魔王様の小姓

さいとう みさき

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第三章:魔王様の敵

第十一話:魔王様と北の魔王様

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 この世界には魔王が全部で四人いた。
  
 北の魔王、エレグルス=レナ・ド・ザビンチ・シュクリナーゼ。
 北方を拠点とする魔王で、人間の国、エアグル王国の更に北にいる。

 極寒の氷が閉ざす大地にいる魔王で、別名「白銀の魔王」とも呼ばれている。
 白を基調とした白い長髪で美しい顔立ち、魔王としてはやや非力に見えるほどスリムな体形をしている。
 しかし魔王と呼ばれるだけあって、グランドクロスの中でも一番の冷血漢であるとも言われている。


「久しいな、ザルバード」

「お前衣が一番早く来るとは意外だな、エレグルス」

 魔王の間の王座に座る魔王の前に真っ白なコートを身にまとい、すらっとした白髪の魔族がいた。
 白いヤギのような角をたたえて、細身の彼は見た目には強そうには言えないが、彼を包むただならぬ雰囲気がそうでないと知らせている。

「私たちを呼ぶとは、一体何が目的だ?」

「まあそう焦るなよ。他の奴がまだだ。全員集まってから話しをしようじゃないか?」

 ニヤリと笑う魔王に、しかし「白銀の魔王」であるエレグルスは軽いため息をついてから言う。


「七十年前のように下らぬ理由で集めたなら貴様の城を全部氷で閉ざすからな」

「はっ、そんな事はこの俺様がさせねーよ。まあ、俺たち魔族にとって重要な話だ」


 双方そう言ってにらみ合ったが、ふとそれをやめる。
 そしてエレグルスは魔王の玉座の後ろの控える二人の少年に目をやる。


「カイト、こんな気まぐれな奴のもとに仕えず、私のもとに来る気はないか?」

 エレグルスは魔王を差し置いていきなりそう言う。
 しかしカイトは軽く頭を下げて言う。

「お言葉は嬉しいのですが、私は既に我が君にこの身も魂も捧げております。謹んで辞退させていただきます」

「……そうか。貴様ほど優秀な者であればすぐにでも我が右腕になろうというモノを」

「はっ! おめーのような冷血漢じゃカイトはなびかねーよ」

 上機嫌にそう言う魔王。
 しかしそんな魔王を無視してエレグルスはもう一人の少年に目を向ける。


「ザルバード。貴様は何時から常に手元に食事を置くようになったのだ?」

「ん? ユーリィか? まあ、俺様の食料でもあるがこいつはスゲーからな、今は二人目の小姓をさせている」

 それを聞いてエレグルスの方眉がぴくんと動く。

 
「人間風情を小姓にしただと?」

 
「そうだ」

 そう言って魔王とエレグルスはまたにらみ合うが、エレグルスは興味を失たように目を反らす。

「貴様の気まぐれは昔からだ。私は他の魔王たちが来るまで休ませてもらうぞ」

「ああ、そうするが良いさ。セバスジャン、こいつを部屋に案内してやれ」

 魔王がそう言うといつの間にかセバスジャンが現れ、北の魔王エレグルスを案内して魔王の間を去った。


 ユーリィは初めて見る魔王以外の別の魔王を見て震えていた。

 最近は自分の魔王に対して慣れてしまったせいか、恐怖心が全く無くなっていた。
 しかし、本来魔王は人間からすれば恐怖の対象。
 「白銀の魔王」と呼ばれているエレグルスを目の当たりにしてユーリィは改めてその圧力を感じていたのだった。


「さてと、ユーリィあいつらを出迎える宴の準備はどうだ?」

「え、あ、ええと、四天王が手伝ってくれているから大丈夫だよ」

「そうか、くっくっくっくっくっ! あいつらユーリィが作った料理見て驚くぞ。楽しみだ」

 魔王はまるで子供のように楽しそうにするのだった。


 * * *


「人間風情を小姓にするとは…… ザルバードの酔狂にもほどがある」


 案内された部屋でエレグルスは独り言のようにそう言う。
 それは案内したセバスジャンの耳にも入っていたが、セバスジャンはあえてそれを無視した。


「それでは私はこれで失礼します。なにかありましたら給仕にご用命ください」

「まて。ザルバードはなぜ人間共を城で働かせている?」

 立ち去ろうとするセバスジャンをエレグルスは窓の外の様子を見ながら引き留める。
 窓の外の城内には人間たちが中庭で何やら仕事をしている様だった。
 通常人間たちは城の中では捕虜として、食料として捕らえることはあっても、彼らを使って労働をさせることはほぼない。
 しかしこの城では人間たちに交じって魔族も何かしている。


「我が主様のご配慮にございます」


「配慮?」

「はい、小姓であるユーリィが捕虜たちの健康管理と自身の食料を自身で育てさせることを提案しましてな。我が魔王様はそれをお認めになられましたので」
  
 エレグルスはそこまで聞いてギラリとセバスジャンを睨む。


「酔狂にもほどがあるというモノだ」


「我が主様のお考えは魔族の安定にございます。今次グランドクロスの皆様を招集されたのもそのお考えからです」

「ふん、ザルバードの酔狂は狂気に変わったか?」

「我が主様のお考えは深く、そして慈愛に満ちております。その深淵のお考えは私のようなモノには考えつかぬほどにございまして」

 セバスジャンはそう言って頭を下げて引き下がる。
 エレグルスはその閉じられた扉をしばしにらみながらつぶやく。


「所詮人間など、魔族を裏切るのだ…… 我が愛したユリウスのように……」



 エレグルスはそう言って再び窓の外を見るのだった。 

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