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第六章:ドドス共和国
6-26同じなの?
しおりを挟む昨日は私の目の前で締め切られて枕を涙で濡らした。
しかし今朝は万全の準備をして日が昇る前からあのお店に向かっている。
「ふっふっふっふっ、流石にこんな朝早く来ればポールポジション取れるでしょう!」
「ふわぁあああぁぁぁぁ~、お姉ちゃんあたしまだ眠いよぉ~」
意気揚々と私は眠い目を擦っているルラを叩き起こしあのお店に向かっている。
東の空もうっすらと白くなり始めるこの時間、流石に此処まで早ければ大丈夫だろう。
「ん? 人がいる??」
エルフは夜目が効く。
多少くらいの暗さなら昼間と同じに見える訳だけど、その私の目に今映るのは……
「お姉ちゃん、なんか並んでるね……」
「なっ!? どう言う事!?」
慌てて最後尾らしいところヘ行き、どう言う事か聞いてみる。
「あの、すみません。まさかこれってこの先にある豊胸のお店に並んでいるのですか?」
「そうだよ。私も昨晩来たけどもうこんなに並んでいるとはねぇ。あなたもかい?」
声をかけた人はそう言いながら携帯のコンロを取り出しお湯を沸かし始める。
そしてお湯が沸くとお茶を入れてこちらを見る。
「この調子だと今日はダメかもね。あんたも飲むかい?」
「いえ、遠慮しておきます……」
私は相当ショックを受けていた。
まさか昨日よりさらに条件が厳しくなっているとは!
しかもみんな徹夜組だとぉ!?
それずるい!
生前でもイベントなんかは徹夜禁止ってなっていたのにぃ!!
先の方を見ると昨日並んだよりも人の数が多い。
「お姉ちゃん、これって無理っぽくない?」
「ぐっ、でも……」
せっかくの早起きだったけど無駄になってしまった。
私は仕方なくすごすごとルラと一緒に「鉄板亭」に戻るのだった。
* * * * *
「そうだったんだ。私は二回目の予約だけは入れてあるから二週間後には二回目の施術を受けられるけど、三回目の予約取れるかなぁ?」
「予約とか言っているだけもうらやましいです……」
鉄板亭でお茶を飲みながらメリーサさんと話をしている。
あの豊胸のお店、ここまで人気になるとは思わなかった。
だって開店してまだ数日だよ?
あの後メリーサさんもだんだん回復はしてきているけどやっぱり前ほどは元気がない。
疲れがなかなか抜けない感じだとか。
私はメリーサさんの胸を見る。
確かに「育乳の女神様式マッサージ」と違ってリバウンドは無い様だ。
「育乳の女神様式マッサージ」は受けるのをやめると途端にその効果が減少して三日もすると元に戻ってしまう。
なので、最低でも二日に一回は通わないといけない。
しかもその効果はその時によって変わって来る。
実際私の胸はわずかに膨れたけどそれは誤差範疇となるレベル。
女性の胸は必ず一定の大きさではない。
その日の体調や状態、生理前とかで胸の大きさが変わって来る。
今のエルフの身体だとまだ初潮も来てないから生理は関係ないけど……
でもまあそんな感じで一喜一憂しているわけだ。
だからメリーサさんのように確実に成果が出ている豊胸は喉から手が出るほどうらやましい。
だってどう見ても大きく成っているから。
これをあと四回も受けるとたわわな揺れる胸が手に入る。
「……うらやましいですね。もぎ取ってやりたいです」
「リルちゃん、今さらっと怖い事言わなかった?」
メリーサさんはお茶を飲みながら頬に一筋の汗を流す。
そんな彼女を横目に見ながら私はため息一つ付いて立ち上がる。
「取りあえず日課の銭湯行ってきますね。せめて『育乳の女神様式マッサージ』だけでも受けたいので」
「あ、お姉ちゃんあたしも行く~」
そう言って私とルラはまた銭湯へと向かうのだった。
* * * * *
「あれ? お姉ちゃんあそこに女の人が倒れてるよ?」
「えっ!? あ、本当だ!」
銭湯に向かう途中に人が倒れていた。
慌てて駆け寄って様子を見ると気を失っている様だった。
「大丈夫ですか!?」
「ううぅ……」
どうやら気が付いたみたい。
貧血でも起こしたかな?
「どうしたんですか、大丈夫ですか?」
「ううぅ、すみません。急に目まいがして…… ありがとうございます。もう大丈夫だと思います……」
そう言ってその女性は起き上がり座り込む。
と、ルラがまた騒ぐ。
「お姉ちゃん、あっちにも!」
「え? なに、どう言う事??」
見れば向こうにも倒れている女性がいる。
ルラは慌ててそちらに向かいその女性の様子を見る。
「気をつけてくださいね。駄目なら人を呼びますよ?」
「ありがとう、もう大丈夫です」
そう言ってその女性は何とか立ち上がりふらふらしながら歩いて行ってしまった。
心配ではあるけど私はルラが見に行った女性の方へ行く。
「どうルラ? その人大丈夫?」
「うん、意識は取り戻したみたい。でもなんかメリーサさんと同じく力が入らないって」
「メリーサさんと同じ??」
私はすぐに彼女の胸を見るとやはり平均的な女性に比べ残念な胸だった。
そう言えばさっき助けた人も同じ。
まさか……
「あの、もしかして豊胸のお店に行っていた方ですか?」
「よくご存じで。ありがとう、もう大丈夫です。胸が大きく成る代償に栄養がそっちに行ってしまうとは聞いていたけど、貧血起こすとはね」
彼女はそう言いながら何とか立ち上がり、やはり少しふらつく足取りで歩いて行ってしまった。
私はその様子を見ながら思う。
最初メリーサさんに感じたあの違和感。
「豊胸するのにあんなに疲れたりメリーサさんみたいに疲れが抜けないのが長引くのかな?」
「さあ? でもみんな同じみたいだね~」
ルラは興味なさそうにそう言いながら銭湯セットを携え私に言う。
「とにかく銭湯行こうよ。出たらまたフルーツ牛乳ね、お姉ちゃん!」
「うーん、気にはなるけど…… 分かった、銭湯行こうか」
何か引っかかりを感じてはいたけど私はルラと一緒に銭湯に行くのだった。
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