15 / 26
第三章:魔王様の敵
第十三話:魔王様と西の魔王様
しおりを挟むユーリィは厨房でそれを見てにっこりとする。
「上手く行ってるね!」
「ユーリィか…… お前、これもの凄く大変だぞ?」
ローゼフはユーリィを見てそう恨めしそうに言う。
それもそのはず、この二日間四天王の数人を巻き込んで牛の丸焼きを焼いていたのだから。
牛一頭丸々焼くのはとても手間がかかる。
豚の丸焼きとはわけが違い、中心部まで火を通そうとすると表面が黒焦げの炭になる。
熱を内部まで伝える為には火加減を注意しながらじっくりと時間をかけて焼いてゆくしか方法がない。
おかげで表面は奇麗にきつね色になっていて、牛本来の姿もしっかりと残っている。
「しかし、魔王様の為とあらば致し方あるまい」
今、火の番をしているのは四天王が一人、武のガゼルその人だ。
魔力を調節しながら炎を操り、焦がさない様に丁寧に牛を焼いている。
時たました滴り落ちる脂が火に焦がされ、じゅっと音を立てていい香りを漂わせる。
「ふう~ん、良い匂いがするから何かと思ったら、牛を丸々一匹焼いていたんだね? いやはや凄い凄い」
いきなり聞こえてきたその声に驚き、後ろを見るとオレンジ色を基調とした鎧に身を包んだ魔族が立っていた。
見慣れないその姿にユーリィは首をかしげるも、ローゼフやガゼルは驚きその場で膝をつく。
「西の魔王、ロベルバード=レナ・ド・ウェスタ―・ロマネテ様、お着きになられておられたのですね」
武のガゼルがそう言うと、ロベルバードはにっこり笑って言う。
「いいよそんなにかしこまらなくても。それより料理の最中だったんだろ? 面白いよね、牛を丸々焼くだなんんて!」
何となく軽い感じがするも、これが西の魔王だという。
ユーリィは改めて西の魔王を見る。
見た目は魔王と同じくらいの年に見える。
頭以外を鎧で全部包んでいたが、その顔はかなりフレンドリーであった。
どちらかと言えば優男。
女性ならすぐになびきそうなイケメンではあるが、やたらと軽そうな印象を受ける。
しかし片膝をついたままのガゼルやローゼフはピクリとも動かず、額に脂汗を溜めている。
「ん~、君は人間だね? なんで君がここに居るの??」
「あ、ぼ、僕は魔王の小姓で、魔王に言われて料理を作って……」
「ふぅ~ん、でも料理よりも君の方がずっと美味しそうなんだけど?」
そう言ってロベルバードはずいっとユーリィに顔を近づける。
「恐れながら、ロベルバード様。こ奴は我が主の小姓ゆえ、その辺でおやめいただきたい」
「ん? 君は確かザルバードの四天王の……」
「武のガゼルにございます」
ガゼルのその言葉にロベルバードは、すっとユーリィから離れる。
そしてにっこりと笑って手の平をひらひらさせながら去って行った。
「ごめんね、邪魔しちゃったね。それじゃぁ人間の少年、また後でね」
ロベルバードが去って、ガゼルもローゼフも大きく息を吐く。
「まったく、いきなり西の魔王が現れるとは思ってもみなんだ」
「ひぇええぇぇ、相変わらずおっかねぇ人だよな」
ガゼルとローゼフのその言葉を聞いてユーリィは驚く。
まるで西の魔王を恐れているかのようなそぶりに。
「二人とも、あの西の魔王ってそんなに凄い人なの?」
「魔力でいえば我が主を超えるやもしれんからな」
「いやはや、七十年前と全く変わらず、もの凄い魔力だよな」
ガゼルはそう言って額の汗をぬぐう。
ローゼフはいなくなったその先を見ながら身震いをしている。
しかしユーリィには全くそんな感じには思えなかった。
「そんなにヤバい人なのかな? 今までの魔王の中で一番大人しそうなのに」
ユーリィはそう言いながら最後の仕上げの指示をするのだった。
* * * * *
「お前ら、よく集まってくれた」
魔王は円卓のテーブルに着きながら集まった他の魔王たちにそう言う。
「ふむ、やっと全員そろったか」
「久しぶりだね、みんな」
「いやはや、ザルバードが呼んでくれるとはね」
魔王たちは各々の椅子に座りながらそんな事を言っている。
そして東の魔王であるザルバードは全員が着席したのを見計らってにんまりとして話を始めるのだった。
「さあ、グランドクロスの円卓の会議を始めるぜ!」
22
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
転生したので異世界でショタコンライフを堪能します
のりたまご飯
BL
30歳ショタコンだった俺は、駅のホームで気を失い、そのまま電車に撥ねられあっけなく死んだ。
けど、目が覚めるとそこは知らない天井...、どこかで見たことのある転生系アニメのようなシチュエーション。
どうやら俺は転生してしまったようだ。
元の世界で極度のショタコンだった俺は、ショタとして異世界で新たな人生を歩む!!!
ショタ最高!ショタは世界を救う!!!
ショタコンによるショタコンのためのBLコメディ小説であーる!!!
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したから継母退治するぜ!
ミクリ21 (新)
BL
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したダンテ(8)。
弟のセディ(6)と生存のために、正体が悪い魔女の継母退治をする。
後にBLに発展します。
目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
異世界で新型ウイルスが流行したために、少年達に子作りしてもらうことになりました
あさきりゆうた
BL
異世界転移者が新型ウイルスを持ち込んでしまい、異世界は大変なことになった!
女性の大半は死に絶え、成人男性は身体能力と生殖機能をなくし、そして少年だけがなぜかずっと子供の姿のままとなり、赤ちゃんを産める体となってしまった!?
そんな世界に腐女子の富場 詩代が転移することになり、少年達の子作りの活性のため、少年を探し当て、カップリングを成立させ、時には自作のショタの薄い本で性教育をして、子孫繁栄のために頑張っていく物語である!
22.02.03
元々似たような小説を投稿しましたが、設定が面白くなりそうで、性癖が個人的に刺さるという理由で大幅にリニュアールして投稿し直しました。とりあえず二話投稿。三話目でR18行く予定です。
22.02.06
新しいお話を投稿しました。
初めてショタ同士でエッチする回を書いたが、気がつけば性癖のチョモランマ盛り回となりました。
冤罪で投獄された異世界で、脱獄からスローライフを手に入れろ!
風早 るう
BL
ある日突然異世界へ転移した25歳の青年学人(マナト)は、無実の罪で投獄されてしまう。
物騒な囚人達に囲まれた監獄生活は、平和な日本でサラリーマンをしていたマナトにとって当然過酷だった。
異世界転移したとはいえ、何の魔力もなく、標準的な日本人男性の体格しかないマナトは、囚人達から揶揄われ、性的な嫌がらせまで受ける始末。
失意のどん底に落ちた時、新しい囚人がやって来る。
その飛び抜けて綺麗な顔をした青年、グレイを見た他の囚人達は色めき立ち、彼をモノにしようとちょっかいをかけにいくが、彼はとんでもなく強かった。
とある罪で投獄されたが、仲間思いで弱い者を守ろうとするグレイに助けられ、マナトは急速に彼に惹かれていく。
しかし監獄の外では魔王が復活してしまい、マナトに隠された神秘の力が必要に…。
脱獄から魔王討伐し、異世界でスローライフを目指すお話です。
*異世界もの初挑戦で、かなりのご都合展開です。
*性描写はライトです。
初めての友達は神様でした!~神様はなんでもありのチートです~
荷居人(にいと)
BL
親は俺が生まれてすぐ他界し、親戚にはたらい回しされ、どこの学校に行っても孤立し、ひどいといじめにあう毎日。
会話なんてろくにしたことがない俺はコミュ障で、周囲を見ては友達がほしいとそう思った。
友達がいれば世界は変わるのではないだろうか、時に助け合い、共通の会話を楽しみ、悩みを相談し、何かあれば慰め合うなど、きっと心強いに違いない。
親戚の家では携帯どころか、パソコンはあってもいんたーねっとすら使わせてもらえないのでネット友達もできない。
だからもしクラスメイトから盗み聞きしていたなんでも願いが叶うならどうする?と言う話題に、友達がほしいなと俺なら答える。
しかしその日、盗み聞きをした罰だろうか、赤信号を走ってきたトラックに引かれ、俺は死んだ。
まさか、死んだことでぼっち人生がなくなるとは思ってもいなかった。
「あー、僕神様ね。質問は聞かない。間違えて君殺しちゃったんだよね。悪いとは思わないけど?神の失敗はお詫びする決まりだから、あの世界で生き返る以外なら1つなんでも叶えてあげる。」
「と、友達になってください!」
「は?」
思わず叫んだ願い事。もし叶うなら死んでよかったとすら思う願い事。だって初めて友達ができるかもしれないんだよ?
友達になれるなら神様にだってお願いするさ!
進めば進むほどBL染みてきたのでファンタジーからBL変更。腐脳はどうしてもBL気味になる様子。でもソフトBLなので、エロを求める方はお引き取りを。
とりあえず完結。別作品にて転生後話公開中!元神様はスライム転生!?~世界に一匹だけの最強のスライムに俺は召喚された~をよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる