魔王様の小姓

さいとう みさき

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第四章:魔王様大好き

第十七話:魔王様と戦争

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 今ウルグスアイ王国の王城で一人の青年が王の謁見の間で片膝をついていた。
 彼の後ろには、彼の仲間となる数名の者も控えている。


「勇者ロラゼムよ、ゆくのか?」

「はい、王よ。南の魔王は今次兵を引き、再攻をしてくる様子は有りません。しかし東の魔王はこうしている今もドリガー王国の民を捕らえ、苦しめています。私は東の魔王を倒す為にドリガー王国へ向かいます」


 そう言って勇者ロラゼムはもう一度ウルグスアイ王に頭を下げて立ち上がり、この謁見の間を後にするのだった。



 * * * * *


「戦争になるの?」

「ああ、魔王軍はドリガー王国に対して牽制をかける事になったらしい。なんでも勇者をおびき出す為にな」

 
 厨房でユーリィはローゼフからその事を聞いて洗い物をしていた手を止める。
 そして下を向いてぼそぼそ言う。

「なんでそんなことするんだよ…… 僕の村だって魔王の傘下になってもうこれ以上抵抗だって何だってしないのに……」

「まぁ、魔王様にとっちゃ勇者は親の仇だし、そんなのがうろついていちゃ落ち着きもしないわな」

「そもそも、魔族って親とかいるの?」

 ユーリィのその言葉にローゼフは思わず彼を見る。
 そしてポリポリと自分の頬を指でかきながらう。

「まぁ、親って言えば親になるのかな? 魔王様は他の魔族と違い、先王の魔力を引き継いでお生まれになる。俺らは魔力だまりが変異して発生するが、魔王様だけは違う。それに今の魔王様は北の魔王の先代との子供でもあるしな」

「はぁ? 北の魔王って、北の魔王の先代も男でしょ?」

 ユーリィは完全に洗い物の手を止めてローゼフを見る。

「ん? そうか知らないのか。南の魔王がやたらとうちの魔王様にアプローチをかけるのは、魔王同士で魔力を出し合って新たな魔王を生み出すと強力な魔王に成るんだ。だから今の魔王の中でうちの魔王様が一番力が強い。それに、俺たち魔族は基本オス型がほとんどだが、オス同士で魔力を出し合えば子供を作ることだってできるんだぜ?」

 ローゼフのその説明に、ユーリィは唖然とする。
 男同士で子供が作れる!
 観点に少々ずれはあるものの、ユーリィはその事実に驚愕する。

「じゃ、じゃぁ例えばカイトと魔王が子供作るのって……」

「ん? まぁ、出来なくはないよな」

 何の気なしにそう答えるローゼフにユーリィは更に愕然とするのだった。


 ◇ ◇ ◇


「魔王様、勇者がドリガー王国へ入ったとの情報があります」


 今玉座の前で片膝をついて四天王が一人、智のスィーズはそう魔王に報告をする。
 それを玉座に片肘をついて目をつぶっていた魔王は、うっすらと目を見開き口元に笑みを浮かべる。

「来たか。よし、ドリガー王国の国境まで進軍。対峙しているドリガー王国軍にちょっかいを出して勇者をおびき出せ! 勇者がこちらに向かい始めたらアファネスに連絡。勇者を挟み撃ちにする!」

「御意っ!」

 立ち上がりそう宣言する魔王にスィーズは頭を下げて下がる。


「くっくっくっくっ、勇者よ、首を洗って待っているがいい! あーはっはっはっはっはっはっ!!」

 魔王はそう言って楽しそうに高笑いをするのだった。

 
 * * * * *


「ほら、お前も準備しろ」

「ぼ、僕も戦争に行かなきゃダメなの?」

 カイトに色々戦支度の準備をさせられてユーリィは戸惑いを隠せない。
 確かに魔王の小姓ではあるが、戦闘経験なんて全く無いしそんな覚悟も無い。

「お前は魔王様の食事なんだから当たり前だろう? 私たちは魔王様の身辺のお世話をしながらお前は食事、私はその他の身の回りのお世話をするんだから」

 カイトはそう言いながら鎧を身につける。
 ユーリィにも鎧を準備されてはいたが、まるで足軽のような軽装。
 最低限の防御が出来るかも怪しいものだ。

「僕、こんなのつけた事無いからどうやれば……」

「ああぁっ! もう、お前は魔王様の小姓としての自覚が低すぎる!! ちょっと貸してみろ!」

 そう言ってカイトはユーリィの鎧を奪い取り、ユーリィの身体に鎧を装着してゆく。
 
「鎧くらい自分でつけられるようになっておけよ。全く、世話のかかるやつだ」

「ご、ごめん……」

 文句を言いながらカイトはユーリィの鎧を着け終わる。
 そして最後に頭に鉄の板がついたはちがねつけてやるが、その時にカイトの顔が目の前に来る。

「……悔しいが、お前の魂はいい香りがする」

「へっ?」

「お前の魂は味わった事があるが、確かにあれほどの甘美な味は無かった。万が一魔王様に何か有ったらお前が魔王様をお助けするんだ。お前の魂に含まれる魔力は絶大で、そして魔王様の糧となる」

 そう言ってカイトははちがねを着け終わり、ユーリィから離れる。
 カイトは付けられたはちがねに触れながら言う。

「カイト……」

「ふん、私たち小姓は私たちに出来る事で魔王様のお力になるんだ。お前にしか出来ない事だ。悔しいが、魔王様は私が守る。だから万が一の時はお前が魔王様のお力になれ!」

 カイトはそう言ってその場を離れて行くのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ドリガー王国。
 この国は中央の東にあり、「精霊の森」と呼ばれるエルフたちが住む大森林がある。
 自然に恵まれた国で、東の交易の中心でもあるために隣接する国に近い場所に首都を凌駕するほどの規模の街がある。
 そんな国の北方に東の魔王の領地がある。

 そして隣接するそこには、過去ユーリィの村があった。

「……そのまんまなんだ」

 ユーリィは誰もいなくなったサルバスの村を見ながらそうつぶやく。
 ここは今は魔王の領地。
 もう少し南に行った所に砦がある。

 今その砦にドリガー王国の軍隊がいる。

 魔王軍が再侵攻してきた知らせはドリガー王国を震撼させた。
 しかし、勇者がウルグスアイ王国からドリガー王国へ応援に向かっていると言う情報は、ドリガー王国軍の士気を高めている。
 今この再進行を食い止めれば勇者が来て魔王を打ち取ってくれる。
 誰もがそう、思っていた。

「伝令! 勇者ロラゼム殿がレントの街に到着したそうです。すぐに早馬を用意し、こちらに向かっていただいております!!」

 伝令が一番大きなテントに駆け込み、そう報告をする。
 それを聞いたドリガー王国の重鎮たちは表情を明るくする。

「来たか!」

「噂では南の魔王を退けたそうだぞ!!」

「勇者殿さえ来れば、魔王など!!」

 勇者は魔王の力が著しく強くなると、創世の女神の祝福を受け勇者の紋様を持つ者が現れる。
 そして女神の祝福の力を持って、魔王を打ち破る。

 そう、伝承では語り継がれていた。

「勇者殿が来てくれたか。東の魔王ザルバードは今世魔王の中で一番力を持っていると言われている。その魔王さえ打ち倒せば、他の魔王たちも大人しく成ろう。聞け皆の者、この戦いに我ら人類の未来がかかっておる。勝つぞ、この戦!」


 おおぉ―っ!


 ドリガー王のその言葉にそこに居る者全てが雄たけびを上げるのだった。
  
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