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第四章:帰還への旅
4-28お買い物のはずが
しおりを挟む私たちは明日ジマの国を出発するので今日はその為の買い出しに来ていた。
「凄い! こんなに新鮮なお魚が!!」
まずは食材を買いたいと言う事で市場に行ってみた。
今朝水揚げされたお魚がまだ水槽で泳いでいたり、大きな魚は既に切り売りが始まっていた。
「あ、あれってもしかしてマグロ! こっちには鰆が!! うわ、イナダが安い!!」
「リルって海の魚にも詳しいのね?」
「あ~、お姉ちゃんレッドゲイルでもシーナ商会に入りびたりだったしなぁ~」
目を輝かせ新鮮なお魚を見ながら私はあれやこれやと買い入れる。
だって見た目だって鱗がキラキラとして目だって透き通っているほど新鮮。
「あっ! あさり!! こっちにはハマグリも!!」
魚だけではない。
貝類も豊富にあった。
私は魚を買いあさり絞めてもらって次々にポーチに入れて行く。
こうしておけば絞めた直後の鮮度で保存できるからだ。
「魚市場はもういいかしら? 後は普通の市場で野菜とか肉とかかしらね?」
「はい♪」
カリナさんの呆れ顔も気にもせずに私たちは次の市場に向かうのだった。
* * *
「大漁大漁~♪」
「ほんと、凄い量買うわね……」
次に行った市場も凄かった。
野菜はどれもこれも瑞々しいほどの新鮮で、タケノコなんかまであった。
それと意外なのが山菜。
タラの芽とかぜんまいに蕨、フキなんかまであった。
それらもしっかりと買い込んでお肉も見ると凄いのが鶏肉なんかはまだ生きているのが籠に入っている。
「お姉ちゃん、ここってペットも売ってるの? 鶏が籠にいるよ??」
「違う違う、生きたままだと新鮮だから買うとその場でさばいてくれるのよ」
「リル、あんたの前世って一体……」
転生者であることはカリナさんは薄々気付いていたけどあえてその事は今まで言わなかった。
私も目の前でさばかれるのは流石に抵抗が有るので、買うときは既にさばき切ったのにするけど。
そう言う知識はテレビで見たからで実際に前世ではそんな事は無いわけなのだけどね。
「でも確かにすごいですね、お肉も新鮮だし何より種類も豊富ですもんね!」
売っているのは獅子牛や豚、鶏肉に羊肉なんかまである。
そう言えば本場のケバブは羊肉使っていたなぁ。
友達と遊びで東京に行った時に上野で屋台店みたいので羊の串焼きとケバブ売ってたけど、あの羊肉の串焼きはとても美味しかった。
後でネットで調べて「クミン」とか言うカレーにも使う香辛料がとても合うと言う事を知ったのだけど。
「えーと取りあえず買えそうなの全部欲しいです!」
「全部って…… リルってそんなに肉食べて大丈夫なの?」
「いえ、ほら、このポーチ有るからいいお肉もずっと新鮮ですし!」
キラキラと目を輝かせながらぐっと親指を立ててカリナさんに言う。
カリナさんは額に手を当てあきれ顔で言う。
「まあ、道中美味しいモノ食べさせてくれるなら何だっていいけどね……」
私はそれを聞き嬉々として買い物を続けるのだった。
* * *
「まさか食材買うのだけで午前中を全部使っちまうとはなぁ」
「でもまあ、リルの美味しそうな飯が食えるならそれもアリだろ?」
「本当ですね、リルの作る食事は奥が深い。まるで錬金術のようですよ」
お昼を軽く食べながらトーイさん、ザラスさん、そしてネッドさんは苦笑する。
私はそんな中ニコニコ顔でいる。
だっていい食材がお手頃価格で手に入るのだもの!
しかも新鮮だし、可愛いからおまけしちゃうよとか言われるし。
「はぁ、しかし良くもあんなに買い込んだわね? あんなに有ったら一年近く食料に困らないんじゃないの?」
「だってエルフの村に帰ったらこんな食材手に入りませんよ?」
「うっ、そ、それはまぁ……」
あきれ顔で言うカリナさんに私はぐっとこぶしを握りながら力説すると唸りながら首を縦に振る。
カリナさんだって村を出る前はあの生活をしていたのだから分かるだろう。
そして千年以上も外の世界をほっつき歩いているのだ。
「そう言えばカリナさんは村には戻らないのですか?」
「そうねぇ、数百年に一度くらいは戻るわよ?」
そう言うカリナさんは遠い目をする。
そしてその度に親から見合いしろだの何だのと言われ困っているらしい。
そんな話を聞かされるとシャルさんを思い出してしまった。
思い人を待って七百年。
うん、トランさんはそう言う意味では紳士的だったなぁ。
私が大人になったらお嫁にもらってくれるとか言ってたし。
ん?
ちょっとマテ?
大人になったらって、エルフの大人基準は何歳くらいなのかな??
何となく気になってカリナさんに聞いてみる。
「ところでカリナさん、エルフ族って大人あつかいって何歳くらいから何ですか?」
「ん? 大人あつかい?? まあ、二百歳くらいで子供産める体になるから、その後は大体二百年から三百年くらいして大人あつかいかな? まあ普通は夫婦になるのは千歳過ぎたくらいがほとんどだけどね」
「千歳!?」
普通そんなにならないと結婚しないの?
え?
じゃあトランさんって私が千歳くらいになるまで結婚するつもりが無かったって事!?
私はそんな事を勝手に一人思い悩んで今更ながらに頭を抱えて考え込んでしまう。
「うーん、うーん……」
「何あれ?」
「お姉ちゃんたまに訳分からなく唸ってることあるんだよねぇ~」
ルラは串焼き肉を食べながらそんな事を言っていた。
「さてと、それじゃぁ飯も食い終わったし、とりあえず武器屋でナイフでも買うか? トーイとネッドはカリナと一緒に不足品の買い出ししてくれ。この二人の面倒は俺が見とくよ」
ザラスさんはそう言って席を立ちあがる。
「そうね、思っていた以上に午前の時間を使っちゃったからね。じゃあザラス、この二人をお願いね」
「ああ、任せときな」
カリナさんもそう言いながら立ち上がりまだ悩んでいた私を引っ張ってお店を後にするのだった。
* * * * *
武器屋さんっての初めて入った。
中に入ると壁やそこらかしこに剣や盾、鎧なんかも置いてあるけどほとんどが剣がメインだった。
「いらっしゃい、初めて見る顔だな? なにが入用だい?」
「この二人にも扱えるようなナイフが欲しい」
ザラスさんは店の亭主らしき人にそう言う。
すると店の亭主は私たちを覗き込む。
「ふむ、エルフの嬢ちゃんたちかい? 見た所まだだいぶ若いエルフのようだけど?」
「えっ? 見てわかるんですか??」
驚き店の亭主さんに聞くと笑いながら言う。
「はははは、この仕事を長くやっていると雰囲気とか物腰でそいつがどのくらいのやつか大体わかるんだよ。エルフの手練れは目つきが違う。嬢ちゃんたちみたいに町娘の様な優しい顔つきはしてないな。で、嬢ちゃんたちは冒険者にでもなるつもりかい?」
そう言われて私とルラは思わず顔を見合わせる。
双子で同じ顔の私たちが町娘の様な優しい顔つきだって?
「お姉ちゃん町娘なの?」
「んなわけないでしょうに。でもそう言えばカリナさんはいつも鋭い目つきだったかも……」
でもトランさんはいつもニコニコ顔だったなぁ。
シャルさんやシェルさんも村で見た時はそんな険しい顔して無かった。
でもカリナさんは私たちにも関係なく鋭い目つきを向けてくる時がある。
ああいうのが手練れのエルフなのかな?
「でだ、嬢ちゃんたちが使えそうなナイフはこんなのでどうだい?」
言いながら亭主さんはナイフをカウンター越しに出してくれる。
それをザラスさんはひょいっと取り上げ握ってみる。
「うーん、悪くはないがもっと握り手に重心があるやつが良いな。この二人はド素人だからな」
「なんだ、素人さんかい? だったらこっちかな」
言いながら亭主さんは別のナイフを出してくれる。
ザラスさんはそれも握ってみて確かめる。
「うん、これならリルやルラでも扱えそうだな。リル、ルラ、こっちとこっちのを握ってみてくれ。違いが分かるか?」
言われて二つ並べられたナイフを握ってみる。
最初は刃の幅が厚めのやつ。
持った感じはずっしり感がはっきりとしている。
次に後から出したのを握ってみる。
こちらは刃の幅が薄めのやつ。
そして握ってみて驚く。
「軽い?」
「そうだ、重心が持ち手に集中しているから同じくらいの長さでも軽く感じる。しかし握り手が重いから刺したり削ったりするのにナイフ全体の重さが利用できるからリルたちにも扱いやすいんだよ」
言いながら空いているもう片方の手に最初のナイフを持たされる。
「どうだい? 両方とも同じくらいの重さだろ?」
「ほんとだ…… 普通に持つと両方同じくらいの重さに感じる」
「ねぇねぇ、次あたしにもやらせて!」
ルラに両方のナイフを手渡しながらザラスさんに聞いてみる。
「なんで私たちには後の方のナイフが良いのですか?」
「そりゃぁ、リルもルラも戦闘がメインじゃないからな。野宿したり何かしたりするのに使うのがメインだ、相手を倒す為ではないだろう?」
そう言われにっこりと笑われる。
すると武器屋の亭主さんもにっこりと笑ってる。
「まあ素人さんには良い買いものだろう。こいつの言う通りだよ」
うーん、確かに戦うのが目的じゃないし、握ってみた感じは後ろのやつの方が使いやすそうだ。
「物も悪くない。これ焼き入れしてあるだろ?」
「ほう、分かるかい? 硬さも切れ味も抜群だよ。銀貨五枚だ」
ナイフ一本に銀貨五枚かぁ。
昨日の宿屋が銀貨三枚だったからちょっとお高め?
「これで銀貨五枚は高いだろ? 銀貨四枚だな」
「何言う、こいつはその意匠と業物なんだから銀貨五枚だ。まあサービスで腰に付けられる鞘付けてやる」
そう言いながら亭主さんは鞘も引っ張り出す。
「そいつは錆びやすいから毎日手入れしろよ嬢ちゃんたち」
亭主さんはそう言いながら二本のナイフを鞘に入れて私たちに渡してくれる。
私は素直に銀貨十枚を出して亭主さんに渡す。
「まいど。そうだこいつも付けてやるよ」
そう言って亭主さんは小さな皮の袋を手渡してきた。
「これは?」
「そのナイフの手入れ用の油が染み込んだ石綿だ。使い終わったらそいつで刃の部分を擦りながら油をつけておくと錆び難くなるし切れ味も戻る」
なるほど、それは助かる。
私はそれを腰のポーチにしまいながらお礼を言ったその時だった。
「なんだ!?」
ザラスさんがいきなり声を上げ腰の剣に手をかける。
そして見れば入り口のドアの下に銀色の液体が流れ込んできたのだった。
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