上 下
50 / 437
第四章:帰還への旅

4-9伝達

しおりを挟む

 カリナさんたちとユエバの町まで行く事になったけど、キャラバンの人やネコルさんたちが心配だった。
 しかしグリフォンの群れの強襲でみんな散り散りに逃げ去ったのでその安否も分からない。

 カリナさんたちはユエバの町を拠点に冒険をしている冒険者で「エルフの剣」と呼ばれるパーティーだとか。
 そしてこの町では一番の有名なパーティーだそうだ。

 日も暮れ始め私たちは焚火を囲んでそんな話をしている。 


「『エルフの剣』ですか? まるでカリナさんがリーダーみたいですね?」

「あら、私がリーダーよ。この子たちが小さな頃から鍛えたのは私だしね」

 カリナさんのその言葉に驚きトーイさんやザラスさん、ネッドさんを見る。
 すると皆さんバツの悪そうな顔をして頷く。


「まあ、カリナとは古い付き合いだしな」

「ユエバの町でカリナを知らないやつはいないしな」

「いろいろと町にも貢献してもらってますしね」

 
 改めて私はエルフと人族の違いに気付かされる。

 トーイさんもザラスさんもネッドさんもほとんど同じくらいの歳に見える。 
 多分二十代半ばくらいかな?
 でもカリナさんとは小さな頃からの付き合いだとか、鍛えられたとか。

 もし自分の知り合いがどんどん年を取って大きく成っても私たちエルフは変わらない。
 なんかそれは寂しくも感じる。


「そうかぁ、みんなカリナさんが好きなんだ~」

「「「な”っ!//////」」」


 ルラはにこやかにそう言うと皆さんが顔を赤くしておどおどとし始める。


「ふふぅ~ん、そんな事はバレバレよ。みんな私についてきたくて鍛えてきたのだからね。でもまだまだね」


 カリナさんにそう言われて皆さんはしゅんとする。
 
 うーん、この辺は流石に大人の女性、年下の男性を見事に扱っている。



「さてと、それじゃあ大体の話は理解できた。ファイナス長老にエルフのネットワークでこの事を伝えなきゃね」

 カリナさんはそう言って立ち上がり少し離れた所で風の精霊を呼び出す。
 それはトランさんがしていたのと同じくつむじ風が舞い、カリナさんを包み込む。
 そしてふわっと浮き上がるとカリナさんは手短に、そして事実だけを風の精霊に伝える。

 風の精霊がメッセンジャーとなって空高く飛んでゆくとカリナさんは長い金の髪の毛をふわっと揺らしながら地面に足をつける。


「ふう、これで大丈夫ね。トランの事は残念だけど村のみんなには伝えたわ。そしてあなたたち双子が今私と一緒に居る事もね」

 カリナさんはそう言って私とルラを見る。
 そして言い聞かせるように聞く。


「今回の件でわかったと思うけど、このイージム大陸はあなたたちが考えている以上に過酷な所よ? キャラバンに同行してエルフの村にまで戻ると言っても知っての通り確実では無いわ。それでも旅を続けるつもり?」


 それは真剣な眼差しだった。
 そしてその瞳には大人しく迎えを待つべきと物語っている。


 でも……


「それでも私たちはエルフの村に戻ります」


 私がそをはっきりと言うとカリナさんはため息をついて肩をすくめる。

「流石にレミンさんの娘だ。一度決めたら曲げないってのは親譲りかしら?」

「お母さんが?」

「え~、お母さんあたしたちには優しいよ?」

 驚きカリナさんの話に思わず声を上げるとカリナさんは私たちを見て言う。


「レミンさんは私たちに精霊魔法を教えてくれたけど、そりゃぁ厳しかったのなんの! 出来るまで家に返してもらえなかったんだから! 私なんか出来るまで三日も家に帰してもらえず、ずっと精霊の呼び出しさせられたんだから!!」


 自分の両腕を自分で抱きしめガクガクブルブルと震える。

 お母さん、あなた一体みんなに何したの……

 
 くぅうううぅ~


 そんな様子を見ていたらルラのお腹が鳴った。
 そう言えばそろそろ夕食の準備をしなきゃいけない。

 私は焚火に近くに戻って腰についているポーチから道具と食材を引っ張り出す。


「あら? それってエルフの魔法のポーチ? リルって若木なのによくそんなものっているわね?」

「ああ、これシャルさんのなんです。こっちに飛ばされる前に預かっていたんですが今はお借りして使わせてもらってます。おかげで助かってますけど」

「ふーん、シャルのなんだ。あの子、もう千歳くらいかな? 元気でやってるのかしら?」

 言いながらそのポーチを見て驚く。


「これ、メル様が作ったモノ!?」


「え? ああ、トランさんもそんな事言ってましたっけ…… 長老が作ったのってそんなに珍しいんですか?」

 トランさんのそんな事を思い出して、ちくっと胸の痛みを感じるも私はカリナさんに聞いてみる。
 するとカリナさんはやや興奮気味で話始める。


「メル様の御作りになった魔法の袋やポーチは古代魔法王国にも匹敵するほどのアイテムよ? 噂ではドラゴンを入れても余裕が有るほど凄いらしいわよ? 私の持っているこのポーチじゃせいぜい牛一頭入れるのが精いっぱいよ?」


 いや、カリナさんの腰のポーチだって私が付けているポーチと同じくらいの大きさでリンゴ二個入るかどうかにしか見えない。
 それに牛一頭入ればそれは凄い事なんだけど……


「そう言えばトランさんもそんな事言って地竜をポーチに入れてたなぁ~」


 ルラのその言葉にカリナさん含め皆さんぎょっとしてこちらを見る。
 私は苦笑いをしながら頷きその事を話す。


「こっちに飛ばされた時に近くに地竜がいて、えーと、その、そうだ、シェルさんの影響で地竜が死んだのでトランさんの勧めでレッドゲイルの街まで持ち運んで売り払いました」

 流石に私とルラの秘密の力は話せないのでシェルさんを使ってごまかす。
 するとカリナさんたちはそこへ突っ込みをまったく入れず変に納得してしまった。


「ち、地竜をね…… 流石にメル様の魔法のポーチね……」

「地竜って言えば『鋼鉄の鎧騎士』三体いないと倒せないってアレか? 流石は『女神の伴侶』だな」

「とてもじゃないが、英雄でもない限りそんな化け物となんか対峙できんぞ?」

「しかし地竜ですか、一度は見てみたいですね。それに売り払ったとなるとその素材は魔術の材料として一級品、うらやましいですね」


 うーん、シェルさんごめんなさい。
 でもやっぱりシェルさんを持ち出すと誰も疑問に思わないって……


 くぅうううぅ~


「お姉ちゃん……」

「あ、ごめんごめん! すぐにご飯作るから待っててね、皆さんもご一緒にどうですか?」



 慌てて食事の準備を始める私にカリナさんたちは顔を見合わせるのだった。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

TSしちゃった!

恋愛
朝起きたら突然銀髪美少女になってしまった高校生、宇佐美一輝。 性転換に悩みながら苦しみどういう選択をしていくのか。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

新しい自分(女体化しても生きていく)

雪城朝香
ファンタジー
明日から大学生となる節目に突如女性になってしまった少年の話です♪♪ 男では絶対にありえない痛みから始まり、最後には・・・。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...