18 / 26
第三章:魔王様の敵
第十六話:魔王様の大満足
しおりを挟む「さあ、お前たちも見て驚くがいい!!」
東の魔王ザルバードはそう言って本日のメインディッシュである牛の丸焼きを持ってこさせる。
流石に魔王たちも牛が丸々一頭焼かれたものが出てきて驚きを隠せいない。
「牛一頭丸々焼いたのかよ!?」
「へぇ~、厨房でちょっとだけ見たけど、こうしてみるとやっぱりすごいね」
「無駄な事だが、流石にこれは常識を超えている」
南の魔王アファネスは今までの料理にも驚かされていたが、流石にこんなものが出て来るとは思ってもいなかったため、かなり驚いていた。
厨房で既に牛の丸焼きを焼いている様を見てはいた西の魔王ロベルバードだが、出来あがったそれにやはり驚きを示す。
そして北の魔王であるエレグルスはその常識を無視したそれに驚きを越えてあきれ果てていた。
「本日のメインディッシュ、牛の丸焼きにございます」
セバスジャンがそう言って一礼をすると、ユーリィとローゼフは早速牛の丸焼きを切り始める。
ユーリィは脇腹の場所をナイフで切り裂き、ほど良い大きさに切り分ける。
そして内蔵の部分に詰めた中身も引き出して、お皿のわきに乗せる。
別に作っておいたソースをかけ、飾りつけのパセリを添えて完成。
それを各魔王の前に出す。
すると、香ばしい香りと共に、肉汁のあふれたうまそうな香りが漂う。
「ふむ、流石に切り分けてきたか。しかし牛を丸々焼いたわりには中にまで火が通っている様だが?」
「へへへ、お前らが来る数日前からこいつは調理が始まっているんだぜ?」
エレグルスが皿に出された肉の状態を見ながらそう言うと、ザルバードはまるで自分がやったかのように自慢する。
それをユーリィは苦笑しながら、味の濃いめのワインを準備する。
ワインを各魔王に注いで、いよいよメインディッシュを口に運ぶ魔王たち。
そしてそれを口に含んだ瞬間、全ての魔王たちが目を見開く。
「これは!」
「う、うまいっ!」
「驚いたね、こんなに美味しいだなんて」
「うめ―っ!! お前らが来るまで手を出さずに我慢した甲斐があったぜ!」
切り分けて口に入れたその肉は、しっとりと柔らかくとてもジューシーだった。
外の皮はパリパリだが、そのパリパリの皮が内部の肉汁を包み込み、じっくりと焼くことにより旨味と油をたっぷりと保持している。
だからと言って、余分な脂は抜け出ているので油っこすぎると言う事は無い。
そして、じっくりと香草の効いたオイルを塗りながら焼いた事により、香草のほのかな味わいと香りも相まって肉本来の味を引き立たせている。
エレグルスはソースのかかったところも口にする。
「何と!」
それは赤ワインと出てきた肉汁をいろいろな野菜と一緒に煮込んで作った特製のデミグラソースだった。
肉単体でも勿論美味いが、じっくりと煮込んだデミグラソースがかかる事により、その複雑な旨味が肉自体の旨味をさらに引き出す。
「なんだよなんだよこれ! 反則じゃないか!!」
アファネスもそう言ってそれらを口に運ぶ。
と、ロベルバードは隣に置かれている物を口に運ぶ。
「んむっ! これは凄い! 牛の油を吸った野菜やパン、そして干しブドウか! 全体的にはしょっぱい味付けだが、干しブドウの甘みがアクセントとなってとてもうまいね」
内臓の部分に詰め込まれていたあんだった。
それはじっくりと熱をかける事により、牛の内部で牛の油を吸い、特別な旨味を出す。
そして干しブドウの甘みが非常に良いアクセントとなる。
ザルバードは赤ワインを口にする。
「ごくごく、ぷはぁーっ! おいユーリィおかわりだ!!」
濃い目の赤ワインは、肉のそれを流すかのように口の中に程よい渋みと酸味を残す。
しかしそれがまた次の肉を欲する。
ユーリィは言われた通り、苦笑しながらまた牛の丸焼きを切り分け始めるのだった。
* * *
「正直に言おう、見事だった」
「うん、そうだね。人族の食事がこうも美味しいとはね、驚きだったよ」
「くっそぅ~。僕の領地でもここまで美味しい物はない。ザルバード一体どう言う事だよ?」
食事を終え、最後のアップルパイのデザートを食べ終わってから各魔王はザルバードに対してそう言う。
ザルバードは満足そうに、最後のデザートであるアップルパイと紅茶を飲み終わり、クイクイっと指でユーリィを呼びつける。
「はっはっはっはっはっ! こいつだよ、俺様の小姓になったユーリィのお陰だ! こいつの作る料理は最高なんだぜ!!」
魔王の隣にまで呼び寄せられたユーリィはそう言われ、ぺこりとお辞儀をする。
正直魔族に対してはいまだ思う所はある。
でも今は自分の作った料理を「美味しい」と言ってくれた魔王たちに、料理人としてちゃんと挨拶をするべきだと思った。
「ふぅ~ん、厨房で見た時から不思議に思っていたんだけど、君がザルバードを変えたんだ」
西の魔王、ロベルバードはユーリィを見ながら面白そうに言う。
それに北の魔王エレグルスも南の魔王アファネスもユーリィにじっと視線を注ぐ。
「へへへへ、すげーだろ? しかしこうなって来ると余計に腹が減って来る。ユーリィ!」
「え、あ、ちょっと魔王! みんなの前でっ、いやぁ、んむぅっ!!」
ザルバードはそう言いながらユーリィの細い腰を引き寄せ顎に指をかけて上を向かせて唇を奪う。
ユーリィは他の魔王の手前、焦るも既にザルバードに引き寄せられ、いつものように唇を奪われるが、その表情は決して言葉どうりでは無かった。
頬を染め、目を閉じザルバードに唇を奪われる。
もう何度目か分からないそれに、絡み合う舌。
ザルバードの唾液は甘く、ユーリィはそれを欲してしまう。
ちゃばちゅば♡
ぢゅちゅーっ♡
二人の重なる唇からする音に、他の魔王たちは驚きを示す。
そして、離れる二人の唇の間には、唾液の橋が一瞬で来てから消える。
「驚いたな、ザルバードに魂をそれだけ吸われているにもかかわらず死なないとは」
「へぇ、なんでその少年がザルバードの手元に置かれているかが分かったよ」
「くぅ、なんなんだよそいつ! 僕のザルバードの餌の癖に!!」
はぁはぁと赤い顔をしながらザルバードに寄りかかり、息を荒げるユーリィ。
口元を手の甲で拭い、ザルバードは高笑いをする。
「はーっはっはっはっはっはっはっ! 腹いっぱいになったぜ!! こいつは俺様の小姓だ、すっげーだろ!!」
全ての魔王が驚く中、東の魔王であるザルバードは心底ご満悦になるのだった。
30
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
転生したので異世界でショタコンライフを堪能します
のりたまご飯
BL
30歳ショタコンだった俺は、駅のホームで気を失い、そのまま電車に撥ねられあっけなく死んだ。
けど、目が覚めるとそこは知らない天井...、どこかで見たことのある転生系アニメのようなシチュエーション。
どうやら俺は転生してしまったようだ。
元の世界で極度のショタコンだった俺は、ショタとして異世界で新たな人生を歩む!!!
ショタ最高!ショタは世界を救う!!!
ショタコンによるショタコンのためのBLコメディ小説であーる!!!
俺をハーレムに組み込むな!!!!〜モテモテハーレムの勇者様が平凡ゴリラの俺に惚れているとか冗談だろ?〜
嶋紀之/サークル「黒薔薇。」
BL
無自覚モテモテ勇者×平凡地味顔ゴリラ系男子の、コメディー要素強めなラブコメBLのつもり。
勇者ユウリと共に旅する仲間の一人である青年、アレクには悩みがあった。それは自分を除くパーティーメンバーが勇者にベタ惚れかつ、鈍感な勇者がさっぱりそれに気づいていないことだ。イケメン勇者が女の子にチヤホヤされているさまは、相手がイケメンすぎて嫉妬の対象でこそないものの、モテない男子にとっては目に毒なのである。
しかしある日、アレクはユウリに二人きりで呼び出され、告白されてしまい……!?
たまには健全な全年齢向けBLを書いてみたくてできた話です。一応、付き合い出す前の両片思いカップルコメディー仕立て……のつもり。他の仲間たちが勇者に言い寄る描写があります。
初めての友達は神様でした!~神様はなんでもありのチートです~
荷居人(にいと)
BL
親は俺が生まれてすぐ他界し、親戚にはたらい回しされ、どこの学校に行っても孤立し、ひどいといじめにあう毎日。
会話なんてろくにしたことがない俺はコミュ障で、周囲を見ては友達がほしいとそう思った。
友達がいれば世界は変わるのではないだろうか、時に助け合い、共通の会話を楽しみ、悩みを相談し、何かあれば慰め合うなど、きっと心強いに違いない。
親戚の家では携帯どころか、パソコンはあってもいんたーねっとすら使わせてもらえないのでネット友達もできない。
だからもしクラスメイトから盗み聞きしていたなんでも願いが叶うならどうする?と言う話題に、友達がほしいなと俺なら答える。
しかしその日、盗み聞きをした罰だろうか、赤信号を走ってきたトラックに引かれ、俺は死んだ。
まさか、死んだことでぼっち人生がなくなるとは思ってもいなかった。
「あー、僕神様ね。質問は聞かない。間違えて君殺しちゃったんだよね。悪いとは思わないけど?神の失敗はお詫びする決まりだから、あの世界で生き返る以外なら1つなんでも叶えてあげる。」
「と、友達になってください!」
「は?」
思わず叫んだ願い事。もし叶うなら死んでよかったとすら思う願い事。だって初めて友達ができるかもしれないんだよ?
友達になれるなら神様にだってお願いするさ!
進めば進むほどBL染みてきたのでファンタジーからBL変更。腐脳はどうしてもBL気味になる様子。でもソフトBLなので、エロを求める方はお引き取りを。
とりあえず完結。別作品にて転生後話公開中!元神様はスライム転生!?~世界に一匹だけの最強のスライムに俺は召喚された~をよろしくお願いします。
魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺
ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。
その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。
呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!?
果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……!
男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?)
~~~~
主人公総攻めのBLです。
一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。
※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる