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第五章:足止め
5-13嘆きの森
しおりを挟む「はぁはぁ、つまりジマの国とドドス共和国の国境近くにある『嘆きの森』ってところに黒龍様は向かったって言うのね?」
「そう、でござる。本来はカリナ殿たちには内密にした方が好いとベルトバッツ様が仰っていたでござる。おふぅっ//////」
そう言ってソルスタさんは汗を流す。
うん近づきがたい。
カリナさんって何で女王様スタイルなの?
しかもソルスタさんたちふんどし一丁になってロープで縛られ吊るされながらカリナさんにビシバシ鞭打ちされたり、蝋燭垂らされたりとこれって生前噂に聞くSMってやつなんじゃ……
「相変わらずカリナの『至高の拷問』は見ていて恐ろしいですね……」
「そ、そうか? お、俺は良いと思うんだが//////」
「ああ、あの鞭も本物では無く打っても肌が裂けるもんじゃないからな、俺も打たれたい///////」
トーイさんやザラスさんは何故か顔を赤くしてはぁはぁ言っている。
「お姉ちゃん、なんでみんな赤い顔しているの?」
「うっ、ル、ルラにはまだ早いわ//////」
私はそう言ってもじもじと他を見る。
だって私だってこんなの初めて見るし噂だと痛いはずなのにだんだん気持ち良くなるって聞いてるし……
「ふむ、見事なものだ。ローグの民の使う『至高の拷問』をここまで使いこなすとは。カリナ殿は素晴らしい才能をお持ちのようだな」
見れば摂政のヒュードさんもほんのり赤い顔してカリナさんの女王様スタイルを見てる。
もしかしてヒュードさんもこう言うのが好きなの!?
「はぁはぁ、流石に疲れたわ。クロエ様直伝の『至高の拷問』、何とか通じたみたいね? でもまだまだクロエ様たちの使うレベルには遠く到達していない。あのお尻をやられるのは凄かったわ。とは言え私には練習相手もいないし……」
カリナさんは目元だけ隠していたマスクを外し、良い笑顔で汗をぬぐう。
何なんだそのやり切ったと言う感じの笑顔は!?
「で、やっと黒龍様たちが何処へ行ったか口を割ったけどまさか『嘆きの森』とはね…… そこはその昔ダークエルフ共がいた場所の一つだったんだけど今は村を破棄していなくなったのよね。でもそんな場所にジーグの民が潜んでいただなんてね」
そう言いながら腰のポーチに道具をしまい始める。
……あの魔法のポーチ、一体何が入っているのよ!?
よかった、借りているシャルさんのポーチには変なモン入っていなくて。
まあ、スケスケのネグリジェとか真っ赤な下着は見なかったことにして。
「カリナさん、そうすると私たちもすぐにその『嘆きの森』に行くんですね?」
着替える為に一旦他の部屋に行こうとするカリナさんに私はそう聞く。
するとカリナさんは立ち止まり私たちに振り返る。
「危険な森だけど私たちなら何とかなるでしょう。リルもルラも覚悟してね」
「はいっ!」
「うん、大丈夫だよ!!」
私とルラはカリナさんにそう答えるのだった。
* * * * *
早馬を摂政のヒュードさんにお願いして借りてローグの民であるソルスタさんたちの案内で急いで「嘆きの森」へ向かう。
早馬なら二日とかからない距離らしい。
「もうじきドドスの国境でござる。それを超えるとすぐに『嘆きの森』になるでござる」
早馬の足の速さに負けず劣らず地面を走るソルスタさんたち。
ほんと、忍者みたいでその身体能力に驚かされる。
「カ、カリナしゃんっ! イだぁ! 舌かんらぁっ!!」
「早馬に乗りながら喋るからよ! なに!?」
馬なんて乗れない私とルラはカリナさんやトーイさんの馬一緒に乗せてもらっている。
私がカリナさん、ルラがトーイさんの馬に乗せてもらっているけど、馬ってこんなに激しく揺れるもんだったの!?
「いつつつぅ、精霊魔法で森の中のジーグの民見つけられませんか!?」
「駄目ね、あそこは闇の精霊の住処よ! 風の精霊も光の精霊もすぐに闇の精霊に飲み込まれ消えてしまうわ!!」
カリナさんは最低限必要な事だけ言う。
じゃないとこの揺れだもの舌噛じゃう。
しかし、闇の精霊の住処だなんて。
「着いたでござる!」
先行していたソルスタさんが立ち止まるとその前に黒々とした森が現れる。
ぶるるるるるぅっ!
「どうどうどうっ!」
カリナさんたちも早馬を止めてその先を見る。
やっと激しい揺れから解放された私は大きく息を吐きながらその森を見る。
勿論目に魔力を込めて。
「うっ! な、何ですかあれ!? もしかしてあれ全部闇の精霊ですか!?」
肉眼では緑が深々とした森は薄暗く見えるけど、その実薄暗いのは沢山の闇の精霊が潜んでいるせいだった。
「これが『嘆きの森』が厄介な理由よ。ダークエルフたちの最大の村が有った森、『暗黒の森』と違い精神面に負の影響を与える闇の精霊が沢山いるのよ」
そう言ってカリナさんは馬を降りる。
「ここからは歩いて行くわ。下手に普通の動物を入れてしまうとパニックに陥るからね。あなたたち、ここまでありがとう。頭のいい子たちだから自分で帰れるわね? 魔物には気をつけるのよ?」
カリナさんはそう言って早馬を撫でる。
すると早馬は嬉しそうに尻尾を動かしカリナさんに頭を摺り寄せる。
「凄いね、カリナさん馬さんと話せるんだ~」
それを見ていたルラは自分も馬を降り撫でながら「ありがとう~」って言っている。
すると馬はルラにすり寄って来た。
「動物も精霊と同じよ。言葉に魔力を乗せて気持ちを伝えると大まかな意味は理解してくれるの。リルもルラも覚えておいて損はないわ」
カリナさんはそう言って馬を軽くたたいてやると、ぶるるるうぅと言って踵を返し来た道を戻り始めていった。
「動物とも意思疎通できるんだ……」
「えへへへ、お姉ちゃん、馬さん可愛いね」
ルラが撫でていた馬も一緒に踵を返して戻ってゆく。
うーん、今度私も時間のある時に試してみよっと。
「さあ、覚悟は良い? 闇の精霊に心を取り込まれないように注意してね。行くわよ!」
カリナさんがそう言い私たちは「嘆きの森」に足を踏み入れるのだった。
* * * * *
「これはぁ……」
森に入りしばらく歩いていると気分がだんだん重くなってきた。
カリナさんの言う事にはこれが闇の精霊が精神に影響を及ぼしている状態らしい。
だから自我をしっかり持っていないと最悪気持ちが落ち込み過ぎて酷い人は自暴自棄になって自殺してしまう人もいるらしい。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「ルラは何ともないの?」
「うーん、じめじめした森でちょっと嫌かなってくらい? なんかすっきりしない感じ~」
メンタル面強いのかなこの子?
でも要は気持ちの持ちよう。
しっかりとしなきゃね。
「うーん、流石にこれだけ色々といるんじゃどれがどれだか分からないわね?」
カリナさんは地面に手を着き様子をうかがう。
「どうなんですか?」
「動物の足跡の中にわずかに人の足跡があるわね」
言いながらカリナさんはその先を見る。
と、蛍かと思うような光る何がかいくつかいる?
「オオカミでござるな? ここは我々にお任せをでござる」
一緒に居たソルスタさんたちはその光るモノの方に駆けて行き何かを投げつける。
するとそれは、ぼんっ! と音を立てて破裂する。
ボンっ!
キャンっ!
まるで犬のような鳴き声がいくつかあがり狼たちは逃げ出した。
どうやら投げつけたのは小さな爆弾のようだった。
爆発と同時に炎も上がるので普通の動物は驚き逃げ去るのだろう。
普通の動物ならば。
「カリナ殿、ルラ殿ご注意召され! 魔獣でござる!!」
しかしソルスタさんのその声にみんな一斉に剣を抜くのだった。
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