46 / 437
第四章:帰還への旅
4-5炊き出し
しおりを挟むキャラバンの隊長さん、ホップンスさんに頼まれて私はこの旅の間皆さんのご飯を作る事となった。
「えへへへぇ~、お姉ちゃんのご飯なら今後も楽しみだなぁ~」
「ルラ…… このキャラバンの人数知っているの? ネコルさんたち含めてざっと五十人よ! ああ、仕込みとかどうしよう!!」
赤竜亭にいたので五十人分のまかない飯を作るとなれば仕込みなどかなりの時間がかかる事がわかる。
実際今も私はジャガイモの袋をもらって移動中にちまちまとジャガイモの芽を取り除いている。
この世界でもジャガイモの芽を食べるとお腹を壊すと言うのは食いしん坊のルラのお陰で知った。
赤竜亭にいた時にルラがまかない飯の手伝いでジャガイモの皮むきしてた時に面倒がって適当にして芽が残っていてそれを自分がやったからと言って食べたら下痢をした。
女の子で下痢の話とか大声で言えないけど、実際にルラはそれでトイレとの往復を何度もして苦労をしたもんだ。
なので私は馬車に揺られながらも今晩の分のジャガイモをちまちまと確認している。
「しかしリルちゃんはエルフなのに料理に精通しているね?」
そんな様子を見ているネコルさんはそう私に話しかけてくれる。
「レッドゲイルでは『赤竜亭』って言う所で働いてましたからね。お料理のお手伝いもしてました」
私がそう答えるとネコルさんは大いに驚く。
「何と、『赤竜亭』で働いていたのかい!? なるほど、ならば納得いくよ。儂もまだ行った事が無いのだがあそこの料理は絶品らしいらしいからね、これは今晩の食事が楽しみだよ」
そう言ってにこやかに笑う。
いや、そんなにプレッシャーかけられると困るんですけど……
それに保存の効く食材は豊富にあるけどこの商隊、調味料とか香辛料とかまったくと言って良いほど持っていない。
あるのは岩塩くらいで乾燥ハーブすらない。
男の人の料理って豪快だとは聞いた事あるけど、これって豪快なの?
そんな事を考えながら約五十人分のジャガイモの芽取りが終わる。
私はそれを別の籠に入れておく。
「ふう、人参は良いとしてあとは乾燥肉だなぁ……」
言いながら乾燥肉が入った袋を開けて今晩分の乾燥肉を引っ張り出す。
カチカチに硬くなっているそれはナイフで削るのも一苦労だ。
晩御飯までにはまだ時間があるし、乾燥肉を戻しておこうと思い空いている樽に【水生成魔法】を唱えて水を張る。
そこへ暇を持て余しているルラがお手伝いで乾燥肉を入れて行く。
「ほう、リルちゃんは生活魔法も使えるのかい?」
「生活魔法?」
ネコルさんが私の作業様子を見ながらそんな事を言う。
するとネコルさんは魔法の詠唱をして指先に明かりの魔法を灯す。
「【明かり魔法】、【水生成魔法】、【点火魔法】、そして【念動魔法】の事だよ。もっとも、最後の【念動魔法】は適性が無い者は使えんがね」
言いながら指先の明かりを消す。
そう言えばエルハイミさんから習ったものは【明かり魔法】と【水生成魔法】だけだった。
あの短い時間で簡単に習得できるのはその位だったもんなぁ。
私はネコルさんに笑いながら言う。
「私が使えるの【明かり魔法】と【水生成魔法】位ですよ。他は使えませんね」
「しかしリルちゃんたちエルフは精霊魔法が使えるのだろう?」
言われて私は頷く。
そして【水生成魔法】で樽に溜めた水を見て精霊魔法を使う。
「水の精霊よ、この人に挨拶をしてあげて」
エルフ語でそう水の精霊にお願いして代価の魔力を与えると水面がまるでスライムのように持ち上がり少女の姿になる。
そして水の精霊ウンディーネは優雅にお辞儀してから手を振ってまた元に水に戻ってゆく。
「ほう、今のは水の精霊か! 初めて見たよ」
「ええ、あの子にネコルさんに挨拶してくれってお願いしたんです。私たちは精霊と友達だから魔法を使うというよりお願いするって感じなんですよ」
そうにこりと笑いながら言うとネコルさんは腕を組んで唸る。
「なるほどな、魔術師が使う女神様の御業の模範とは根本的に違うというわけだ。道理で人族にはなかなか精霊魔法が使えない訳だ」
「女神様の御業って何ですか?」
気になって私がそう聞くとネコルさんは笑いながら言う。
「儂も少しは魔術をかじった口なんだがね、もともとこの世界の魔法は女神様が人間にその御業の秘密を教えてくれたのが始まりだそうだ。ガレント王国の始祖、魔法王ガーベルが人の世に魔法を広めたと言われておる」
私は笑顔が引きついてき始めていた。
あの駄女神がこの世界に魔法を教えたのか?
そう考えると私たちにチートスキルを与えるのもあの女神にとっては何て無い事なのか?
どうもあの女神がいろいろと騒動を巻き起こしているような気がして来た。
いや、あの姿している人もそうなのではないだろうか、例えばエルハイミさんとか……
私たちがこんな所まで飛ばされた直接原因はエルハイミさんなんだもの。
「魔法は生活魔法があれば十分な気もしますね」
「まったくその通り。まあこれ以上の魔法を覚えようとするならば魔法学園ボヘーミャにでも留学するのが一番の近道なんだがね」
ネコルさんはそう言って笑う。
魔法学園か、そんな所もあるんだ……
「お姉ちゃん、乾燥肉入れ終わったよ?」
手伝いをしてくれていたルラが、私がネコルさんと話をしているうちに乾燥肉を水に入れて戻しておいてくれた。
「ありがとう、今晩はちゃんとしたポトフを作るからね」
「わーい、美味しいのお願いね!」
喜ぶルラを横目に私は香辛料とかの準備を始めるのだった。
* * * * *
「美味いっ!」
キャラバン隊長のホップんさんは思わずうなっている。
夕刻野営の準備が終わってから炊き出しを始める。
今晩は移動中に準備していた野菜や肉を使ったポトフ。
昨日の晩に比べちゃんと香辛料なんかを入れてジャガイモとかも皮をむいてあるからしっかりとしたポトフになっていた。
それに黒パンもガーリックトーストにしたから硬くてもサクサクで美味しい。
バターを使うという贅沢だったけどサクサクおいしいガーリックトーストとポトフは鉄板。
一応お金も貰えるから次の街でバターや香辛料とかの持ち出し分は買い足しが出来そうだ。
「へへへぇ、やっぱりお姉ちゃんの作ったご飯は美味しいね!」
「本当に美味しいよ、リルちゃん。これはレッドゲイルに戻ったら赤竜亭にも行ってみなくてはだね」
ルラやネコルさんも嬉しそうにご飯を食べている。
そんな様子を見ながら私はガーリックトーストをサクサク食べる。
明日からの献立どうしよう?
夜空を見ながらそんな事に悩む私だったのだ。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」
サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる