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第五章:足止め

5-6とったどぉ~

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 私たちは山間の沢に来ていてわさびを探していた。


「ウンディーネが何かみつけたみたいです、行ってみましょう」

 私はそう言ってみんなをその場所へ誘導する。
 沢を少し上って少し開けた所、岩がごつごつしているけど水辺には砂利もあるような所。

 そんな所に行くとウンディーネが人の姿になって岩と岩の間を指さしている。

 私はそこへ行ってその岩陰を見ると青々とした葉っぱが生えていた。
 そしてそれはあのわさび園で見たものそっくりだった。


「見つけた!」


 私はそう言いながら腰のポーチからあらかじめ買っておいたシャベルを取り出す。
 そしてその葉っぱの根元、砂利の所を丁寧に掘り進みゆっくりとその葉っぱの茎を掴んで抜き取る。


「これです、これがわさびです!」


 見つけだしたそれはわさび園で見たものに比べるとかなりちっちゃい。
 まるで成育が上手く行っていない人参か何かのようにちっちゃい。
 大きさにして五センチあるかどうか。


「へぇ、これがわさび?」

「小さいのですね」

「こんなちっちゃいんだ~」

「これ食えるのか?」

「唐辛子みたいなものなんかな?」

「これがわさびですか、初めて見ますね」


 カリナさんもリュックスさんもルラもトーイさんにザラスさん、ネッドさんも私がつまみ上げたちっちゃなわさびを見る。

 うーん、自生しているわさびってこんなに小さいモノなの?

「えっと、確かにこれで間違いないと思うんですどこれってまだ小さいですね。とりあえず形はこんなのでもう少し成長するとここの根っこの部分が人参みたく太く長くなります。せめて十センチくらいの長さのモノが欲しいですね」

 私はそう言って人差し指とおやゆびの間に隙間を作って十センチくらいの大きさに開く。
 そしてそこへ先ほどのわさびをぶら下げるとやはり半分くらいの大きさしかない。

 それを見たカリナさんは頷いて両の手を広げて精霊魔法を使う。
 それは何度見ても洗礼された動きだった。


「水の精霊よ、これよりもっと大きなものをさがして」


 そう言ってしばし待つ。
 すると反応が有ったようでカリナさんは上流の方を見て言う。

「どうやらこれと同じ格好でもっと大きなものが上流にあるようよ。行ってみましょう」

 こうしてカリナさんも手伝ってくれて私たちは更に上流へと向かうのだった。


 * * * * *


「ふう、取れた」


 流石はカリナさんの精霊魔法だ。
 カリナさんは水の精霊をうまく使ってどんどんとわさびを見つけ出す。

 それに伴い私たちはどんどんと上流へと上ってゆく。


「はぁはぁ、だ、だいぶ上流へと来てしまいましたね?」

 息が上がっているリュックスさんはそれでも頑張って私たちについて来ている。
 見た感じ五十歳近いお腹の出ているおじ様なので一緒に沢を上るはきつい様だ。
 
 とは言え、やはり上流の方が大きなわさびが有った。


「あ、魚ぁ~!!」

 ルラは沢の水がたまった場所に魚を見つけて喜んでいる。
 と、ルラのお腹が鳴った。


 きゅるるるぅるうるぅぅぅぅぅ~


「お腹すいた……」

「そういや、そろそろ飯の時間か?」

「そうね、ここいらでいったん休憩しましょう。リュックスさんもへばって来たみたいだしね」

 ルラがお腹を押さえてそう言うとザラスさんも空を見上げて陽が頭上に来ているのを確認する。
 そしてカリナさんはリュックスさんを見ながら休憩をすると言う。

「はぁはぁ、すみませんね、助かります」

 リュックスさんはそう言いながら岩の上に腰を下ろす。
 するとトーイさんが先ほどルラが見ていた水溜まりを見る。


「魚でも取って飯にしようか?」


 トーイさんのその一言でみんなで魚を取る事となった。


 * * *


「結構取れたわね~」

「カリナさんの精霊魔法のお陰ですよ。さて、それじゃあせっかくだからわさびも少し使って川魚料理してみましょうか?」

 私がそう言うとカリナさんたちが大喜びする。

「ほう、リル殿はお料理もするのですか? これは楽しみです」

「ははははっ、リュックスさんみたいに立派なモノじゃありませんけどね。旅の道中で作るようなモノですよ」

 私はそう言いながら腰のポーチから道具一式を取り出し、まな板の上で魚を捌き始める。

 お腹を裂いて内臓を取り出し、良く洗ってから軽く塩を振っておく。
 鍋を取り出しオリーブ油を軽く引き、そこへニンニクのかけらを潰して放り込む。
 
 既にトーイさんたちが火を起こし焚火をしているので鍋を火にかけオリーブ油にニンニクの香りが移るようにしておく。


「ほう、オイルに香り付けですか。これは楽しみだ」

 リュックスさんはそう言って私の作業を見守る。


 料理長を前にちょっと恥ずかしいなぁ。


 私はちょっと意識しながら下準備した川魚のお腹の中に玉ねぎをスライスしたものを詰め込み、鍋に入れる。
 パプリカを輪切りにしてその上に乗せ、追加で軽く塩を振り、乾燥バジルも振りかける。
 そしてふたを閉めて少し火から遠ざけて弱火でじっくりと蒸し焼きにする。


「さてと、少し時間がかかるからその間にっと」

 言いながら先ほど取ったわさびを一つ取り出す。
 大体七センチくらいのやつ。

 それを奇麗に洗って汚れの酷い所とか根っこが飛び出ている所とかを切り取る。
 近くの石でざらざらしていそうなのを探し出して奇麗に洗いルラを呼ぶ。

「本当はサメの肌とかですりおろすらしいけど、今は無いからこれで代用ね。ルラ、こうやって石にこのわさびをこすり付けてすりおろして」

 私はわさびをつまんで石の上で回すように擦り始める。
 すると少しずつだけどわさびがすれていつも見ているようなあのわさびになって来る。
 但し、おろし金で無いのでこれをすりおろすのはかなり大変だ。

 なのでルラのチートスキルに期待をする。


「えっと、石にこすり付ければいいの?」

「うん、折らない様に気をつけてね」

 ほんのわずかにすりおろされたわさびを指に付けて舐めてみる。


 つん!


「うっ、うん、わさびだ。ルラ出来る?」

「任せて、あたしはすりおろしも『最強』!!」

 ルラは私が手渡したわさびと石を持って高速で擦り始める。


 すりすりすりすりすりすりすり!! 

 
 ざらついた石の表面に擦りつけられたわさびはルラが高速にこすり付ける事によりどんどんと擦られ、あのわさびになってゆく。

 私は近くの葉っぱを取って来て奇麗に洗い、すりおろされたわさびを掻き集めその上に乗せる。


「これがわさびなんですよ。これをほんの少しお肉とか一緒に食べると鼻に抜けるようなツンとした辛さが有ってそれが一瞬で消えるんですよ。食べたものがそのおかげでさっぱりした感じになるんですよ」


 私はそれをみんなに見せるとカリナさんが香りをかいでしかめっ面になる。

「なにこれ? 香り嗅いだだけでなんか鼻にツンとくる?」

「なるほど、マスタードとはまた違った刺激臭ですね」

 リュックスさんもその香りをかいで唸る。
 
 と、ここで鍋の蓋の隙間から大量の湯気が出ている。
 そろそろ頃合いかな?



 私は鍋の方に戻ってその蓋に手をかけるのだった。

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