176 / 437
第九章:道に迷う
9-20ガリーの村に行く前に
しおりを挟む「うーん、何と言うか、可もなく不可もなく……」
私はロックワームの塩焼きを口にして唸る。
何と言うか、臭みは無くてさっぱりしているのだけど逆に言えば味気ない。
どちらかと言うと魚のたらを焼いたやつみたいに白身でぱさぱさしているような感じ。
鶏のささ身とはまた違うもう少し筋張ったそれは食べて食べられない訳では無いが好んで食べようとは思わない味。
「これ、本当に食べるつもりなんですか?」
『大丈夫だがに、リルの嬢ちゃんならきっとう美味くしてくれるだがに』
そう言う長老さんのオーガ。
期待してくれるのはいいけど、こう言った素材って実は料理が難しい。
食材ってそのものがもつ味などに準じて料理するのが鉄則。
甘みのある素材に辛い味付けをしてもなかなかうまくいかないモノである。
勿論それを吟味してわさびソフトクリームみたいに真逆の味を楽しむってのもあるだろうけど、それは元の味を知っている前提となる。
なのでこう言った癖があまりない食材を美味しくいただくのって意外と難しい。
「うーん、癖は無いけど少し筋っぽいからなぁ。下味をしっかりつけてフライにでもしてみましょうか?」
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。フライにするならタルタルソース付けて食べたい!」
私が悩んでいると横でルラがそう言ってくる。
タルタルソースか……
私は魔法のポーチの中にどんな食材や調味料が有るかもう一度思い出してみる。
「うん、いけるかな? やってみましょう!」
そう言いながら食材を取り出し始める。
ガリーの村には明日あたりに着けそうだと言うので、今日はここらで野宿となった。
先ほど襲って来たロックワームたちはオーガの皆さんに奇麗にさばかれて白身が多い肉の塊となって私の前にある。
先ほど、ほんのちょっと塩焼きにして味見したけど今回はロックワームのフライにタルタルソースを作って行こうと思う。
まずは下ごしらえで、ロックワームのお肉を手ごろな大きさに切ってボールに入れる。
そしてそれに塩とお酒を振って軽く混ぜておく。
その間にオオトカゲの卵を取り出してルラに手伝ってもらう。
「えーと、毒素を『消し去る』! よしっと、これで大丈夫だと思うわね」
タルタルソースを作るにはまずはマヨネーズが必要だ。
鶏の卵ではないけどオオトカゲの卵は濃厚な味わいがした。
ただ、生で使用するからもし毒素があると一発でお腹を壊す。
最悪酷い下痢に見舞われて脱水症状で命を落とす事もあるってサバイバルの本か何かで読んだ覚えがあった。
なので安全の為私のチートスキルで「毒素」となるモノを消し去った。
オオトカゲの卵を割って黄身だけをボールに入れてその辺の木の枝で作ったお箸を何本か奇麗にしてルラに渡す。
「ルラ、タルタルソース作るから手伝ってね。この箸で卵を掻き回してちょうだい」
「うん、わかった~」
ルラに卵を掻き回してもらいながら塩とワインビネガーを少しづつ入れる。
「ここでよく掻き回しておいてね、そうするときめ細かいマヨネーズになるから」
「分かった! あたしは掻き回すのも『最強』!!」
ルラはそう言ってまるでミキサーのよな速さでボールの中身を掻き回す。
おかげできめ細やかな感じで掻き回せるのでそこへ少しずつオリーブオイルを入れる。
そしてしばらく混ぜていると粘度が出て来てあのマヨネーズになる。
「おおぉ、マヨネーズだ!」
「どれどれ~」
マヨネーズを久しぶりに見てルラは大喜びする。
私はそれを指先にほんのちょっと取って舐めてみる。
すると濃厚なあのマヨネーズの味がする。
「うん、美味しい。ちゃんとマヨネーズになってるね」
「お姉ちゃんずるい! あたしもっ! ぱくっ! ん~ぅんっ! マヨネーズだぁ~♪」
久しぶりに味わうそれに私もルラも大喜び。
しかしここで終わりではない。
この後にゆで卵のみじん切り、玉ねぎを水でさらし辛味を押さえたもののみじん切り、キュウリの酢漬けであるピクルスを細かく切ったものをそのマヨネーズに混ぜる。
そこへ塩と貴重な胡椒を少々入れて最後に乾燥パセリとレモンを絞って混ぜて出来あがり。
そしてもう一度味見。
「んっ! タルタルソースだ!!」
「お姉ちゃん、あたしも、あたしも!!」
ルラも指先に付けてタルタルソースを味わう。
「ふわっ! タルタルソースだ!! これカラアゲに付けても美味しいんでよね!!」
「カラアゲも良いわね。でも今回はロックワームのフライに付けようと思うの」
言いながらロックワームの下味をつけていた物に小麦粉をまぶして溶き卵に通してからパン粉をつけて先に準備していた油の中に入れる。
じゅわぁああああぁぁぁ~
いい音を上げながらロックワームのフライがどんどん出来上がる。
試しに一つ味見してみるとサクッと揚がった衣にやや筋張った身もほぐれてサクサクと食べられる。
味もなんか白身フライみたいで行ける。
そんな私の近くにルラだけじゃなくてイリカさんやオーガの皆さんも寄って来ている。
私は苦笑をしながら言う。
「もう少しでできますからね~」
どんどんと揚がっていくロックワームのフライを油切りしながら並べていく。
粗熱もほどほどに取れて油も切れていい感じ。
程無く山盛りのロックワームのフライが出来あがる。
「さあ出来ましたよ! ロックワームのフライ、タルタルソース付きです!」
おおぉ~
出来あがった山盛りのフライにみんな声を上げる。
そして取り皿に分けてタルタルソースも添えていただきます!
さくっ!
『うおっ! 何ねこれは!? サクサクしているだがや!!』
『このたるたるそーずってのも上手いだがに!!』
『酒だがに! 酒を持ってくるだがに!!』
オーガの皆さんはロックワームのタルタルソースに舌鼓している。
それを見て私もルラもかじり始める。
さくっ!
「んっ! おいひぃ~」
「うん、タルタルソース合うね。まるで白身魚のフライみたい」
ルラはにこにこしながらロックワームのフライを食べる。
そしてイリカさんを見ると頬に手を当て幸せそうな顔をして食べている。
「これ、今まで食べた事無いソースでもの凄く美味しいじゃないですか!」
「タルタルソースって言うんですよ。日持ちしないのですぐに食べなければなりませんけどね~」
うーん、久々に食べる白身魚のフライにタルタルソースのようなこのロックワームに私も珍しくおかわりを頂く。
「そうそう、レモンをかけると更に食べやすくなるんですよね~」
そう言いながら三個目に手を出すルラのフライにもレモンをかけてやる。
この娘、お肉類好きだけど食べ過ぎるとお腹壊すのでレモンとかをかけると消化の助けにもなる。
「おおぉ、レモンかけたら更にさっぱりして美味しい!」
「どれどれ? さくっ! あらホント。これ私は好きですね」
ルラもイリカさんもやはり女性だからこう言ったさっぱりなモノは好きなのだろう。
私もレモンをかけて美味しくいただく。
『いんやぁ、リルの嬢ちゃんの料理には驚かされるだがや!』
『ほんに、エルフでなか嫁に欲しいくだいだでよ』
『んだんだ、毎日こげん美味いモン食えっちょ、幸せだがに!!』
お褒めにいただき光栄ですけど、流石にオーガのお嫁さんは勘弁してほしい。
それに私は正直まだまだトランさんの事を引きずっている。
今は他の誰かをまた好きになる気なんてさらさらない。
『しっかし、そうすっとこの辺の魔物もっと狩ってリルの嬢ちゃんにうんまいモン作ってもらいたいだがや』
『んだな、儂もそう思う』
『んだばこの辺の魔物もっと狩るかいのぉ?』
えーと、なんかオーガの皆さんが意気投合し始めてるんですけど……
「あたしも美味しいもの食べられるなら魔物狩っても良いよ~」
「いや、ルラあたしたち早くエルフの村に戻んなきゃなんだけど……」
「取りあえず魔王様の封印をし直すのを協力してくださいよ~」
サクサクとロックワームのフライを食べながらみんな言いたい事を言うのであった。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」
サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
私の物を奪っていく妹がダメになる話
七辻ゆゆ
ファンタジー
私は将来の公爵夫人として厳しく躾けられ、妹はひたすら甘やかされて育った。
立派な公爵夫人になるために、妹には優しくして、なんでも譲ってあげなさい。その結果、私は着るものがないし、妹はそのヤバさがクラスに知れ渡っている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる