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第五章:足止め
5-25あの人は今
しおりを挟む「ほう、これは素晴らしい!」
コクさんはそう言って前菜の冷ややっこからメインのてんぷらまで食べてそう言う。
とりあえずエルハイミさんが好みそうな和食風の食事を二点ほど出来たので試食を兼ねて今晩の食事に出してみた。
「くっ! エ、エルフの分際ででいやがります!」
「ふむ、これはまた何とも素朴だが素材の味がはっきりとわかる料理ばかりですな」
コクさんの後ろに控えクロエさんやクロさんも立ったままお皿を片手に試食をする。
なんかクロエさんはわなわなと震えている様だけどクロさんは頷き満足そうだった。
「リル、見事です。これならばお母様もご満足いただけるでしょう。残り一品も楽しみにしていますよ!」
上機嫌なコクさん。
まあ、喜んでもらえるならそれで良いんだけどね。
と、私はふとエルハイミさんたちが今どうなっているか気になって来た。
「あのぉ~、それでジルとかって村とは連絡とれたんですか? シェルさんたちもエルフの村からも何の音さた無しなんですけど。私たちがこっちに飛ばされてもうすぐ一年近く経っちゃうんですけど……」
本来ならこんな所で油を売っているわけにはいかない。
とっとと南のドドス共和国を経てサージム大陸の「迷いの森」であるエルフの村に帰らなければならない。
カリナさんもたまにファイナス長老に連絡を入れてはいるみたいだけど、カリナさんが仮の保護者してくれているので村の誰も慌てなくなっている。
いいのかそれで?
しかし私がそう言った瞬間空気が変わった。
何と言うか、重い空気で後ろに控えていたクロエさんなんか思わずうなっている。
「……ジルの村とは連絡が取れました。問題は三人のお母様がジルの村に集結していても赤お母様のお気持ちを変える事が出来ないと言う事です」
コクさんはそう言って深い深いため息をつく。
なんかものすごく辛辣な表情で半ばあきらめ顔である。
「え、ええとぉ……」
まずいこと聞いちゃったかな?
ちらっとカリナさんを見ると「余計な事言うな!」とその眼が語っている。
思わず私もアイコンタクトで「分かってますってば! これ以上厄介ごとに巻き込まれたくないです!!」と返す。
うん、まるで以心伝心。
今この時に私たちの気持ちは見事に一つになるのだった!
「何が有ったの~? シェルさんもエルハイミさんも忙しいの??」
私とカリナさんはそう言うルラを思わず見てしまう。
ルラは小首をかしげコクさんに余計な事を聞いている。
しまったぁっ!
双子なのに以心伝心で来ていない娘がここにいたんだったぁッ!!
「まったく、あのシェルがいると言うのにどうにもならないとは。お母様の愛する赤お母様が転生されて早二十年、やっと覚醒をしたものの今次の赤お母様は他に関係を持った女性が出来てしまいずっと待っていたお母様と一緒にはなれないと言い出したのです。結果お母様たち三人が集結してあれやこれやと説得をすると言う羽目になっており今ジルの村は大騒ぎとなっているのです……」
コクさんはそう語りだしイラつく拳を握りしめる。
ええとぉ、つまりは今そのジルの村で痴情の縺れによる三角関係が繰り広げられていると言う事?
しかもエルハイミさんが全部で三人も集結してシェルさんもいる?
その赤お母様とか言う人がどんな人か分からないけど絶対に近寄りたくない状況っぽい。
「ははははは、大変ですね……」
決してコクさんと視線を合わせない様にして私はそう言う。
なんか今ここで目を合わせたら取り返しのつかないような事になりそうで。
「ふぅ~ん、その赤何とかって人エルハイミさんの事嫌いなの?」
「赤お母様が覚醒されたのならお母様を嫌いになど成るはずはありません。悔しいですがお母様と赤お母様は魂同士がひかれあっています。例え赤お母様が何度転生しようともお母様の事を嫌いになど成るはずがありません!」
あわわわわ、またルラが余計な事を!
ルラのその言葉にコクさんはややも語気を荒げる。
しかしリラはそこへ更に追い打ちをかけるような事を言う。
「嫌いじゃ無ければみんな一緒に居ればいいのにね、カリナさんがトーイさんやザラスさんやネッドさん三人を好きでずっと一緒に居るみたいに」
「なっ//////!?」
「え?」
「カリナ?」
「それは本当ですかカリナ!?」
ここへきてルラは更に爆弾発言をする。
いきなり話を振られたカリナさんは真っ赤になってきょどっている。
真っ赤になって……
えっ?
「カ、カリナさん、それ本当なんですか!?」
「うっ、そ、それは//////」
ちょっとマテ。
カリナさんって好きな人いるそぶりを見せてたけどまさか好きな相手がこの三人!?
しかも小さい頃からずっと付き合いの有るこの三人を!?
「別にいいじゃん、好きならみんな一緒に居れば!」
ルラはにっこりと笑ってそう言う。
「好きなら一緒に居ればいい、ですか…… そうですね、私は何を悩んでいたのでしょう。愛するお母様の為と思い冷静なそぶりをしていましたが好きなら一緒に居ればいいだけの事。全く、私としたことが失念していました。ルラ、確かにあなたの言う通りです。こんな所で悩んでいる私がバカでした。 クロ、クロエよ今すぐジルの村へ向かいます! お母様に会いに行きます!!」
そう言ってコクさんはいきなり立ち上がりベランダの方へ向かう。
まだ王族の方含め食事中だと言うのに。
「カーソルテよ、しばし留守にする。用が有れば風のメッセンジャーでジルの村へつなぐがよい! 行くぞ!!」
言いながらベランダへ出て行きその淵に立ち上がる。
そして飛び降りたと同時にその体を爆発的に膨らませ真っ黒な竜の姿になる。
そこへクロさんやクロエさんも躊躇なく一緒に飛び降り同じく体を膨らませ竜の姿になり一緒に飛んで行ってしまった。
「ええとぉ……」
私たちはあまりにも唐突なそれに呆気にとられながらしばし開けっ放しのベランダの方を見るのだった。
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