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第五章:足止め

5-22ついでにてんぷらうどん

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「お姉ちゃん、てんぷらが食べられるんだからてんぷらうどんが食べたいよ!」

「はいっ!?」


 いろいろな具材をてんぷらにして皆さんで試食会をしていたらルラがいきなりそんな事を言い出した。
 てんぷらうどんと言えば醤油の効いたお出汁しが懐かしい。


 ごくり……


 ルラの発言に思わず唾を飲み込む私。
 あのサクサクのかき揚げがのっかったてんぷらうどん。
 つるつるシコシコの麺。

 
「い、いいわねそれ……」


 思わずそう言ってしまう私。
 既に頭の中はてんぷらうどんに浸食されまくっていた。
 
 だっていろいろとてんぷらを食べているとどうしても白米が欲しくなる。
 しかし流石に此処には白米が無い。
 でも小麦粉と魚醤が有るのならばてんぷらうどんが作れる。

 私はいてもたってもいられなくなり、てんぷらうどんを作り始めるのだった。


 * * *


「てんぷらうどん?」

「はいそうです、もの凄く食べたくなりました!!」


 カリナさんにそう話しながら小麦に塩を入れ水で練っている。
 ボールでこねているそれはパンの生地とは違い硬い。
 それをどうにかこうにか練りながら麺の元を作る。

「ふう、手で出来るのここまでかな? さてと……」

 練り上がった生地に更にコシを持たせるためにトーイさんたちにもお願いをする。


「すみませんが麺を作る為に手伝ってもらえますか? もっと麵にコシを持たせるために練り上げなきゃならないんです」

「手伝うって何をすればいいんだ?」

「俺らに出来る事か?」


 そう言うトーイさんとザラスさんに麺棒を渡す。
 そして片方は押さえでもう片方が体重を乗せて少しずつ生地を押しつぶしてもらいながら移動をする。
 これを何度か繰り返したら今度は丸くまとめてボールに入れたまま軽く絞った布を蓋にしてしばらく放置する。


「さてと、麺の方は準備できた。つぎはだし汁ね」

 私はそう言いながらお鍋に水を入れて沸かし始める。
 ある程度沸騰したらまずはそこへ海藻を入れる。
 
「リル、そんな海の草入れてどうする気?」

「えっと、海藻って出汁と言って茹でると良い味がにじみ出るんですよ」

 そう言いながらよく洗った海藻を更にお湯の中に入れる。
 するとしばらくしてうっすらと水の色が変わり始める。
 それをお玉ですくって一口。

「うん、出汁が出てきた」

 あくを取りながら海藻も取り出し横へ置いておく。
 別の鍋に沸かしておいたお湯に先程てんぷらで使った魚の骨とかを入れて煮込む。
 あまり濁らない様にうまく茹でてこちらは布でこしてだし汁を作る。

 それもちょっと味見するとしっかりと旨味が出ている。


「手間のかかる物なのね? もうできたの??」

「いえいえ、これからですよ!」

 そう言いながら出来上がった二種類のだし汁を合わせて沸騰しない程度に火にかけながらそこへ魚醤、砂糖、塩を入れて味の調節をする。
 本当はお酒も入れたいけど白ワインを入れると味が崩れるので今回は入れない。

 ゆっくりと鍋を掻き回し味見する。


「んっ! いい汁になった!!」


 私がそう言うとルラが尻尾を振ってこちらを見ている。

「お、お姉ちゃんあたしも!」

 元日本人、流石にお醤油を使ったこう言ったモノには引かれるのだろう。
 私は小皿にそれをすくってルラに渡す。


「えへへへへぇ~お汁久しぶりぃ♪」


 こくっ!

「うわぁ! お汁だ!!」


 うんうん、そのリアクションは私としてもうれしい。
 これは期待が高まる。

「さてと、それじゃぁ大鍋にお湯を沸かせてっと」

 リュックスさんにお願いして一番大きな鍋を出してもらいお湯を沸かす。
 そしてざるを準備して湯切りできるように準備もする。

 練って丸くしておいた麺の生地は布を取ってみると少し膨らんでいた。

「よっし、それじゃあ麺を作りますか!」

 テーブルを奇麗にして粉を引き、そこへ先ほどの生地を麺棒で伸ばしてゆく。
 これが結構重労働だけど、ここが肝心な所でもある。

 ある程度引き延ばしたら折りたたんで端から大きな包丁で切って行き麵にする。

「長いパンでも作る気か?」

「いえいえ、これを茹でると麺になるんですよ!」

「ちょっとリル、まさかエルフの村でよく食べる小麦の茹でた奴? 私あれ嫌いなんだけど」

 カリナさんは麺を見ながら不満そうにしている。
 確かにエルフの村では小麦粉と言えばすいとんみたいなのをよく食べさせられた。
 味のないすいとんは拷問に近い。

 私は笑いながらカリナさんに言う。

「エルフの村の小麦粉煮とは全然違いますから安心してください。むしろ私たちエルフには食べやすいものだと思うので」

 そう言う私にカリナさんは渋々大人しくなる。

 
 大鍋にお湯が沸くまでにかき揚げを作る為に材料を細かく切り刻む。
 具材はイカとエビに玉ねぎも入れちゃおう。
 他にも人参の細切りも入れて見た目を鮮やかに。

 本当は春菊とかごぼうとかも欲しいけど無いので仕方ない。

 細かく切ったそれをてんぷら粉のボールに入れてかき混ぜリュックスさんにお願いして油で揚げてもらう。

 お玉にある程度の量を入れたら油鍋の中にそっと入れてくっつかない程度にひっくり返しながら揚げてもらい軽くきつね色になったらよく油を切って紙を引いたお皿の上に立てて乗せてもらう。
 こうすると油の切れも良くなって余分な水分が飛んでカリカリのまま結構長い時間保てる。


「な、なんかこのてんぷらも美味そうだな……」

「ああ、野菜と魚介類が混ざっているなんて旨そうだ……」

「本当にリルの作る食事は驚かされますね」

「リル、これ食べてもいいかしら?」


 なんか横で見ていたトーイさんたちやカリナさんまでかき揚げの物欲しそうに見ている。


「駄目です、もう少し我慢してください。てんぷらうどんに使うんですから」


 びっ! と人差し指を立てて左右に振りつまみ食いを防止する。
 本当はこれをつけ汁にドボンとよく付けて白いご飯に乗せてかき揚げ丼も食べたいけど白米が無い。
 なので全力でてんぷらうどんに期待をしながら沸騰した鍋にうどんを入れる。

 ゆっくり鍋の中の麺を掻き回し、麺を茹でる。
 茹でていると麺がだんだん浮き上がって来るのでそれも時たまゆっくりと掻き回す。

 ある程度茹でたら麺を一本すくい上げそれを噛んでみる。

「ん~、ちょっとまだ堅いかな? もう少しっと」

 口の中で噛み砕かれた麺はまだ芯が硬かった。
 でも久しぶりに口にするうどんは正しくあのうどんの味だった。

 お城で使っている小麦粉はケーキとかでも使うやつらしく、生成もちゃんとして白い粉だったからやっぱり上モノなのだろう。
 雑味も少なく小麦本来の味がしっかりとしていた。

「さてと、そろそろ良いかな?」

 私はそう言いながら重い大鍋を流しに持ってくるようお願いする。
 流石に厨房で一番大きな鍋は私一人じゃ持てないもんね。

 流しに持ってきたら準備したざるにそのまま出してもらって準備していた水をかけながら表面御ぬめりを洗い流す。
 そして一人前ごとに軽く丸めてお皿に並べて行く。


「ほう、これはまた面白い。小麦を茹でるとこうなりますか」

「『麺』って言っていろいろと使えるんですよ」

 感心するリュックスさんにそう答えながら他の鍋でお湯を沸かしてもらっておいて小さなざるを準備する。


「さぁ、いよいよてんぷらうどんを作りますよ!」


 私はそう言いながらお椀にお湯を入れ温めてる間に茹でておいた麺をざるに入れてさっと沸かしておいた鍋で温める。
 よく湯切りして温めて置いたお椀のお湯を捨てそこへ麺を入れ、汁を入れそしてかき揚げを乗せる。

 ネギが無いのでエシャレットの青い部分を軽く刻んで少し入れれば完成!


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(*注意:形状が異なりますが写真はイメージです。)


「さあ出来ましたよ、『てんぷらうどん』です!」


 おおぉ~っ!

 
 とん、と差し出したお椀はちょっと西洋風のお椀なので浅めだけどちゃんとてんぷらうどんになっている。
 私は次々に人数分を作って行きテーブルへ。


「お姉ちゃん、食べていい? いいよね!?」

 既に尻尾が振り切れそうなほどぶんぶんしているルラがいる。

「はいはい、じゃあ食べましょう!」

 そう言ってルラにポーチからその昔に木の枝から作った箸を渡す。
 勿論私も箸を取り出すけど、他の皆さんにはフォークを渡してある。


「いただきまーす!」


 ルラは早速箸を使って器用に麺を引っ張り出しかぶりつく。


 ぱくっ!

 ずるずるずる~


「もごもご、ごくん! うまぁ~いぃっ!」


 にこにこ顔でどんどんとてんぷらうどんを食べて行く。


「すんすん、海の魚の香りがするけどそれほどきつくない。味はっと…… ぅんうぅぅぅっ!? な、なにこれぇ!? 美味しい、エルフの村の小麦粉煮と全く違う!」

 カリナさんはうどんを口にして驚いている。
 それを見ていたトーイさんたちや料理長のリュックスさんもさっそく食べ始める。


 ぱくっ!

 もごもご……


「な、なんだこれぇ? クニクニにもちもち!?」

「これって小麦粉だよな? パンとかみたいに硬くない??」

「へぇ、小麦とは茹でるとこうなるのですか? 面白い」


 トーイさんもザラスさんもネッドさんも初めて食べるうどんに驚いている。


「いや、凄いのはこの『麺』と言うモノだけでは無くこのスープ。海鮮の味がここまで上品に、そして味わい深いモノとは驚きです。雑味の無い洗礼されたこの味に塩だけで練り上げられた素朴な『麺』という食べ物が非常に合う。そしてそれぞれの味を引き出している。そうそう、このてんぷらは……」


 リュックスさんはそう言いながらかき揚げをフォークで崩し口に運ぶ。


「!?」


 途端に背景稲妻を落とす。


 ぴかっ!

 どがびっっしゃーんっ!!

 
「な、何と言う味わい! てんぷらが美味いと言うのは重々じゅうじゅうに承知していたと言うのにこのてんぷらは何と旨いのだ!! サクサクした食感に玉ねぎや魚介類の旨味、そしてこのスープを含んだ味わいが油っこさを洗い流しいくらでも食べられそうだ!!」


 あ、かき揚げを汁に付けた美味しさに気付いたみたい。

 私も早速いただくけど、やっぱてんぷらうどんにするとかき揚げから程よい油も染み出てお汁も美味しくなるよね~。
 ずるずるとうどんも食べると程よいコシが有って噛み応えも十分。
 かつおだしでは無いけど魚や海藻から取ったお出汁も効いた魚醤のお汁もいける。
 

「あ、そうそう、確かレッドペッパーもあったんだっけ」


 私は思い出して腰のポーチからレッドゲイルの赤竜亭のおかみさんが持たせてくれた調味料の中からレッドペッパーを取り出す。

 それをほんの少し振りかけてお汁を飲むと……


「うん、辛味がまた一段といい味出している!」


 やっぱうどんには一味か七味入れたいよね?
 エシャレットのネギ代わりはもちろん良い味出しているけど、このちょっとした辛味がまた何とも。


「リル、それ私にもちょうだい!」

「お、俺も!!」

「あっ、俺も俺もっ!!」

「リル、私にも分けてくださいよ」


 私がレッドペッパー入れて美味しそうに食べているとカリナさんたちもこぞってレッドペッパーを欲しがる。


「リルさん、それは?」

「ああ、唐辛子を乾燥して細かくしたものですよ。辛味としてほんの少し入れるとまた味わいがぐっと変わるんです」


 いいながらリュックスさんにも少し入れてやるとリュックスさんは軽く掻き回してからスープをスプーンですくって口に運ぶ。


「うぉっ! こ、これはまた何と言う事だ! こうも味わいが変わるモノですか!?」

「いけるでしょ?」


 私はにこにこしながらかき揚げを汁に浸し、麺を引き出し崩れたかき揚げと一緒に口に運ぶ。
 これがまたとても美味しい。



 本来のてんぷらうどんとはちょっと違うけど、それでも久しぶりに食べるてんぷらうどんは至高の味わいだったのだった。    
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