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第四章:帰還への旅
4-12商業ギルド
しおりを挟むユエバの町の商業ギルドはジマの国やドドス共和国との国境に近いと言う事もあり大いに賑わっていた。
「見えて来た、あそこがユエバの商業ギルドだ」
トーイさんにくっついて来て私たちが同行していたキャラバンが魔物の群れに襲われたことを伝えに来た。
もし運良くそのキャラバンの人やネコルさんたちが此処ユエバの町に辿り着いていればいいのだけど……
「お姉ちゃん、なんかあそこが騒がしいね?」
ルラに言われ見れば商業ギルドの店先が何やら人だかりが出来ている様だ。
もしかして私たちのキャラバンの事が伝わったのではないだろうか?
「すまないが通してくれ。ギルドに伝えたい事が有る」
「なんだなんだ? 今それどころじゃないんだぞ!!」
「そうだそうだ! 俺たちにとって死活問題なんだからな!!」
トーイさんがそう言って店に入ろうとすると店先で騒いでいた人たちが一斉にトーイさんに文句を言う。
しかし数人がトーイさんが誰かと言う事に気付く。
「ん? あんたもしかして『エルフの剣』の人か!? おおっ! 頼む、俺たちのキャラバンの護衛を頼まれてくれないか!?」
「なんだと? 『エルフの剣』だと!!」
「ちょっとまて、金は倍出す! 俺たちのキャラバンの護衛を頼む!!」
トーイさんが「エルフの剣」のパーティーメンバーと気付き今度は店先で騒いでいた人たちが一斉にトーイさんに詰め寄る。
一体どう言う事?
「すまんが、先に商業ギルドに用事が有る。話はそれからでいいか?」
トーイさんはそれでも用事を済まそうと店前の人たちを押し退け店の中に入って行った。
私たちも慌ててトーイさんにくっついて行ってお店の中に入る。
するとお店の中も人でいっぱいだった。
「なんだこりゃぁ?」
「凄い人ですね?」
「なんかみんな同じ格好してるね~」
見ればルラの言う通り、商人風の人ばかりだった。
そして皆さんなんかものすごく悩んだ表情をしている。
そんな皆さんをかき分け、トーイさんはカウンターの方へ行く。
「俺は『エルフの剣』のトーイだ。いまクエストから戻ったのだがあんたらのキャラバンらしき連中が魔物の群れに襲われていた。残念ながら既に商隊や護衛の連中はやられていたがこれを持ってきた。受け取ってくれ」
トーイさんはそう言いながらあのキャラバンの紋章が入った旗を手渡す。
するとカウンターにいた若い男性はそれを受け取り驚く。
「これはホップンス商隊の紋章! なんて事だ、レッドゲイルの方もだめか…… えーと、トーイさんでしたね。ご連絡いただきありがとうございます。これはお礼です」
そう言ってその若い人は台の下から小さな袋を取り出しトーイさんに手渡す。
トーイさんはそれを受け取ってから聞く。
「なにやらギルド内が騒がしいが、何が有ったんだ?」
「あ、ええぇ…… 実はここ最近ユエバの町の付近で魔物が活発化していまして…… 特に大迷宮の方は迷宮から魔物があふれ出たとの話もありまして、それが原因かどうかは分からないのですがあちらこちらの街道で魔物に襲われ流通が滞っているんですよ……」
商業ギルドの人はそう言ってため息をつく。
しかしそんなギルドの人に私はおずおずとながら確認をする。
「あの、すみませんがホップンスさんたちってこのユエバの町には?」
「彼らがこの町に来れば真っ先に魔物に襲われたことを伝えに来るでしょう。それが無いと言う事は……」
ギルドの人はそう言葉を濁す。
確かに私も何人かが確実に犠牲になったりしているのを見た。
戻った時には護衛の人を中心に亡くなっていた人もいた。
可哀そうだけどその人たちは街道の近くに埋葬してお墓だけは作っておいた。
「そう…… ですか。ありがとうございます」
私はそれだけ言ってトーイさんたちとこの商業ギルドを後にする。
希望が無い訳では無いが、厳しいと言う事は分かった。
「お姉ちゃん、ネコルさんたちもここへは来ていないのかな?」
「うん、商隊の人がここへ来られないのなら厳しいかもしれないね……」
私はそれだけ言うと黙り込んでしまう。
人は何時かは死ぬけど、不幸な死に方は出来れば避けたい。
あっちの世界からこっちへ来た私だから余計にそう思うのかもしれない。
普通の人はチートスキルなんて持っていない。
だから私たちはとても恵まれている事は分かっている。
淡い希望が打ち砕かれ方を落として私たちはカリナさんたちの所へ向かうのだった。
* * *
「そう、あの商隊の連中はここへは来ていないのね?」
「今の時点ではな。まあ運が有ればユエバの町に辿り着けるかもしれないが、ギルドでちょっと気になる事を聞いて来た」
カリナさんたちと合流して酒場に向かっている。
その道中カリナさんとトーイさんは商業ギルドでの話をしている。
「どうも大迷宮から魔物があふれ出しているらしい。それのせいかどうかは分からないが近隣の魔物がそれに反応して動いている様だな」
「迷宮の魔物か…… どのくらいの魔物が出て来ているかによるけど下層の魔物が出てきたら厄介ね。ユエバの町の周辺の魔物じゃ相手にならないのもいるしね…… だからグリフォンの群れが移動していたのかしら?」
どうやらあのグリフォンたちは大迷宮から出てきた魔物に追いやられたのが原因で動いていたようだった。
「繁殖期に住処を追いやられれば確かに攻撃的にもなりますね。しかし大迷宮で一体何が……」
ネッドさんもその話に首をかしげながら考えている。
「まあ、冒険者ギルドでは今の所は大迷宮の探索依頼は無かったし、一時的なものかもしれないからな。お、見えて来た!」
ザラスさんはそう言いながらその先の酒場を指さす。
私たちはとりあえず無事このユエバの町に着いた事を祝うためにお店の扉をくぐるのだった。
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