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第四章:帰還への旅

4-5炊き出し

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キャラバンの隊長さん、ホップンスさんに頼まれて私はこの旅の間皆さんのご飯を作る事となった。


「えへへへぇ~、お姉ちゃんのご飯なら今後も楽しみだなぁ~」

「ルラ…… このキャラバンの人数知っているの? ネコルさんたち含めてざっと五十人よ! ああ、仕込みとかどうしよう!!」


 赤竜亭にいたので五十人分のまかない飯を作るとなれば仕込みなどかなりの時間がかかる事がわかる。
 実際今も私はジャガイモの袋をもらって移動中にちまちまとジャガイモの芽を取り除いている。
 この世界でもジャガイモの芽を食べるとお腹を壊すと言うのは食いしん坊のルラのお陰で知った。

 赤竜亭にいた時にルラがまかない飯の手伝いでジャガイモの皮むきしてた時に面倒がって適当にして芽が残っていてそれを自分がやったからと言って食べたら下痢をした。
 女の子で下痢の話とか大声で言えないけど、実際にルラはそれでトイレとの往復を何度もして苦労をしたもんだ。

 なので私は馬車に揺られながらも今晩の分のジャガイモをちまちまと確認している。


「しかしリルちゃんはエルフなのに料理に精通しているね?」

 そんな様子を見ているネコルさんはそう私に話しかけてくれる。

「レッドゲイルでは『赤竜亭』って言う所で働いてましたからね。お料理のお手伝いもしてました」

 私がそう答えるとネコルさんは大いに驚く。


「何と、『赤竜亭』で働いていたのかい!? なるほど、ならば納得いくよ。儂もまだ行った事が無いのだがあそこの料理は絶品らしいらしいからね、これは今晩の食事が楽しみだよ」


 そう言ってにこやかに笑う。
 いや、そんなにプレッシャーかけられると困るんですけど……


 それに保存の効く食材は豊富にあるけどこの商隊、調味料とか香辛料とかまったくと言って良いほど持っていない。
 あるのは岩塩くらいで乾燥ハーブすらない。
 

 男の人の料理って豪快だとは聞いた事あるけど、これって豪快なの?

 
 そんな事を考えながら約五十人分のジャガイモの芽取りが終わる。
 私はそれを別の籠に入れておく。

「ふう、人参は良いとしてあとは乾燥肉だなぁ……」

 言いながら乾燥肉が入った袋を開けて今晩分の乾燥肉を引っ張り出す。
 カチカチに硬くなっているそれはナイフで削るのも一苦労だ。
 晩御飯までにはまだ時間があるし、乾燥肉を戻しておこうと思い空いている樽に【水生成魔法】を唱えて水を張る。
 そこへ暇を持て余しているルラがお手伝いで乾燥肉を入れて行く。


「ほう、リルちゃんは生活魔法も使えるのかい?」

「生活魔法?」


 ネコルさんが私の作業様子を見ながらそんな事を言う。
 するとネコルさんは魔法の詠唱をして指先に明かりの魔法を灯す。


「【明かり魔法】、【水生成魔法】、【点火魔法】、そして【念動魔法】の事だよ。もっとも、最後の【念動魔法】は適性が無い者は使えんがね」


 言いながら指先の明かりを消す。

 そう言えばエルハイミさんから習ったものは【明かり魔法】と【水生成魔法】だけだった。
 あの短い時間で簡単に習得できるのはその位だったもんなぁ。
 私はネコルさんに笑いながら言う。


「私が使えるの【明かり魔法】と【水生成魔法】位ですよ。他は使えませんね」

「しかしリルちゃんたちエルフは精霊魔法が使えるのだろう?」


 言われて私は頷く。
 そして【水生成魔法】で樽に溜めた水を見て精霊魔法を使う。


「水の精霊よ、この人に挨拶をしてあげて」


 エルフ語でそう水の精霊にお願いして代価の魔力を与えると水面がまるでスライムのように持ち上がり少女の姿になる。
 そして水の精霊ウンディーネは優雅にお辞儀してから手を振ってまた元に水に戻ってゆく。


「ほう、今のは水の精霊か! 初めて見たよ」


「ええ、あの子にネコルさんに挨拶してくれってお願いしたんです。私たちは精霊と友達だから魔法を使うというよりお願いするって感じなんですよ」

 そうにこりと笑いながら言うとネコルさんは腕を組んで唸る。

「なるほどな、魔術師が使う女神様の御業の模範とは根本的に違うというわけだ。道理で人族にはなかなか精霊魔法が使えない訳だ」

「女神様の御業って何ですか?」

 気になって私がそう聞くとネコルさんは笑いながら言う。

「儂も少しは魔術をかじった口なんだがね、もともとこの世界の魔法は女神様が人間にその御業の秘密を教えてくれたのが始まりだそうだ。ガレント王国の始祖、魔法王ガーベルが人の世に魔法を広めたと言われておる」

 私は笑顔が引きついてき始めていた。
 

 あの駄女神がこの世界に魔法を教えたのか?
 そう考えると私たちにチートスキルを与えるのもあの女神にとっては何て無い事なのか?


 どうもあの女神がいろいろと騒動を巻き起こしているような気がして来た。
 いや、あの姿している人もそうなのではないだろうか、例えばエルハイミさんとか……

 私たちがこんな所まで飛ばされた直接原因はエルハイミさんなんだもの。


「魔法は生活魔法があれば十分な気もしますね」

「まったくその通り。まあこれ以上の魔法を覚えようとするならば魔法学園ボヘーミャにでも留学するのが一番の近道なんだがね」

 ネコルさんはそう言って笑う。


 魔法学園か、そんな所もあるんだ……



「お姉ちゃん、乾燥肉入れ終わったよ?」

 手伝いをしてくれていたルラが、私がネコルさんと話をしているうちに乾燥肉を水に入れて戻しておいてくれた。


「ありがとう、今晩はちゃんとしたポトフを作るからね」

「わーい、美味しいのお願いね!」


 喜ぶルラを横目に私は香辛料とかの準備を始めるのだった。


 * * * * *


「美味いっ!」


 キャラバン隊長のホップんさんは思わずうなっている。

 夕刻野営の準備が終わってから炊き出しを始める。
 今晩は移動中に準備していた野菜や肉を使ったポトフ。
 
 昨日の晩に比べちゃんと香辛料なんかを入れてジャガイモとかも皮をむいてあるからしっかりとしたポトフになっていた。
 それに黒パンもガーリックトーストにしたから硬くてもサクサクで美味しい。
 
 バターを使うという贅沢だったけどサクサクおいしいガーリックトーストとポトフは鉄板。
 一応お金も貰えるから次の街でバターや香辛料とかの持ち出し分は買い足しが出来そうだ。


「へへへぇ、やっぱりお姉ちゃんの作ったご飯は美味しいね!」

「本当に美味しいよ、リルちゃん。これはレッドゲイルに戻ったら赤竜亭にも行ってみなくてはだね」


 ルラやネコルさんも嬉しそうにご飯を食べている。
 そんな様子を見ながら私はガーリックトーストをサクサク食べる。

 明日からの献立どうしよう?


 夜空を見ながらそんな事に悩む私だったのだ。
 
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