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第四章:帰還への旅
4-1キャラバン
しおりを挟む「魔物が出た! みんな馬車から出ない様に!!」
レッドゲイルを出てまだ半日も経たないうちにキャラバンは魔物の群れに遭遇する。
いや、ほんとまるで待ち構えていたかのようにゴブリンとオオカミの群れがキャラバンを取り囲んでいる。
なんか盗賊みたいね。
「護衛隊前へ! 商隊は防御の陣を組め!!」
キャラバンの隊長さんは次々と指示を出し魔物の群れに対応する。
かなり慣れているようで皆さんテキパキと動いている。
護衛の人たちは冒険者のようだった。
隊長さんの指示に剣を抜き盾を構えゴブリンたちに立ち向かう。
「ひぃいいいぃぃ、だ、大丈夫なのか?」
「ま、魔物の群れだって!?」
同席している一般の人は魔物の群れと聞いて震えている。
街中にいれば魔物なんてそうそう出会う事無いから当たり前だけどね。
私は荷馬車の隙間から外のその様子をうかがう。
「お姉ちゃん、大丈夫かな?」
「うーん、見た感じ問題無さそうね。護衛の人たちも頑張ってくれているみたいだし、そこを抜けて来るゴブリンはいないみたいね。私たちは大人しくしてましょう」
外では護衛の人たちがゴブリンや狼たちを切り裂き倒していた。
魔法を使う人もいる様で時折魔法の光がゴブリンを襲っている。
商隊の方も慣れたもので荷車を盾に円形になって馬をその中に、そして盾や槍を持ち出してその隙間を商隊の人たちが防御を固めている。
「本当に此処って魔物が多いのね……」
私のつぶやきにルラも横から外の様子を覗き見る。
そして小声で言う。
「あたしが出て行けばすぐに片付くのになぁ~」
それを聞いた私はルラの腕を取って小声で言う。
「ルラ、私たちの秘密の力は内緒なんだから不用意に口にしない」
「分かっているって、お姉ちゃん」
少し口をとがらせるルラだけど、この秘密の力は他の人たちには知られたくない。
それに出来れば魔物と戦うのにはもう使いたくなかった。
「魔物たちが逃げて行くね」
ずっと外の様子をうかがっていたルラはそう言う。
そして程無く隊長さんが大声で魔物撃退を宣言すると商隊の人たちはすぐに被害状況の確認と護衛の負傷者の手当てを始める。
この辺の動きも慣れたものでテキパキとこなしていた。
「もう大丈夫だ。魔物の群れは撃退した」
一応私たちの荷馬車にもその伝達が来ると一緒に居た人たちから安堵のため息が聞こえる。
そして顔を見合わせ皆さん話を始める。
「ふうぅ、怖かった。でもやはりキャラバンと同行して正解だったね」
「商業ギルドのキャラバンだ、守りだって一流だものね」
「やはり商業ギルドのキャラバンは素晴らしいですな」
同席の人たちはそんな事を言っている。
と、その中の一人が私たちに声をかけてくれる。
「エルフの人、あんたらもドドスに行くのかね?」
「え? あ、ああぁ、そうです」
いきなりだったけど私は声をかけて来てくれたおじさんにそう答える。
するとおじさんはにっこりと笑って話し始める。
「エルフの人を見るのは久しぶりだけど、ドドスには何をしに? あそこはドワーフ族が多いからエルフの人たちはあまり行きたがらないのだけどね」
そう言って私とルラを見比べる。
そしてやや首をかしげて聞いてくる。
「もしかして双子さんかい?」
「うん、あたしルラって言うの、こっちはお姉ちゃんのリル!」
ルラはおじさんにニコニコしながら答える。
私も愛想笑いをしてお辞儀するとおじさんも名乗りだす。
「儂はネコル、レッドゲイルで防具を取りあつかっている者だよ」
「防具屋さんですか? ドドスには何をしに行くんですか??」
防具屋さんが自分の街を出てドドス共和国にまで何をしに行くのだろう?
そんな事を思っているとネコルさんは自分の足を擦りながら言う。
「ドドスとイザンカは仲が悪いが、商売は続いているからね。イザンカでは取れる鉱石が少ないから防具を作るのも一苦労なのだよ」
言いながら擦っていた足をまくると金属の義足だった。
私はそれを見て嫌な事を思い出す。
何故ならネコルさんの義足はちょうど右足だった。
そう、トランさんと同じくそこには自分の脚が無い状態。
「若い頃に無茶をしてね。何とか歩く事は出来るが他の人にはもうこんな思いをして欲しくないと思って防具屋を始めたんだよ」
苦笑をするネコルさんは脚をしまう。
私は眉間にしわを作りながら聞く。
「それではドドスには材料の買い出しですか?」
「いや、商談でね。今後ドワーフの作る防具をこのキャラバンに運んでもらおうと思っているんだよ。ドワーフ族はドドス共和国の更にむこうの山岳部に国が有るからね」
商談かぁ。
でもイザンカ王国とドドス共和国が仲が悪いって初めて聞いた。
仲が悪いのに商売だけは続いているんだ。
「ドワーフって髭で背の低い樽のような人たち?」
ルラも首をかしげながらドワーフ族に興味を示す。
するとネコルさんは頷いて答えてくれる。
「そうだよ、彼らは職人で良いモノを作る。それこそ防具でも何でも、お嬢ちゃんの髪留めみたいな奇麗なものまでね」
言われて私は髪留めに手を当てる。
やっぱりこれもドワーフが作ったって分かるんだ。
私は改めてネコルさんに向き直って聞いてみる。
「いろいろ知ってるんですね。もう少しお話良いですか?」
「勿論だとも」
ネコルさんは笑って快諾してくれる。
私たちはこれから向かうはずのドドス共和国とドワーフの国について話を聞くのだった。
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