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第三章:運命
第二十二話:俺は男だ
しおりを挟む歩は夢を見ていた。
それは歩にとって悪夢だった。
他の世界であの女、ザナと交わり王として君臨するも、その世界はじきに魔力が枯渇して死滅する世界だった。
それを回避するためにこの世界に来て、人々の魔素を芳醇に溜め込んだ魂を成熟させ、それを刈り取り自分のいた世界に魔力を持ち去ろうとした。
だがこの世界の者たちは魔素を魂に溜め込んで、人の進化としての力としたために劇的な発明や文明を築き始めた。
それは馬を操り、青銅を作り出し、組織を組み上げ、国を作る。
それは自分たちのいた世界のように各々の力だけが全てとは違っていた。
一人一人は確かに弱い。
しかし、この世界の人間は徒党を組むとその力を何倍にもして発揮した。
そして自分はこの世界の新勢力によって命を落とす。
だが、その魂は何度も輪廻転生をする。
そして向こうの世界にいる片割れのザナを呼び、この世界を征服しようとした。
しかしその都度邪魔が入り、この国で思うように力を発揮できなかった。
ある時は巫女の弟として国を操り、ある時は帝を裏から操る役職につき、ある時は戦乱の世に覇王として君臨しようとして、寺で謀反により命を落したりと。
歩の前世は常に己が目的のために動いていた。
そしてその都度異界の片割れであるザナをこの世界に呼び寄せようとした。
しかし、どれもこれも上手く行かなかった。
そして長い年月の間にそれすらも忘れ去ってしまった。
だがザナはナギを欲し、常に何らかのつながりを求めていた。
『ナギ様よ、ようやっと我が手に戻られた…… 愛しておりますぞナギ様。我が主として我と一つになり、この世界を今度こそ手に入れましょぞ! さあ、ナギ様よ、男であった時を思い出しなされ、そして我を抱いてくださいまし』
ザナはそう言って歩を抱きしめる。
しかし歩は現在女の子に成ってしまっている。
いくら求めても一つにはなれない。
だが、この感覚は……
『そうですじゃ、その感覚こそ男の子。さあ、思い出されよ男の子としてのその脈動を!!』
ザナにそう言われ歩は久しく忘れていた男としてのたぎりを感じ始める。
そう、もともと自分は男で、そして……
―― だめっ! お兄ちゃんは男に戻っちゃダメなの! 全てが、未来が、無くなってしまう!! ――
聞こえてきたのはアイナの声だった。
歩はそれを聞いてふと思い出す。
なぜ自分は女の子に成ってしまったのだろう?
今まで何度も輪廻転生しても全て男だった。
しかし今回も男に生まれてもいつの間にか女の子に成っていた。
何故だったのだろう?
『ええぇぃいぃ、まだ意識が残っておるのか!? 女、もうナギ様は全てを思い出した。無駄じゃ、ナギ様はもう我のモノじゃ!!』
―― お兄ちゃん、ダメだよ! みんなが死んでしまう、お父さんもお母さんも、恵菜ちゃんも!! 未来の世界はそれこそ生き地獄だったのよ、お願いお兄ちゃん!! ――
アイナのその必死な声は何故か歩の心に深く突き刺さった。
アイナたちの世界は滅びる。
だがこの世界の未来は変えられる。
アイナたちは誰にも感謝される事無く、二度と自分たちの世界に帰る事無くこの世界で生きてゆくしかない。
それだけの大業を行っても。
しかし今ここで自分がナギになってザナを選べば……
「俺は…… 俺はこの世界が気に入ってる…… そしてアイナは俺の……」
『ナギ様よ?』
「アイナは俺の大切な妹なんだっ!!!!」
歩がそう叫んだ瞬間だった。
目が覚め、裸のアイナが目の前にいた。
しかしアイナは片目が赤い光を宿し、もう片目が涙を流していた。
「ナギ様よ!?」
「お兄ちゃん!!」
アイナの口からこぼれ出るその声はアイナとザナの声が混ざっていた。
「俺は、俺は体は女だが心は男だっ!! そしてアイナは俺の大切な妹だぁッ!!!!」
歩がそう叫んで首に残っていたペンダントに触れる。
「マルチ、セットオン! 装着!!」
歩がペンダントに触れながらそう叫ぶと、歩の身体を新たな光が包みアイナから引き離す。
既に裸の歩だが、その体がくるくると回り、胸部アップアングルから引きながら全体を映し出す。
光の粒子が集まって、胸部や臀部が光り、純白のインナーが装着される。
キラン☆
きゅぅ~
ポンっ☆彡
そしてリボンのような光が歩の身体を包むと、そこに白を基調としたレオタードのようなスーツが装着された!
しゅるるるるる~
きゅっ!
キラン☆
ポンっ☆彡
更にその光は手足にも集まって、ロングブーツやロンググローブ、腰には何故かスートが現れ、胸元や各所にリボンや装飾品まで現れる。
しゅぅ~
ポンっ♡
キラッ☆
最後に頭部に小さ目のティアラが現れ、背景をピンクにして歩は魔法少女が取るようなポージングをする!!
シャキーンっ!
「あ、あれは! 試作ゼロ型強化スーツ!?」
「完成していたんですか!? しかし、そのパワーが段違いの為、装着は一度しか出来ないはず…… はっ!? あゆみさんのマルチに入れたあの強化スーツがこれだったのですか!?」
歩のその変身した魔法少女のような姿にアルファもベータも驚きの声をあげる。
「な、なんだこれ!? なんで俺だけこんな格好!?」
「あゆみさん! それはゼロ型強化スーツです! 私たちの時代で最高峰の技術とパワーを出せる強化スーツです。 しかしそのあまりにも強力な力の為、十五分しか持ちません。武器類は全て音声入力です、ナビもついてます!!」
アルファは要約して歩にその事を伝える。
おかげで説明する手間が省けて助かる。
「わ、分かった! とにかくこいつらを!! ナビ、なんか武器!」
『イエスマム、超電磁砲があります。手を向けて【ファイナルシュート】と音声入力で発動します』
歩はそれを聞くとアイナの後ろにいたイカ男に手を向けて叫ぶ。
「ファイナルシュートっ!!」
バチバチ
シュバっ!!
すると歩の手の周りにバチバチと電気がスパークしたかと思うと、手の先から音速を超える何かが飛び出した。
それは轟音と共にイカ男の胸に歩の手の形の穴をあける。
ぼんっ!
イカ男はそれを喰らってその場に倒れる。
「す、すごい! これなら!!」
歩はアルファたちを押さえている牛頭の化け物にも手を向ける
そしてまたあの言葉を叫ぶ。
「ファイナルシュート!」
しかし今度はそれが発動しない!?
『警告。超電磁砲のエネルギーが無くなりました。他の武器を使いますか?』
「なっ、じゃあ何でもいいから次の武器!」
歩が慌ててそう言うと、ブタ頭がこちらに向かって来た。
ふごふごとよだれを垂らしながら少女に襲いかかるその姿は、おまわりさーんこの人でーす! だった。
歩が次の武器を使おうとする前にブタ頭が歩に襲いかかる。
「きゃー、いやぁっ!」
何故か女の子らしい叫び声をあげて手を振ると、何とその裏拳が油断していたブタ頭の顔にクリティカルヒット!
ブタ頭はぎゅりんぎゅりん回転しながら向こうの壁まで飛ばされて嫌な音を立てて壁にめり込む。
どごっ!
ぐしゃっ!!
「へっ?」
拳をふったままの形で歩はそちらを見ると、ぐちゃぐちゃになっていた為にモザイクがかかっていた。
どうやらスーツの強化された力のお陰のようだ。
と、ここで何処からともなく音楽と女性の歌声が聞こえ始める。
さぁ~たちあがれぇ~♪
異界の悪いやつをやっつけるんだぁ~♬
「な、なんだこの歌は!?」
『気力高揚の応援歌です。スーツの一部を飛ばす武器があります。相手に手を向け、【ジェットパンチ】の音声入力で発動します』
ナビが一瞬遅れて次の武器の説明をする。
歩はすぐに牛頭に手を向けて叫ぶ。
いまだぁ~♪
倒せ異界の魔物ぉ~♬
「ジェットぱーんち!!」
するとロンググローブの肘から前がするりと抜けて飛び出し、後方から炎を上げて牛頭に飛んで行く。
バゴーンっ!!
「ぶもっ!」
牛頭は見事にその鉄拳にふっ飛ばされてアルファとベータは拘束が解かれる。
飛んで行ったグローブはその後ちゃんと歩のもとへ戻ってきて再装着される。
「トドメでなんか武器は!?」
『【バストファイアー】があります。両腕を左右に力こぶを作って音声入力してください』
悪いやつにはぁ~♬
キッツいぃお仕置きよぉ~♪
「わ、分かった! バストファイアー!!」
歩が言われたとうり両の手を左右に力こぶを作る格好をして音声入力すると、胸の飾りが展開してそこから超高濃縮による大量の高周波が放たれる。
その高周波があまりにも高出力の為、胸の前の空気水分が一瞬にして高温に達し、白い煙のスチームになりながら牛頭に襲いかかる。
ぶあっ!
ぶるっ
ぱーんッ!!
どさっ
高周波を受けた牛頭は皮膚の下の血液を沸騰させながらその場で破裂して倒れた。
「ゴガァっ!!」
「うわぁっ!?」
が、すぐに残った鬼のような大男が歩を後ろから抱き上げる。
太い腕がか細い歩を後ろから抱きしめ、そのまま凄い力で締め上げる。
負けるなぁ~♪
私たちの未来を守るためにぃ~♬
「くっ! こんのぉぉおおおおぉぉぉっ!」
ぎりギリギリ……
ばっ!
しかし歩はスーツの力を借り、両の手を左右に開きその拘束を振り切る。
「ナビ、武器っ!」
『腰にステッキがあります。展開すれば鈍器になります』
歩は言われてすぐに腰についている魔法少女がブンまわしそうなステッキを引き抜く。
するとそれは適度な長さに自動で伸び、先端が星とリボンの恰好をした意味不明な形状になる。
ちゃんと電飾されてキラキラして、小さい女の子なら欲しがるような感じだ。
やっちゃえそこだぁ~♪
トドメだ我らがぁ~♬
「このぉっ!」
歩はそれを振り回して鬼の顔面にぶつける。
どごっ!
グシャっ!!
そのステッキは先端に重りとなる意味不明なキラキラ光るものが付いているので非常に鈍器として効率よく相手にダメージを加える。
しかも星とかリボンの恰好をしたものは硬度も十分あるようで壊れる事もなく、その形状のせいもあってもの凄くぶつかると痛い。
歩はスーツのパワーも載せたそのステッキで何度も鬼のような大男を叩く。
叩く。
叩く。
叩くのだが、もう動かなくなっている。
ぐちゃっ!
「ふう、勝った!」
いやいやいや、ビジュアルが怖い。
魔法少女のような格好をした歩がいくばくかの返り血を浴びて、ゆっくりと肉塊と化した大男の顔から未だキラキラと電飾を輝かせているステッキを引き抜く。
勿論ステッキの先端にはミンチになった肉や血がしたたっている。
我らが希望のぉ~♬
ゼロ型ぁ~!♪
じゃじゃんっ!
ちょうど応援歌も終わったようだ。
「す、ステキ! やっぱりゼロ型は凄いわ!!」
「流石私たちの最高の技術! 私たちの技術は世界いちぃいいぃぃぃっ!」
いや、アルファさん、ベータさん?
何故かスプラッタな魔法少女を見ながらキラキラした瞳をしているアルファとベータ。
誰も突っ込み入れないなんてどうなってんだよ!?
「主様よ、ナギ様よ…… 何故じゃ? 何故我と共に来て下さらんのじゃ!?」
しかしアイナに憑依したザナはそう言って頭を振る。
歩はゆっくりとザナに向かって歩きながら言う。
「俺は……俺はこの世界が気に入ったんだよ。そして俺は星河あゆむ。愛菜の、いやアイナのお兄ちゃんなんだ!」
そう言ってアイナの前に立った時には時間切れでスーツが強制パージされる。
また裸になってしまう歩だが、何故かその表情は穏やかだった。
そしてアイナに手を伸ばす。
「アイナ、俺は女の子に成る。でも心は男のままだ。だから……」
そう言ってアイナに触れた瞬間光があふれる。
その光はまばゆく、直視できない程だった。
「一体何が!?」
「アルファ、この波形は!?」
その光に目を覆い隠しながらも、ベータは磁場波形の異常を感知していた。
そしてあの磁場波形を示すあのストップウォッチのような物が表示したそれをアルファも見て驚く。
「青い波形とピンクの波形がゼロ地点で重なって行く? これって!!!?」
歩が発する光は更に激しくなり全てを包み込む。
そして……
応援ありがとうございます!
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