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第九章:道に迷う

9-26ドーナッツ大会開催

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「それでは今より試食会を始める、参加者ドーナッツは前へ!」


 二日後の朝、ドーナッツ委員会による試食会開始のアナウンスが入った。
 既に広場には参加ドーナッツが二百強という数で整列している。

 ドーナッツお土産専門店から一般家庭まで、おおよそドーナッツに対して味に自信のある人たちが参加をしている。

 あ、勿論ジップロク村長も参加している。


「うわぁ~、ドーナッツだらけ……」

「これから三食全部ドーナッツですか……」

「うーん、太っちゃいそうですね……」


 私たちもそのドーナッツの山を目の前に唖然としている。
 
 ちなみに今朝宿屋に確認したら朝ごはん以降の食事提供はドーナッツ大会が終わるまで停止するとの事だ。
 食事は投票札を持っていればドーナッツ食べ放題なのでそれでまかなってくれとの事で、宿屋の主人もドーナッツ大会に参加する為に忙しいらしい。
 
 広場は既にお祭り騒ぎで村の人々は興奮状態だ。
 今回参加する二百強のドーナッツたちを持って参加者が自慢のドーナツについてアピールトークを始める。


「参加者ナンバー一番ジップロク、伝統的なドーナッツこそ真のドーナッツ! 全てはここから始まった。皆の者、真なるドーナッツを味わうのじゃ!!」


「参加者ナンバー二番タペスト、日々味わうドーナッツを目指している。伝統的な味に現代の好みを取り混ぜた皆が毎日食べれるドーナッツだ!」


「参加者ナンバー三番ローゼフ、今回のドーナッツは食べれば気持ち良くなり、まるで天国に行ったような感覚が味わえるドーナッツだ! 新時代のドーナッツを是非味わってくれ!」


 いやちょっと待て、三番目のローゼフさん、それってヤバい物入っていないか?


 次々と自慢のドーナッツをアピールする参加者たち。
 どうやらこの口上が終わるといよいよドーナッツの試食が始まるらしいのだけど、一つ二つならおいしくいただけるだろう。
 でも二百個強なんてどれがどれだか分からなくなりそうだ。


「それでは試食を始める、今この村にいるものすべてが全種類のドーナッツを食べて投票をする事。全員が食べ終わるまで本会は続けるので、食べ洩れの無いよう注意されたし。なお、食べ漏れがあった場合は投票後その人物に皆の前で食べ漏れのドーナッツを食べてもらうので忘れずに! では試食開始!!」


 げんなりする私の前でいよいよ試食が始まった。



 うぉおおおおおおぉぉぉっ!



「な、なに!?」

「お、お姉ちゃん怖い!」

「こ、これは!!」

 試食会が始まったとたんに村の人々がドーナッツに飛びつく。
 そして参加ドーナッツにかぶりつき投票札に確認の印を次々に押してもらう。

 呆然とする私たちに宿屋のおかみさんが来て言う。

「あら、お客さんじゃないの? ほら早く食べられるうちに食べておいてハンコウもらっておいた方が良いよ。後になればなるほど食べるのがきつくなってしかも胸焼けも始まるからね。それと一押しのドーナッツは先に食べておいた方が良いよ、後に食べると味も何も分からなくなるからねぇ」

 にこにこしながらそう言って腕まくりして試食の中に入ってゆく。

 いや、そこまでしてドーナッツ食べたくないんですけど……


「どうしようお姉ちゃん、食べなきゃだめなんだよね?」

「取りあえず村長のドーナッツは先にいただきましょう。食べ漏れで皆さんの前で食べさせられると村長さんに怒られそうですからね」

 ルラもイリカさんもそんな事言っているけど、私たちだって食べなきゃこの村から出られない。
 先ほど実行委員会も言っていたけど、そのドーナッツ大会の期間は村に結界が張られて出入りが出来ないらしい。

 私は大きくため息をついてイリカさんの言う通り最初に村長さんのドーナッツを食べに行くのだった。


 * * *


「うっぷ、もう無理……」

「あ、あたしも……」

「流石に連続でドーナッツはきついですね……」


 あれから数時間。
 私は十個、ルラは十三個、イリカさんは十一個。
 何とか食べ終わったのは十分の一にも満たない数。

 最初の一個二個は確かに美味しい。
 しかし四つ目を超える頃にはもうお腹がふくれ、食べるのがつらくなってきた。

 こっちの世界に来てエルフの身体になってから余計なんだろうけど、食べられる量が減ったような気がする。
 
 それにいくら小麦が主成分でも、油や砂糖、卵なんかも使われているからすぐにお腹にたまる。
 生前ミスターのドーナッツ屋さんが食べ放題した時に行きたがっていた私に言ってやりたい、「美味しく食べれるうちが華」だと。


「お姉ちゃん、ドーナッツ怖い……」

「ルラ、それ言うと更にドーナッツ来るわよ。『牡丹餅怖い』って知ってる?」

 ふるふると手に持つドーナッツを口に持って行こうとしてやはりやめてを繰り返しているルラにそう言う。

「まだ一割も行っていないですね。持久戦になりますね……」

 イリカさんのその言葉に思い切りため息を吐く私だった。


 * * * * *


 二日目の朝、それでもお腹がすく。

 起きて着替えて身支度が終わったら広場に行く。
 とりあえず端から順に食べているので漏れはないと思うけど、手渡された投票札に何を食べたか確認する機能が付いているのは助かる。

 食べる前に確認印札を確認印に近づけると捺印済みのモノは札が淡く光ってくれる。
 おかげで食べ漏れは回避できそうだけど。


「う~、朝からドーナッツぅ~」

「ルラ、油を落とすお茶もってきたから、これ飲もうね」

「整腸剤の薬もありますよ」


 朝から山積みのドーナッツたちを目の前にしてげんなりしているルラにお茶を渡しながら私も朝から食べなければならないドーナッツの山を見る。
 ありがたい事にイリカさんが整腸剤を持っているらしいけど、それは最後までとっておきたい。

「とにかく、お腹が空いているうちにドーナッツ食べちゃいましょう!」



 そう言って私たちは朝からドーナッツの山と格闘を始めるのだった。  

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