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第五章:足止め

5-4わさびを探して

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 コクさんの「わさび」を探せの一言でここジマの国の王城は右往左往していた。


「リル殿、これがわさびでしょうか?」

 料理長のリュックスさんが私の前に持ってきたのはレンコンだった。

「えーと、違いますね、それレンコンて言う植物です。もっと緑色でこの位の大きさなんですけど」

 私は手と手の間にわさびくらいの幅を開いて料理長に見せる。
 だって持って来たのは立派なレンコンなんで、煮物やてんぷらにした方がおいしそうなものだったから。

「ふう、城下の店で手あたり次第珍しいもので探させているのですが、後はこんなものくらいしか見つかりませんでした」

 そう言って取り出したのはセリだった。
 いや、確かに水辺によく生えている記憶があるけど違うし。
 確か田んぼのあぜ道なんかで見かけた。
 あくが強くちょっと変わった味がするけどあのゴマよごしは美味しかった。

 そんな事を思い浮かべながら首を横に振るとリュックス料理長はため息をついた。


「そのわさびとやら、このジマの国あるのでしょうか?」

「えーと、それは何とも……」


 大変そうなのは分かっているけど、この国に自生してる植物に詳しいわけじゃない。
 ただ、わさびって意外と強いらしく条件がそろえば自生するって聞いたからもしかして山あいの沢なんかに行けばあるかもしれない。


「そう言えばジマの国ってシーナ商会って無いの?」

 私たちが困っていたらルラがふとそんな事を言う。

「シーナ商会でしたら街の大通りに有りましたね。確かにあそこは特殊な食材も地下売り場でありましたね。リルさん、もしよかったら同伴してもらえますか?」

 リュックスさんにそう言われた私はその困り顔を見て断るに断れなかったのだった。


 * * * * *


「よくもまあ外出許可が出たわね。一応私たちもジーグの民に狙われているかもしれないってのに」

「そうですけど、コクさんの命令だって言えばお城の人だって文句も言えずに通してくれたじゃないですか……」


 街の大通りをリュックスさんについて歩いている。
 本来なら問題が落ち着くまであまり出歩かない方が良いのだけど「わさび」を知らない人に買いに行かせるのも酷と言うモノ。

 仕方なしに私が出かけると言うとルラは勿論カリナさんたちもついて来た。


「お城の外出るの久しぶりだね~」

「確かにここ一週間くらい引きこもっていたからね……」


 コクさんの呪いを解いてそう言えばもう一週間くらい経つのか。
 あの後ジーグの民に襲撃は喰らっていない。
 ベルトバッツさんたちがしょっちゅうコクさんの元へ報告に来ているくらいだった。
 なので私たちもずっとお城にいたのでいい加減飽きて来た。
 だからこう言った買い出しにかこつけてみんなお城から出たかったのだと思う。


「ご心配に召されるな、我らが影からお守りしています故」


「わひゃっ!」


 いきなり通りの影から忍者衣装にスキンヘッドのおっさんが出て来て驚いた。

 
「警備は抜かりないでござる」

「我々の命に代えてもお守りいたします故、ご安心召され」


 更に路肩のごみ箱から、露店の壺の中からも忍者装束のスキンヘッドのおっさんが二人も現れる。


「くっ!?」

「おいっ?」

「おわっ!?」

「これはっ」


 流石にカリナさんたちも驚くけど、その気配を感じさせずそんな所から出て来るからみんな腰の剣とかに思わず手を付けてしまったりする。


「驚いたぁ~、ベルトバッツさんの所の人ね? 出来ればもう少し普通に接触してもらえると助かるのだけど」

「これは驚かせてしまったようで申し訳ござらん。以後気をつけます故どうかご容赦願いたいでござる」

 最初に私の前に現れたスキンヘッドの忍者のおっさんはそう言って頭を下げる。

「あ、いえ、その、普通に話しかけてくれればいいんですよ……」

 私もそう言うも、未だお店の人が驚く中壺から頭を出したり、野良犬に吠えられながらゴミ箱から頭を出していればカリナさんのように言わざるを得ない。


「ははははっ、黒龍様の僕のローグの民の方にはいつも驚かされますよね? 我々だっていつも驚かされますもの」

 リュックスさんはそう言って苦笑を浮かべる。
 やはり驚かされているんだ。
 私がリュックスさんに苦笑していると、ローグの民の人たちは任務に戻ると言ってまた姿を消す。


 どうせならカリナさんたち同様に普通に同行してくれればいいのに……


「見えてきましたね、そこがシーナ商会です」

 リュックスさんにそう言われ前を見るとやはりレッドゲイル同様立派な数階建てのお店が見えて来る。


 これってオーナーがシェルさんなんだよなぁ。
 しかもレッドゲルでは支店長さんがローグの民かと思うような人がいたんだよなぁ。

 もしかしてここジマの国も同じとか?


「流石にそれは無いか」


 そう私はつぶやいて皆さんと一緒にシーナ商会に入るのだった。


 * * * * *


「大変申し訳ございません、現在シーナ商会では『わさび』の在庫を切らしておりまして……」


 やっぱり忍者みたいな支店長さんまで出て来て驚かされたけど、深々と頭を下げられて「わさび」の在庫が無いと言われた。 

 と言うか、やっぱり扱っていたのかシーナ商会!?


「それは取り寄せなど出来るのでしょうか?」

「残念ながら我がシーナ商会は天然物にこだわっていまして時期的にまだ採れるかどうか分かりません。再入荷の予定は今現在ございませんので……」

 それを聞いてリュックスさんはがっくりと肩を落とす。
 まあ、無いのなら仕方ない。

「そうですか、では他の物を少々お願いしたいのですが」

 私は個人的に必要な他の物を頼んでポーチにしまう。


「ううぅ、『わさび』が手に入らないとは、一体どうしたらいいものか……」

 リュックスさんはそう言って沈み込んでいる。
 仕方なしにこの支店長に聞いてみる。


「すみません、わさびって何処で取れるのですか? それに時期的にっておっしゃってましたけど、今の時期って取れないモノなんですか?」


 私の問いに支店長さんは営業スマイルで説明をしてくれる。

「我がシーナ商会ではサージム大陸のスィーフ国の山間での採取が主となりますね。今あちらは季節的に寒さが和らぎ始めもう少しすれば採取が出来ると思いますが、現在はまだ手に入っておりません」

 うーん、確かわさびって涼しい所の方が良いはずだから良質の水が流れて山間なら……


「もしかしてここジマの国なら……」



 私はそう言ってリュックスさんに話始めるのだった。
 
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