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第三章:運命

第二十話:守るために

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 ベータを突き飛ばした歩だが、代わりに熊男のその爪が歩に迫る。


「あゆみさんっ!!」

 ベータは突き飛ばされながら悲鳴に近い声をあげる。
 しかし、熊男の爪は確実に歩に吸い込まれていった!

 歩は死を覚悟して目をつぶる。


 がきーんっ!!


 が、甲高い音がしてその一撃は歩に触れる寸前で止まる。
 ギリギリと金切り音が聞こえてくるそれに歩は恐る恐る目を開くと、見えない壁が火花を散らしながら熊男の爪を防いでいた。


「よかった! マルチの自動防御システムが作動した!!」

 ベータはそう言ってあの重火器を取り出す。
 そして熊男の背にその銃口を押し付けて引き金を引く。


 かちっ

 カッ!!


 それは熊男の上半身を一瞬で引き飛ばしながら校舎の壁も突き破り、上空へとその光を伸ばす。
 後に残った熊男の下半身がその場で倒れる。
 
 歩は目をぱちくりさせてその一部始終を見ていたが、その場でぺたんと女の子座りしてしまった。


「助かった?」

「あゆみさん大丈夫ですか? けがは有りませんか!?」

 ベータのその声がまるで遠くで聞こえているように感じる。
 が、すぐに頭を振ってベータに言う。


「アイナが、アイナが捕まった! 助けに行かなきゃ!!」

「ダメです! あゆみさんの安全が第一なんですよ!?」

「でもアイナがあの女に捕まっちゃってんだぞ! あの女に!!」

 ベータにそう言って歩はベータの腕を掴みながら懇願する。
 

「しかし、あなたの身の安全が第一なんです。お願いです、私と一緒に逃げてください!」


「いやだ! アイナが、アイナは俺の大切な妹なんだぞ!!」


 歩がそう言った瞬間だった。
 何故か自分が男だったあの時の感覚が戻る。

 アイナは愛菜で、歩の大切な妹。
 たとえそれが未来から来たとしても、歩にとってかけがえのない肉親だ。

 そう思うと、怖いのに足の震えが収まる。
 泣きたくなるのに涙が止まる。


「あゆみさん?」

 ベータは何となく歩の様子が変わった事に気付く。


「俺は、姿は女の子に成っちゃったけど、心まで女の子にはなれない。アイナを助けに行く!」


 そう言って歩は職員室へと駆け出す。

「あゆみさんっ!!」

 ベータも慌ててそれを追いかけるが、歩の走る速度が思いの外早い。
 まるで何かに吹っ切れたかのように歩は走る。
 
 歩は職員室に辿り着くと、勢いよく扉を開く。
 そして職員室の中を見まわす。
 そこには壁際に追いやられた先生方とそれを囲むようにタヌキ男と狐男がいた。
 更にその奥にはイカ男のような化け物に捕らえられた気絶しているらしいアイナがいた。


「アイナっ!!」


 すぐにでもアイナのもとへ行こうとする歩だったが、目の前に何かが立ち塞がる。


「ふふふ、主様よ、ようやっとこちらの世界でも体を手に入れたぞえ? これで主様が男に戻らば全ては我らの思うままよ」

 そう言ってそれはこちらを見る。
 が、それは石膏で出来た人形のように不気味だった。


「お、お前は……」

「くくく、古き石造りの依り代がここにまだあったのが幸いしたわ。当時は言葉のみ伝えるにとどまるも、主様と精神世界で交わりこちらへ来やすくなったわ」

 石膏人形はそう言って笑っているようだ。
 顔の表面がぼろぼろと崩れながらもそれは笑う。

「古き石造りの依り代って…… あっ! あの出土した石像か!? やっぱりあれはお前だったのか!?」 

 歩がそう言うと石膏人形は嬉しそうに両の手を広げ言う。

「我はザナ。主様、いやナギ様よ。我と一つになろうではないか。この女がナギ様を男の子に戻せば我らは一つになれる。新たな世界の王となれるのじゃ! ふははははははっ!!」

 その石膏人形はそう言ってまた笑い声をあげる。
 歩は首を振ってそれに応える。

「冗談じゃない、俺はお前となんか一緒になれるか! それに俺には『あゆむ』って立派な名前がある。ナギだかサギだか知らねーが、そんな名で俺を呼ぶんじゃない!!」

 歩はそう言って石膏人形であるザナに指を突き付けそう言う。
 しかし、ザナはぎしぎしと体を動かしながら歩に近づいてくる。


「お前様は間違いなくナギ様じゃ。遠い昔、我と契りをかわした片割れ。我を置いてこちらの世界に来てしまった愛おしいお方。そしてこちらの世界で何度も輪廻転生してその都度我を呼んでくれた愛おしいお人よ……」


 ザナはそう言いながら両の手を広げ、歩を抱きしめようとする。



「あゆみさん、頭を下げて!!」


 しかし、ここでベータの叫び声がして歩は反射的にしゃがんだ。


 ばんッ!!
 ばんばんばんっ!!


「ぶぐっ!?」
 
 石膏人形のその顔に銃弾が撃ち込まれる。
 弾が当たったその顔はぼろぼろに打ち砕かれ、そして首から上が完全にバラバラになって崩れる。


「あゆみさん、こっちへ!!」

 ベータはそう言って職員室の中にいた他のタヌキ男や狐男、イカ男に対しても弾を打ち込む。


 ばんっ!
 ばんばんばんっ!!


 打ち込まれた弾はタヌキ男の眉間を貫き、タヌキ男はその場で倒れて動かなくなる。
 しかし狐男やアイナを捕らえているイカ男はその弾を受けるも致命傷にはならなかった。
 そして狐男は爪を立てベータに襲いかかろうとした。


「くっ!」


「ベータ、あゆみさんを連れて下がりなさい!!」


 と、タヌキ男が倒れたおかげでアルファはすぐに変身をして銃を構えベータの援護に入る。
 狐男はベータに襲いかかろうとするその横からアルファの弾丸を受け、その場に倒れる。


「このっ!」


 ばんばんばんっ!


 アルファのお陰で目の前に倒れた狐男の頭にベータはトドメの弾を撃ちこむ。
 そして歩を引っ張りこの場から立ち去ろうとすると、歩はそれを拒否してアイナの所へ行こうとする。

 が、そのアイナの前に頭の無くなった石膏人形がいつの間にかいた。
 そして、石膏人形は片手をアイナの顔につけるとアイナが一瞬光って雰囲気が変わる。

 ゆっくりと目を開けるアイナ。


「ふぅ~、やはり生身の身体は良いモノじゃ。女としての喜びを感じるわ」




 そう言ってアイナはその瞳に赤い光を灯すのだった。 

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