上 下
103 / 437
第五章:足止め

5-29大迷宮の入り口

しおりを挟む

「う、うぅ~ん……」

 重い頭を押さえながら起き上がる。
 そして気付く。

 また裸だ……

 すぐに周りを確認すると隣のベッドがもぞもぞ動いている。
 自分のベッドを見てもルラがいない。


「カリナさん! 駄目ぇ、ルラに変な事教えないでぇっ!!」


 慌てて飛び起き隣のベッドのシーツを掴んで、ばっ! と引っぺがす。
 するとそこにはやはり裸のルラがいた。

「あ、あれ?」

 ベッドにはルラだけ裸で寝ていた。
 気持ちよさそうにもぞもぞと動いて寝返りをしている。


「ううぅ~ん、なぁにぃ? もしかして一人寝は寂しいの? 仕方ないなぁ、お姉さんが添い寝してあげようかぁ~?」

 聞こえてきたカリナさんの声は私の後ろからした。
 振り返り見ると私の寝ていたベッドの更に奥にもう一つベッドが有ってやはり裸のカリナさんがのっそりと起き上がっていた。

 カリナさんはシーツをはだけその白い肌をカーテンから漏れ出る朝日に照らしながら大きく伸びをしてあくびをする。


「ふわぁああ~ぁ、良く寝たぁ~。リルってそんなに寂しがり屋だったの? 仕方ないなぁ、お姉さんと一緒にもう少し寝る? 色々教えてあげるわよ?」

「結構です! それに私にはそんな趣味はありませんっ!!」 


 自分でもわかるけど顔が赤くなっている。
 しかしカリナさんはそんな私を見て嬉しそうにカラカラ笑っている。

「大丈夫よ、私もそんな趣味は無いわ。ふぁ~ぁ、流石に昨日は飲み過ぎた。寝る前に薬飲んでおいて正解ね。リルも二日酔いにはなってないでしょう?」

 カリナさんはそう言いながら裸のままベッドから降り、近くのテーブルに置いていた自分の魔法のポーチから水筒を引っ張り出しごくごくと喉を鳴らしながら水を飲む。
 口元から少し水が零れ落ち首筋を伝わって胸の方まで水滴が流れるのが何となくいやらしい。

 私は顔を赤くしながらカリナさんの裸から視線を外す。


「カリナさん、なんだかんだ言って昨日も私たちにお酒飲ませましたね?」

「楽しかったでしょ? それに最後に薬を飲ませてやったから二日酔いにはなってなかったでしょう?」


 確かに以前のように頭痛に悩まされる事は無いけど、やっぱり頭が重い。
 恨めしそうにカリナさんを見てもからからと笑っているだけだ。
 まったく、この人ときたら……


「さてと、そろそろ起きて朝ごはん食べてから出発よ? ユエバの街にまでは歩いて行けば一週間近くかかるからね」

 そう言ってカリナさんは下着を穿き胸当てをつけ始めるのだった。


 ◇ ◇ ◇


「ふう、とうとうここまで来たか。しかしこの迷宮の最深部がああなっていたとはな」


 トーイさんは目の前に見えて来た迷宮の入り口を見てそう言う。
 何故かクロエさんとこの迷宮に入って行ったのが昨日のようにはっきりと思い出せる。

 あの後この迷宮の最深部まで行ってコクさんに出会って、エルハイミさんが逃げ出して、そしてジマの国に転移してジーグの民やディメアさんの問題にかかわって、そしてお料理してと……


「なっがい足止めでしたね……」


「本当よ、あんたたちといると厄介事が向こうからやって来て大変なんだからね。まあ、でも楽しかったのは事実だけどね」

「クロさんやクロエさんも強かったねぇ~」

「いやいや、お前らリルとルラのスキルのせいで俺は自信無くしまくってんだが?」

「スキルは仕方ありませんよ。もしかしたらリルとルラのそのスキルが世界を救う日が来るかもしれませんよ?」


 みんなして世界最大の迷宮と呼ばれるコクさんたちが住まう迷宮の入り口を見る。
 本当にいろいろ有った。

 そしてしっかりと魚醤とわさびもゲットしておいた。

 お醤油は貴重なので使いどころを気をつけないといけない。
 だって美味しいからついつい使ってしまうとすぐなくなっちゃうから。


「さてと、何時までも迷宮に思いをはせていても仕方ない、なんか雲行きも怪しくなってきたから先を急ごうかしら」

 カリナさんのその言葉に私たちは迷宮を後にするのだった。


 * * * * *


「うわー、凄い雨!!」


 たまたま通りかかった岩場近くに洞窟が有ったので助かる。
 外は豪雨と言って良いほどの雨が降っている。

「珍しいですね、この時期にここまでの豪雨とは」

「ん? そうかぁ??」

 ルラは洞窟の外を見ながらそう言っている。
 それを一緒にトーイさんとネッドさんも見ながらそんな事を言っている。

 ポーチにしまい込んである薪とかを引っ張り出しながら焚火をして雨が止むのを待つのだけど、昨日の夕方からずっと降っている。


「こんな所で足止めとはね。はぁ、早い所ユエバの街に戻って体を洗いたいわね」

 カリナさんもそう言いながら憂鬱そうに外を見ている。
 確かにもう三日もお風呂に入っていない。
 女性陣は何だかんだ言ってお湯を作って体を拭いてはいるけど、やっぱりしっかりと洗いたいもんだ。
 特に髪の毛なんかいくらエルフでもだんだんべたべたしてくる。
 そんな事を思っているとカリナさんがふと私の頭を見ながら言う。

「そう言えばリルのその髪留め、もしかしてドワーフが作ったモノ?」

「え? ああぁ、これですか……」

 カリナさんに指さされて私は左のおでこの上に付けている髪留めに手を当てる。

「そうらしいですね。これ、トランさんの形見みたいなものなんです…… お祭りで買ってもらって……」

 決して忘れていたわけではない。
 本気で好きになったし、未来の旦那様になるはずだった人。
 でもトランさんはもういない。
 なのにこれだけは外す気になれずにずっとつけている。

「ふぅん、トランのね…… ごめん余計なこと聞いたわ」

「いえ、もうその事で悔やんでも仕方ないですから。だから私とルラはエルフの村に戻ります。トランさんの家族にこの遺髪を届ける為にも」

 そう言って私はポーチからトランさんの遺髪を取り出す。
 久しぶりに取り出したそれは奇麗な金色をしていた。
 まるでさっき切り取ったかのように。

「うん、リルたちに村に連れて行ってもらうのが良いわね。トラン、安らかに眠ってね……」

 カリナさんもそう言ってその遺髪にそっと手を乗せる。


 
 まだまだエルフの村までは遠いけど、絶対に私とルラはエルフの村に戻る。
 そう、もう一度トランさんの遺髪を前に私は思うのだった。 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

TSしちゃった!

恋愛
朝起きたら突然銀髪美少女になってしまった高校生、宇佐美一輝。 性転換に悩みながら苦しみどういう選択をしていくのか。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

処理中です...