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第五章:足止め
5-14魔獣
しおりを挟む薄暗い森の奥から下草を踏み現れたのは半ば腐りかけの地竜だった。
「そんな! アンデッドドラゴン!?」
カリナさんはその姿を見て大いに驚く。
でもあれってルラがやっつけた地竜よりずっと小さい。
大きさとしては象さんよりちょっと大きいくらい?
「あ~、あたしがやっつけた怪獣より小さいね、だったら余裕だね!」
「馬鹿っ! アンデッドドラゴンは死んでるから体をバラバラにでもしない限り倒せないのよ! くぅうぅぅ、神聖魔法が無い限りこいつは厄介なんてもんじゃないわよ!!」
カリナさんは剣を抜いたままルラの前に出てルラを制止する。
「それと、こいつの攻撃は全て毒を持っているから気を気をつけて! 変に感染でもしたらこっちまでアンデッドになっちゃうから!」
「毒、ですか?」
私はカリナさんの警告に思わず聞き返す。
しかしカリナさんは口早にそう言ってトーイさんたちと目で合図をする。
すぐにトーイさんとザラスさん、そしてローグの民が前に出てこのアンデッドドラゴンを牽制する。
「こいつを倒すには炎を使うしかない。ネッド、炎の魔法をお願い! それとみんな奴の吐き出すブレスにも気をつけて、それも毒霧だから!!」
カリナさんがそう警告するとネッドさんが唱えていた呪文が完成して杖を向けながら力ある言葉を発する。
「【火球】ファイアーボール!!」
ぼっ!
杖の先に出来あがった炎の玉はアンデッドドラゴンに向けられて飛び出す。
それは真っ直ぐにアンデッドドラゴンにぶつかり爆裂しながら炎を上げる。
ぼんっ!
「よっし、炎が有ればサラマンダーを呼び出せる! 炎の精霊よ、不浄なるものを焼き払え!!」
カリナさんはネッドさんが放ったファイアーボールで燃え上がったアンデッドドラゴンに更に炎の中から炎の精霊サラマンダーを呼び出しその燃え盛る体でアンデッドドラゴンに体当たりをさせる。
ぼふっ!
ぼぉおおおおぉぉぉぉ
連続で炎の攻撃を喰らったアンデッドドラゴンはそれでもこちらに向かってきてその口を開く。
「まずい! 毒霧のブレスが来る!!」
カリナさんがそう叫んだ瞬間、体を燃やしながらもその口を大きく開きアンデッドドラゴンが黒紫の毒々しいブレスを吐き出す。
「毒を『消し去る』!!」
しかし既に私はチートスキル「消し去る」をアンデッドドラゴンに向けて照準をロックさせていた。
そして私のチートスキルはその効力を発揮してアンデッドドラゴン自体にもその力の影響を及ぼす。
「ぬっ!? これはでござる!!」
前衛で牽制をしていたソルスタさんが唸る。
それもそのはず、吐き出された毒霧は一瞬で消え、そしてアンデッドドラゴン自体も体のあちらこちらが消えてなくなった。
「これは!?」
「チートスキルであの化け物の『毒』を消し去りました!」
驚くカリナさんに私は何が起こったかを口早に説明する。
するとすぐにルラが飛び出しアンデッドドラゴンに「最強」のスキルを使いながら飛び蹴りをかます。
「毒が無くなったならもう大丈夫だよね! あたしは『最強』! 必殺きーっく!!」
ばっ!
どびゅしゅるぅるるるるぅるうるるるぅぅぅぅ!
「にょわぁっ!?」
見事にルラの飛び蹴りが決まった瞬間アンデッドドラゴンのお腹が破裂してルラはその中に入ってしまい、そのまま突き抜けてしまった。
「うぉいぃっ! ルラっ!!」
「うへっ、なんて臭いだ!!」
前衛にいたトーさんとザラスさんが弾けて飛び出たアンデッドドラゴンから飛び出る液体やら何やらにしかめっ面になる。
「好機でござる! 行くぞ『ジェット剛流攻撃』!!」
「「おうっ、でござる!!」」
お腹に穴が開き背骨まで蹴り飛ばされ失ったアンデッドドラゴンは体を維持するのも難しくなりよろよろとしている。
そこへソルスタさんたちが三位一体攻撃をかける。
漸っ!
ざ漸っ!!
一気に懐に潜り込み巧みに前足や後ろ脚を切り裂く。
するとアンデッドドラゴンはバランスを崩し地面に倒れる。
どバッターん!
びしゃっ!!
「うわぁ、肉が腐っている、く、臭い!!」
アンデッドドラゴンから離れているここにまで腐った臭い匂いが漂ってくる。
私は思わず鼻をつまみながらもアンデッドドラゴンを見るとネッドさんがまた炎の呪文を唱える。
「動けなくなればこちらのも、【火炎壁】ファイアーウォールで燃やし尽くしてやりましょう」
そう言って動けなくなったアンデッドドラゴンを炎の壁で囲みその体を燃やす。
それでも動こうとするアンデッドドラゴンだったけどやがて動かなくなり腐った肉も燃やされ消し炭になってゆく。
「ふう、成仏しなさいよね」
「これがアンデッドドラゴン…… もう二度と会いたくないですね……」
げんなりとしながらそう言っているとルラが情けない声を出して戻って来た。
「うえぇぇええぇぇぇん、お姉ちゃぁ~ん」
「うっ!」
全身あのアンデッドドラゴンの腐った体液と肉をまとってどろどろのルラがそこにいた。
可愛い妹ではあるけど流石にこの匂いはきつい。
「お”ね”ぇち”ゃぁ~ん”」
半泣きルラを前に私たちは思わず距離を取ってしまうのだった。
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