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第九章:道に迷う
9-13巨人族
しおりを挟む結局あの後出発したのは翌日になってしまった。
「う~、まだ頭が少しずきずきするぅ~」
「いや、あれだけ飲んでその位で済んでいるってイリカさんドワーフの血でも混じっているんじゃないですか?」
隣を歩いているイリカさんはそう言ってこめかみを両の手で押さえている。
昨日は何だかんだ言って宴会騒ぎになってお酒が出始めるとジビ団子だけでなくお姉さんオーガ (中身はお婆さん)たちが他の料理まで持ち出すから大宴会に発展してしまった。
私たちはお酒が飲めないと断ったけど、イリカさんは差し出される杯をどんどんと飲み干して行き最後はオーガたちと飲み比べに発展していった。
女性らしいスタイルであるけど決して太っているわけでもないイリカさんの何処にあれだけのお酒が消えて行ったのかが不思議でならない。
『まんず、いつもそうだがイリカさ酒飲ますっと底無しだがや』
『前ん時も最後まで一人で飲んどったかんの』
『儂、こんな嫁さんだけは嫌じゃの』
『んだんだ』
イリカさん、以前なにやらかしたんだろう……
オーガたちがそろってイリカさんをジト目で見ている。
『見た目だけは美人なんだがのぉ』
長老さんもとても残念そうな顔をしている。
「わ、私は別にすぐ誰かと一緒になるつもりはありません! いいんです今はエルフの研究とかいろいろしたいし!!」
顔を少し赤くしてイリカさんはそう叫ぶ。
まあ、分からなくはないけどずっと独り身って寂しいよ?
そんな事を思いながら私は髪留めに手を添えてみる。
「うん、でも今はエルフの村に帰るから……」
小声でそう言った時だった。
『なんねあれは?』
先を歩いていたオーガの人が立ち止まり森の奥を見る。
するとバキバキと音を鳴らして木が倒れた。
驚きそちらを見ると灰色っぽい何かが見えた。
それは徐々にこちらに向かっているけど、この辺い生えている木々と同じかそれより大きい何か。
『あれが巨人だがね? イリカさ、どうだんべ?』
「はい、どうやらアレが噂のサイクロプスのようですね。サイクロプスの中でも大きい方ですよ、皆さん気をつけてください!」
『よっしゃ、いっちょやったるかぁ!』
『んだ、いくざます!』
『いくでがんす!!』
『ふんがぁー!』
そう言いながらオーガの皆さんは武器を握りしめこちらに向かってくるサイクロプスを迎え撃つ。
こちらに気付いたサイクロプスはこん棒の様なものを振り回し近くの木を倒したり木の枝を薙ぎ払ってこちらに向かってくる。
大きな体。
多分「鋼鉄の鎧騎士」より大きい。
「鋼鉄の鎧騎士」が六、七メートくらいあるって聞いたから、それより大きいってことは十メートルくらいありそうだ。
顔には大きな目が一つだけ、そして禿げた頭の上に一本の角が生えている。
灰色の肌に腰に申し訳程度の布をまとってこん棒を振っている。
そんな化け物にオーガの人たちは果敢にも向かって行く。
『こんくさっ!』
『なんくるなんさね!!』
『どりゃぁー!』
口々にそう叫びながら剣や槍を突き付けて行く。
しかしサイクロプスの肌にそれらが届いた時だった。
『ぐろぉおおおおおおおおおおぉぉぉっ!』
サイクロプスは叫び手に持つこん棒でオーガたちを薙ぎ払ってしまった!
オーガの皆さんはそのひと振りに一度に数人が吹き飛ばされ、そして返す一振りで残りのオーガの人たちも!!
「あたしは防御も『最強』! 行くぞ!!」
しかし隣にいたルラはそう言ってチートスキル「最強」を発動させそこへ飛び込む。
がんっ!
『ぐろぉ!?』
「へっへっへっへっ~、受け止めたよ、次はこっちの番だ! あたしは『最強』!!」
ルラの何倍もある棍棒を片手で受け止め、それをはねのけて飛び上がる。
そしてサイクロプスの顔の高さまで飛び上がり必殺の拳を叩き込む。
「必殺ぱーんち!」
ばきっ!
『ぐぼっぉ!?』
自分よりずっとしいさなルラに殴られサイクロプスは弾き飛ばされるかのように倒れる。
どガーンっ!!
『ほげぇ、エルフの嬢ちゃんすげーだがや!!』
『んだ、ちっこいくせにすげーだがや!!』
『ふんがーっ!』
とん
「どうだ!」
ルラは軽やかに地面に着地してサイクロプスを見る。
しかし流石にそれだけでは倒しきれずにサイクロプスはのっそりと起き上がる。
『ぐろろろろろ……』
流石にルラに警戒している様だ。
そしていきなり地面の土を掴みルラに投げつける。
「目つぶし!? 『消し去る』!!」
ただの暴れん坊と思ったら小技を使ってくるとは!
ルラが戦いを始めてからずっと注意をしていて助かった。
私のチートスキル、「消し去る」はサイクロプスが目くらましで投げつけた土をあっさりと消し去る。
そしてそこへルラの必殺技が決まる。
「必殺きーっく!!」
どぼごっ!
まるで矢のように飛び込んだルラの飛び蹴りはものの見事にサイクロプスに決まってサイクロプスの身体を変な角度で体を曲げる。
そしてそのまま倒れて白目をむき動かなくなった。
『『『おおおおおぉっ!!!!』』』
途端にオーガたちから歓声が上がる。
「リルさんルラさん、あなたたちって一体!?」
『凄いのエルフの嬢ちゃんたち!!』
『まんずおったまげた!』
『ほんげぇー!』
途端にオーガやイリカさんが私たちを囲む。
まあチートスキルがあるからこれくらいは出来るのだけど、流石に目立ちすぎたかな?
「リルさんルラさんってエルフですよね? はっ!? もしかしてあなたたちが有名な『女神の伴侶』なんですか!?」
「違います!!!!」
イリカさんにそう言われ思わず全否定してしまった。
私たちってシェルさんみたいのと違うもん!
普通のエルフだもん!!
いや、チートスキルは確かにエルハイミさんに通じる力って聞いたけど、それでもそれ以外は普通のエルフと同じだもん!!
「お姉ちゃん、喜んでいられないよ。あれ見て」
皆さんに囲まれていたけどルラだけは他の所を凝視している。
そして言われたそこを見ると灰色の動くモノがいくつか……
「まさか、また巨人族!?」
「だね、お姉ちゃんあたしが先頭に立つよ、あたしは『最強』!!」
私が何か言う前にそう言ってルラは走りだすのだった。
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