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第八章:ドドスでのエルフ料理?

8-17パンケーキ

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 ルラにも聞かれたけど、パンケーキとホットケーキの違いって何かって?


 実はどちらも同じものらしい。

 なんか和訳する時に差が出たらしく、あえて言うならパンケーキと言われる物は薄めに焼き上げているのが多いらしい。
 甘さも控えめなのが多いので人によっては朝食でベーコンエッグなんかを一緒に食べるとか。


 そんな昔聞いたような事を思い出しながら私はボールに材料を入れて行く。

 
 小麦粉に砂糖、卵に牛乳、膨らまし粉が無いので重曹を入れて、そして隠し味であのバニラエッセンスを少々。
 よく掻き回して泡だて器の先からとろ~っとなるくらいの粘度にする。

 フライパンに薄く油を引き温める。

 ここで注意なのが決して強火でやってはいけない。
 強火でフライパンを温めると焦げ付きが酷くなってしまうからだ。

 温めたフライパンにお玉でパンケーキの生地をすくって真ん中から流し込む。
 そして程よい大きさになったら弱火でふたを閉めて蒸し焼きにする。


「なんか昔以前のお母さんが作っていたやり方と違うね? あたしんちは蓋とかしなかったよ?」

「これはね、均一に熱がまわるようにしてるの。っと、そろそろ良いかな?」


 ルラに説明をしながらふたを開けると表面にぷつぷつと泡が出て固まった状態になっている。
 フライ返しで焼いた面をめくってみると奇麗にきつね色になっている。
 私はそれをお皿に出してまた生地をフライパンに流し込む。


「あれ? お姉ちゃんこれ反対側は焼かないの?」

「うん、見た目を重視した焼き方にしてみようと思ってね、ほらよくホットケーキの袋とか箱にある写真て分厚い感じでしょ? 普通に焼くとああはならないのよ」


 そう言ってまた同じ要領でふたを閉めて焼き始める。
 

「ふーん、そうなんだ。あ、でも確かにいつも家で焼くと薄くなっちゃって片面ぶつぶつの泡の跡があったなぁ~」

 両面を焼き上げるとどうしてもそうなりやすい。
 なので写真のように焼くにはこうするのだ。

 私はさっきよりは早めにふたを開ける。
 すると表面に出来たぷつぷつがまだ蒸しあがっていない。
 フライ返しで焼かれている面を確認してから先程の焼いておいたものをぷつぷつのある面を合わせて乗せる。
 そしてフライ返しで裏返すと見事なきつね色になっている。
 それからまた蓋をしてしばし待つ。

「ホットケーキ同士を合わせるの?」

「うん、写真とかの厚みのあるのはこうして焼いてるんだよ。そうするとあの厚みのある写真みたいなホットケーキになるの」

 私は言いながら頃合いを見てふたを開けてお皿にパンケーキを取り出す。
 そして同じ要領でもう一枚焼いて重ねたパンケーキの上にバターと蜂蜜を垂らすと……


「はい、出来上がり! 写真と同じパンケーキ、いや、ホットケーキか?」


 なんかややこしいけど目の前にはあの写真と同じ状態のパンケーキがある。

「おおぉ~! ほんとだ、写真のと同じだ!」

「じゃ、試食してみましょ」

 ナイフとフォークを取り出し切り分けてルラと一緒にフォークに刺して口に運ぶ。


「んっ!」

「ふわっ! ホットケーキだぁ!」


 なんか久しぶりに食べたなぁ。

 クレープとは全く違うふんわりとした生地にバターのわずかな塩気と蜂蜜のとろ~りした甘さがあいまってとても美味しい。
 まさしくホットケーキ、いや、パンケーキのあの味だ。


「すんすん、なにこの良い匂い??」

「あ、メリーサさん。今パンケーキ焼いてみたんですよ」

 厨房の扉をくぐってメリーサさんが鼻をヒクヒクさせながらやって来た。
 私は試食のパンケーキを切り分け小皿に載せてメリーサさんの前に出す。


「パンケーキ?」


 目の前に出されたそれを見てメリーサさんは首をかしげる。
 そしてフォークで突いてから私に聞いてくる。

「ずいぶんと厚手のパンケーキね? でもなんかいい匂いがする」

「取りあえず私の知っている作り方で焼いてみたんですよ。どうぞ試してみてください」

 メリーサさんは私の説明を聞いてからフォークでパンケーキを刺して口に運ぶ。


「!?」


 途端に目を見開き驚きの表情になる。


「なにこれ!? これがパンケーキ?? ドドスのパンケーキと全く違う。甘みが強くてふわふわで、これってバター? あ、蜂蜜もかかってるんだ!?」


 以前メリーサさんに焼いてもらったパンケーキはどちらかと言うとナンの様なシンプルな味だった。
 ドドスでもパンの代わりに使う感じでお好み焼きじゃないけどそれに何か載せて食べたりもしていたらしい。

 しかし今私の作ったパンケーキは生前のモノを再現したモノ。
 完全にスイーツ系のモノとなっている。


「これってあのクレープ焼き台とかの特殊な道具も必要ないし、作り方も気をつければ簡単に出来ます。お店直ったらこう言った商品も出してみませんか?」

「リルちゃん…… うん、これならきっとお客さんも来るよ! ありがとう!!」

「いえいえ、でもこれで終わりじゃないんですよ。実はもう一つ生パンケーキって言うのもトライしてみたいんですよ」

「生パンケーキ??」

「何それお姉ちゃん??」


 二人して私の言い出した生パンケーキと言うモノに興味津々となるのであった。


 * * *


「つまりもっとふわふわでしっとりのパンケーキって事?」

「何それ!? 食べたい!!」


 パンケーキはパンケーキでも焼き付けはぎりぎりの時間で火が通ったらすぐに出来あがりにする俗称白いパンケーキ。
 ただでさえ美味しいパンケーキを限界までふんわりそしてしっとりと焼き上げるそれは好きな人にはたまらないものになるはずだ。

「普通のパンケーキも良いですけど、人気が出始めたら時間差で出そうと思っている第二のパンケーキです。これに色々とトッピングすればさらに幅が広がりますよ」

 そう言いながら私は早速準備を始める。

 まずは卵を割るけど卵黄と白身を分ける。
 そして白身を泡だて器で泡立てメレンゲ状にする。

「うわぁ、生クリームみたい!!」

 横で見ていたルラがそう言うけど、これってここまでするのが結構大変だった。
 いくら泡だて器があるとは言え手動だもの。
 
 しかしここまで来れば後は早い。

 お砂糖、小麦粉、少量の牛乳にバニラエッセンス、重曹を少々そしてほんのわずかな塩を入れる。
 そしてよくかき混ぜそれを先程の白身のメレンゲに泡がつぶれないように混ぜ込む。


「さあ、ここからが勝負よ!」


 そう言いながら私は温めておいたフライパンに生地を流し込む。
 流し込むと言っても泡泡なのでぽふっと置く感じ。
 そしてすぐにふたを閉めて蒸し焼きにする。


「さっきのホットケーキと同じ作り方だね?」

「うん、基本は同じだけどちょっと違うのはここよ」


 ルラのが覗き込んで聞いてくるので答えながらふたを開ける。
 すると蒸され、加熱される事によりパンケーキは膨れ上がっている。
 私はすぐにフライ返しでそれを裏返す。

「もう裏返すの? あれ、まだ白いよ??」 

「いいのいいの、いい感じね? よっと!」

 裏面も焼けたようなので私はそれをお皿の上に取り出す。


「はい、出来た。生パンケーキ!」


「え? これがパンケーキ??」

「ふえぇ~真っ白だぁ~」

 驚く二人を他所に、私はこれにジャムと蜂蜜をかけてフォークを二人に手渡す。

「普通のパンケーキよりずっと柔らかいですよ。フォークで簡単に切り取れますから」

 言いながら二人の目のまでフォークで切ってジャムと蜂蜜をつけて口に運ぶ。


 ぱくっ!


「んっ! あっま~いぃ、トロトロぉ~」


 まだ生に近いけどそれでも蒸しているので火は通っている。
 ふわふわトロトロの食感に甘いジャムと蜂蜜がこれ以上ないってくらいに合う。
 多分女子ならこの甘さにメロメロになるだろう。

 私の幸せそうなその表情にルラもメリーサさんも早速生パンケーキにフォークを伸ばす。
 そして口に運ぶと……


 ぱくっ!
 はむっ!!


「なにこれっ!! こんなの初めて!!!!」

「ふわぁ~あっまぁ~いぃ~、トロトロだぁ~」


 初めての食感に驚くメリーサさん。
 こっちに来て女の子になってから更に甘いものが好きになったらしいルラ。    
 二人とも私同様この甘さに幸せそうな顔をする。


「リルちゃんこれすごい! でもなんですぐにお店に出さないの?」

「それはこれを焼くのに練習が必要だからです。フライパンの温度、焼く時間、ふたを閉めて蒸し上げるタイミング等ちょっと難しいんですよ。生パンケーキとは言えちゃんと火は通っています。もし本当に生焼けだとお腹壊しちゃいますからね。それに焼き加減間違えると白く無くなっちゃうし」


 そう説明する私にメリーサさんはフライパンを見る。


「なるほど、私たちがこれを焼けるように習得するまでは厚手のパンケーキで先にお客さんを掴むと」

「そうです、そして慣れて来た頃に生パンケーキも提供できれば話題性も出ますよ。それにこれを焼くには修練が必要ですから他のお店ですぐには真似できませんしね」


 人気商品はすぐに真似される。
 料理に詳しい人ならば食べて大体の見当はつくだろう。
 だからすぐすぐには真似できないモノを作ってお店の知名度を上げておくことは重要だ。


「よぉっし、私も早くこれが焼けるように頑張らなくっちゃ!」

「そうですね、お店もあと少しで直りそうですしね」


 私はそう言いながらお店のホールを見る。
 あと一週間もすればお店も直って営業が再開できるだろう。
 そうしたら私たちはここドドスを離れなければならない。

 ちょっと寂しい気もするけどまたいつジュメルがやって来るかもわからない。



 私はもう一度生パンケーキを口に運びながらそんな事を考えるのだった。
   
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