上 下
129 / 437
第六章:ドドス共和国

6-26同じなの?

しおりを挟む

 昨日は私の目の前で締め切られて枕を涙で濡らした。
 しかし今朝は万全の準備をして日が昇る前からあのお店に向かっている。


「ふっふっふっふっ、流石にこんな朝早く来ればポールポジション取れるでしょう!」

「ふわぁあああぁぁぁぁ~、お姉ちゃんあたしまだ眠いよぉ~」


 意気揚々と私は眠い目を擦っているルラを叩き起こしあのお店に向かっている。
 東の空もうっすらと白くなり始めるこの時間、流石に此処まで早ければ大丈夫だろう。


「ん? 人がいる??」


 エルフは夜目が効く。
 多少くらいの暗さなら昼間と同じに見える訳だけど、その私の目に今映るのは……


「お姉ちゃん、なんか並んでるね……」

「なっ!? どう言う事!?」


 慌てて最後尾らしいところヘ行き、どう言う事か聞いてみる。


「あの、すみません。まさかこれってこの先にある豊胸のお店に並んでいるのですか?」

「そうだよ。私も昨晩来たけどもうこんなに並んでいるとはねぇ。あなたもかい?」


 声をかけた人はそう言いながら携帯のコンロを取り出しお湯を沸かし始める。
 そしてお湯が沸くとお茶を入れてこちらを見る。


「この調子だと今日はダメかもね。あんたも飲むかい?」

「いえ、遠慮しておきます……」


 私は相当ショックを受けていた。
 まさか昨日よりさらに条件が厳しくなっているとは!


 しかもみんな徹夜組だとぉ!?

 それずるい!
 生前でもイベントなんかは徹夜禁止ってなっていたのにぃ!!


 先の方を見ると昨日並んだよりも人の数が多い。

 
「お姉ちゃん、これって無理っぽくない?」

「ぐっ、でも……」


 せっかくの早起きだったけど無駄になってしまった。
 私は仕方なくすごすごとルラと一緒に「鉄板亭」に戻るのだった。


 * * * * *


「そうだったんだ。私は二回目の予約だけは入れてあるから二週間後には二回目の施術を受けられるけど、三回目の予約取れるかなぁ?」

「予約とか言っているだけもうらやましいです……」

 鉄板亭でお茶を飲みながらメリーサさんと話をしている。
 あの豊胸のお店、ここまで人気になるとは思わなかった。
 だって開店してまだ数日だよ?

 あの後メリーサさんもだんだん回復はしてきているけどやっぱり前ほどは元気がない。
 疲れがなかなか抜けない感じだとか。

 私はメリーサさんの胸を見る。
 確かに「育乳の女神様式マッサージ」と違ってリバウンドは無い様だ。
 「育乳の女神様式マッサージ」は受けるのをやめると途端にその効果が減少して三日もすると元に戻ってしまう。
 なので、最低でも二日に一回は通わないといけない。
 しかもその効果はその時によって変わって来る。

 実際私の胸はわずかに膨れたけどそれは誤差範疇となるレベル。

 女性の胸は必ず一定の大きさではない。
 その日の体調や状態、生理前とかで胸の大きさが変わって来る。

 今のエルフの身体だとまだ初潮も来てないから生理は関係ないけど……

 でもまあそんな感じで一喜一憂しているわけだ。
 だからメリーサさんのように確実に成果が出ている豊胸は喉から手が出るほどうらやましい。
 だってどう見ても大きく成っているから。
 これをあと四回も受けるとたわわな揺れる胸が手に入る。


「……うらやましいですね。もぎ取ってやりたいです」

「リルちゃん、今さらっと怖い事言わなかった?」


 メリーサさんはお茶を飲みながら頬に一筋の汗を流す。
 そんな彼女を横目に見ながら私はため息一つ付いて立ち上がる。

「取りあえず日課の銭湯行ってきますね。せめて『育乳の女神様式マッサージ』だけでも受けたいので」

「あ、お姉ちゃんあたしも行く~」

 そう言って私とルラはまた銭湯へと向かうのだった。


 * * * * * 

 
「あれ? お姉ちゃんあそこに女の人が倒れてるよ?」

「えっ!? あ、本当だ!」

 銭湯に向かう途中に人が倒れていた。
 慌てて駆け寄って様子を見ると気を失っている様だった。


「大丈夫ですか!?」

「ううぅ……」


 どうやら気が付いたみたい。
 貧血でも起こしたかな?


「どうしたんですか、大丈夫ですか?」

「ううぅ、すみません。急に目まいがして…… ありがとうございます。もう大丈夫だと思います……」

 そう言ってその女性は起き上がり座り込む。
 と、ルラがまた騒ぐ。


「お姉ちゃん、あっちにも!」


「え? なに、どう言う事??」

 見れば向こうにも倒れている女性がいる。
 ルラは慌ててそちらに向かいその女性の様子を見る。


「気をつけてくださいね。駄目なら人を呼びますよ?」

「ありがとう、もう大丈夫です」

 そう言ってその女性は何とか立ち上がりふらふらしながら歩いて行ってしまった。
 心配ではあるけど私はルラが見に行った女性の方へ行く。


「どうルラ? その人大丈夫?」

「うん、意識は取り戻したみたい。でもなんかメリーサさんと同じく力が入らないって」

「メリーサさんと同じ??」

 私はすぐに彼女の胸を見るとやはり平均的な女性に比べ残念な胸だった。
 そう言えばさっき助けた人も同じ。

 まさか……

「あの、もしかして豊胸のお店に行っていた方ですか?」

「よくご存じで。ありがとう、もう大丈夫です。胸が大きく成る代償に栄養がそっちに行ってしまうとは聞いていたけど、貧血起こすとはね」

 彼女はそう言いながら何とか立ち上がり、やはり少しふらつく足取りで歩いて行ってしまった。
 私はその様子を見ながら思う。
 最初メリーサさんに感じたあの違和感。


「豊胸するのにあんなに疲れたりメリーサさんみたいに疲れが抜けないのが長引くのかな?」

「さあ? でもみんな同じみたいだね~」


 ルラは興味なさそうにそう言いながら銭湯セットを携え私に言う。


「とにかく銭湯行こうよ。出たらまたフルーツ牛乳ね、お姉ちゃん!」

「うーん、気にはなるけど…… 分かった、銭湯行こうか」



 何か引っかかりを感じてはいたけど私はルラと一緒に銭湯に行くのだった。  

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

TSしちゃった!

恋愛
朝起きたら突然銀髪美少女になってしまった高校生、宇佐美一輝。 性転換に悩みながら苦しみどういう選択をしていくのか。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...