ってある?
 まあ、隣の部屋の話し声が聞こえちゃうってのはあるかもしれないけど。

「いやいや、壁に画びょうを刺したら隣の部屋から悲鳴が上がったという伝説もあるんだよ」

「なんですか、それ。しかも伝説って……」

 一体どんな宿屋よ?
 ちょっと噂に輪をかけすぎた様なお話になっている。


「それでそれで、他は~?」

「えっと、北側にある『青亭』は普通かな? 特に可もなく不可もなく。まるでこの町のようだよ。お値段も銀貨一枚くらいだからね」

 ルラの質問にリンガーさんは答え始める。
 「青亭」は聞いた感じ本当に普通のようだ。
 そうなると気になるのは最後の「黄亭」だ。


「そんでもって最後の『黄亭』なんだけど、ここは貴族とかが良く泊まる宿屋だよ。お察しの通り値段も高いけど設備も食事も良い。まあ普通の旅人なんかは絶対に寄らない所だけどね」

 言いながら立ち止まるリンガーさん。
 リンガーさんは私たちを見て言う。


「どうする? 宿屋にまでは案内するよ?」

「うーん、どうしよかなぁ……」

 正直お金に余裕はある。 
 そして久しぶりにベッドで寝られると言う事となれば多少はお金を出しても良いかな?


「ねぇねぇ、それでどの宿屋がご飯一番おいしいの?」

 私が悩んでいるとルラがリンガーさんに食事について聞く。
 リンガーさんは顎に指を当てしばし考える。

「まあ、値段を考えなければ『黄亭』が確かに一番うまいかな? もっともそれは素材が良いもん使ってるからで、料理の腕自体は普通かもな。『赤亭』は一階の酒場は安酒を飲ませる店らしく、まあ安いけど味は食って食えないレベルじゃない。『青亭』はそれこそ普通だな」

 そこまで言ってリンガーさんは私を見る。


「おすすめは泊まるなら『青亭』で飯は外に出て他の飯屋に行った方が良いかもな。もしよければ俺が知ってる飯屋を紹介するよ。どうせこの後俺も行くからな」

「なるほど、食事をその宿屋の食堂でしないで外で食べるって事ですか。それもアリですね」

 今までは宿屋兼酒場がほとんどだったのでそう言う考えが無かった。
 でも考えてみれば街中には食事だけできるレストランみたいなのもあるから要は考え方だ。

「なんなら一緒に『青亭』に行って飯抜きで代金を安くするように交渉を手伝うぜ?」

「そうですね、リンガーさんおすすめのお店も気になるし、お願いしましょうか」


 私はそう言って再びリンガーさんと一緒に歩き出すのだった。


 * * * * *


「さてと、宿も取ったしここが俺のおすすめの店だよ!」


 リンガーさんのおすすめのお店は「青亭」から近かった。
 歩いて数分で着くそこは赤っぽい屋根の白い壁のお店だった。

「なんかおしゃれなお店ですね?」

「ああ、でも味は確実だぜ」

 リンガーさんはそう言ってお店の扉を開ける。

「いらっしゃいませ~」

「おう、久しぶり。ハッドはいるかい?」

 お店に入るとウェイトレスの女の子がテーブルに案内してくれる。
 そんなウェイトレスさんにリンガーさんは知り合いらしいハッドさんとか言う人がいるかどうか聞く。

「店長ですか? いますよ、店長ぉ~、リンガーさんですよ~」

 ウェイトレスの女の子はそう言って厨房らしき奥へ声をかける。
 すると奥からリンガーさんと同じかそれより少し若い感じの男性が出て来る。


「リンガーの兄貴が戻ったのかい? 兄貴! 久しぶりだな!!」

「おう、元気だったかハッド。景気はどうだい?」


 肩を抱き合って喜ぶ二人。
 だいぶ仲がいいようだ。


「あのぉ~、こちらって?」

「ああ、悪い悪い。こいつは俺の弟分で小さな頃からの付き合いがあるんだ。二人してこのイーオンの町に出ていたんだがね、俺は行商、こいつはレストランでこの町でやって行こうってね」

 リンガーさんはそう言ってハッドさんを紹介してくれる。

「どうも、リルです。こっちの子は双子の妹のルラです」

「へぇ、エルフの知り合いかい、兄貴? 俺はハッド、俺の店へいらっしゃい」

 そう言ってハッドさんは手を差し伸べる。
 私もルラも握手してから席に改めてつく。

「へぇ~、リンガーさんとハッドさんって兄弟じゃないんだ」

 ルラのその言葉にリンガーさんとハッドさんもニカっと笑う。

「まあね、でも兄弟みたいなもんさ」

「だな、それよか兄貴、何時もので良いのかい?」

「ああ、頼むよ。リルちゃんとルラちゃんも同じものでいいかい?」

 私が頷くとハッドさんは厨房へと戻ってゆく。 
 そして何やら料理を始めた様だ。


「ここの店は野菜とかをたっぷり使った料理が美味いんだ。この辺で取れる野菜なんかを使っているから新鮮だしね」

「なるほど、野菜が多いと私たちエルフには助かりますね。お肉も魚も食べられますけど、あまり得意じゃないので」

 どんな料理かは出て来てからのお楽しみって感じだけど、野菜を豊富に使っているのはうれしい。
 ルラはちょっと残念そうだけど、いつもお肉ばかり食べさせるわけにはいかないもんね。



 私たちはどんな料理が出て来るのか楽しみに待つのだった。 

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