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第一章:魔王様の蹂躙
第五話:魔王様の戯れ
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ユーリーはニヤニヤ顔の魔王を思わず見上げた。
「お前が人間の食い物で美味い物ってのを作ってみろって言ってんだよ。この俺様が直々に、貴様の為に魔王軍で最高の料理人に直々に指示してやって作らせた喰いモンより美味いんだろ?」
魔王はそう言って玉座にふんぞりかえる。
そしてセバスジャンを呼び寄せいう。
「こいつに人間の料理とやらを作らせろ。材料も道具もこいつが欲しがるものを与えてやれ」
「御意」
執事のセバスジャンはそう言って一礼して、ユーリィの鎖を魔王の玉座の横から外した。
そしてユーリィを引っ張って魔王城の厨房へと連れて行くのだった。
* * *
魔王城の厨房はそれはそれは酷い場所だった。
おいてあるのは魔獣の処理された肉や、人族では毒となる様な植物ばかりであった。
「ここに在るものは自由に使ってもかまわない。ローゼフ、魔王様の勅命だ。この者に人間の料理を作らせよ」
セバスジャンはそう言って奥で肉の塊に包丁を叩きつけているエプロンと帽子をかぶった魔族に話しかける。
彼は振り向くと、ユーリィを見てニカっと笑う。
立派な角に茶色の短めの髪に魔族特有の赤黒い瞳を持ち、サッカー選手のようなさわやかさが漂う、なかなかの美形だった。
「お前さんが魔王様のお気に入りか! どうだった俺の作った人間の料理は? 魔王様直々に教えてもらったレシピだ、さぞかし美味かっただろう!?」
「あ、あの、あれ作ったのなたですか…… すみません、もの凄くまずかったです」
「な”っ!?」
ローゼフと呼ばれたその料理人は、あまりのショックにその場に膝を落す。
「そ、そんな! 俺の作った料理がまずいだと? しかも魔王様に直々に教わったレシピでだぞ!?」
相当ショックだったのだろう、わなわなと震えていたが、がばっと起き上がりユーリィの両肩を掴んで激しくゆすって来た。
「あれの何処がダメだったんだ!? 腐った肉のような味付け、微妙な酸味と口の中に残る腐敗臭、そして隠し味の効いた苦みとどれもこれも魔王様のおっしゃったとうりだったんだぞ!?」
「いや、腐ったミネストローフに死肉詰めたような最悪の味でした。あれ、人間の世界では残飯以下ですよ? 犬だって食わない、鼠の餌になるかどうかってレベルですよ?」
「な”っ!!!?」
ローゼフは背景を真っ暗にして稲妻を落し、衝撃を受ける。
しっかり自分でも味見して、完璧だったはずなのに!!
「もしかして、魔族の人ってまともな人間の食べ物食べた事無いんじゃないですか?」
「そ、それは確かに俺らは人間の食い物を喰う必要が無いからな…… たまに戯れ事で人間の食い物を喰ってみる事はあるが……」
「だとすると、魔王もちゃんとした人間の食べ物食べた事無いんじゃ……」
戯れ事で人間の食事を食べてみる事はあると言った。
では一体どんな状態で?
もしかしたら、滅ぼした村とか何かとかで残っていた食べ物が時間が経って腐った状態で食べていたんじゃ……
魔族と人族では根本的に違う。
魔族にとって人族はあくまで食糧であり、それ以上でもそれ以下でもない。
だから戯れに人族の食べ物を食べてみても、まっとうなものではなかったのかもしれない。
「ま、いいや。僕の食べ物もあるから厨房借りますよ。とは言え、これって何の肉です?」
「それか? それはオークの肉だ。城にいるケルベロスたちの餌を作っていた」
「そうすると食材からですね。こっちのトリカブトなんか人間が食べたら即死ですからね」
そう言ってユーリィは必要な食材と道具を要求する。
セバスジャンは一つ一つ確認を取りながら、それを魔族たちを呼んで持ってこさせる。
少々食材を確保するのに時間がかかるので、ユーリィはその簡易厨房の清掃を始める。
「なんだよ、なんで片付けたりするんだよ?」
「料理ってのはその環境だって重要なんです。汚い所では汚い料理にしかならない、雑菌や汚れ、危険な食材が散乱した所で作った料理はまっとうな形にならない。これ、人間族の厨房では当たり前ですよ?」
てきぱきと片づけをするユーリィにローゼフはややも押される。
そして少々弱々しく聞く。
「そういう、モノなのか?」
「そう言うモノです! あ、動物の餌はここでは作らないでくださいよ? 混ざっちゃったら最悪ですから」
言いながらユーリィはオークの肉を大きなたるに入れてどかす。
そして水を掛けながらたわしでシャカシャカ洗い始める。
「ふむ、確かに小奇麗になる事はやぶさかではないですな。ローゼフも少しは人間を見習いなさい。この魔王城では魔王様のお目にかかる場所が汚れているのは失礼になたりますからな」
「なっ! セバスジャンまで!! くぅ~、俺の厨房なのにぃ……」
ローゼフはぶつぶつ言いながらも、ユーリィと共に厨房の掃除をするのであった。
* * *
「さてと、まずは下準備です!」
ユーリィはそう言いながら掻き集めてもらった食材の下準備をする。
野菜を洗い、皮をむき適度な大きさに切ってゆく。
肉も人族が食べられそうな鳥肉を準備させ、それも一口サイズまで小さく切ってから塩コショウ、ワインビネガーを少々混ぜで揉み込んでおく。
ニンニク、オレガノ、バジルにパセリに唐辛子の種を抜いてから細切れにしてく。
「なんか、めんどくせぇな……」
ユーリィ下準備を見ていてローゼフはそうぼやく。
魔族がつくっ料理と言ったら、豪快なものが多い。
焼く、煮る、生で食べるが基本で、こうした下準備などした事がない。
たまに刺激を欲しがる者に対して、トリカブトとかコカの葉などを混ぜて出す事はあるが、基本魔王城にいる魔族以外の魔獣や配下のに対して提供するのがほとんどである。
ただ、稀に魔王が暇つぶしでそう言った食材を食べに来てはいたが。
ユーリィは味付けしておいた鶏肉をフライパンで焼こうとする。
が、火が無い。
「あの、このコンロ薪が無いんですけど?」
「ああ、俺らは魔法の炎で料理をする。どのくらいの炎が欲しい?」
ユーリィがローゼフにそう言うと、ローゼフは手をコンロに向けて炎を出す。
それは豪快で中華料理などの火の柱が立つほどの。
「ちょ、強すぎですってば!! こんなんじゃすぐに消し炭になっちゃいます!! このくらいの炎でお願いします!!」
そう言ってユーリィは手で炎の高さを見せる。
それを見てローゼフは鼻で笑う。
「まるで蝋燭の火だな。まあいい、はいよ」
そう言って火力を押さえてユーリィの欲しがる火の高さにする。
ユーリィはそれを確認してからフライパンを火にかける。
そしてオリーブオイル、ニンニクを入れて香りを立たせる。
すぐに部屋中にニンニクとオリーブオイルによるイタリアンな香りが漂い始める。
油にニンニクの香りが移ったら、ユーリーは漬けておいた鳥肉の皮の部分を下に鶏肉を焼き始めた。
焦げ付かない様に鳥の皮の部分をきつね色にしてから裏返し、ここでオレガノ、バジル、パセリに唐辛子も入れる。
すると、更に良い匂いが立ち込める。
「な、なんか嗅いだことない匂いだな……」
「ふむ、しかし悪くはない香りですな」
ローゼフもセバスジャンもその香りに驚く。
魔王城では今までなかった香りだからだ。
ユーリィは焼き終わった鶏肉を大きな鍋に入れる。
そしてフライパンに残った残り汁に野菜を入れて軽く炒め始める。
こうして炒めると、煮崩れし難くなるのだ。
軽く焦げ目がついた頃、その野菜も鍋に入れて同じく鳥の骨などを煮込んで取っておいた出汁をその鍋に入れる。
くつくつと煮え始め、あくが出るのを丁寧にお玉で取って煮込む。
その頃にはフライパンで焼いた刺激的な香りと違い、優しい香りが立ち込め始めていた。
ユーリィはあく取りが終わったら、今度はトマトとセロリを細かく切ってその鍋に入れる。
そしてゆっくりとかき混ぜながら煮込んでいく。
煮込む事、三十分ちょっと。
小さなお皿に少しそれを救って味見をして頷く。
「うん、いい感じ。出来ましたよ、トマト風味のポトフです!」
ユーリィのその言葉にローゼフもセバスジャンも顔を見合わせるのだった。
* * * * *
「魔王様、出来上がりました」
セバスジャンはそう言ってカートに持って来たその料理の蓋を開ける。
ふわっと優しい香りが漂うが、魔王は眉間にしわを寄せる。
「何だこれは?」
「はい、あの人間の少年が作った『ポトフ』という食べ物です」
「ポトフ? ああ、人間共がよく喰っているあの汁か。俺様が作らせたのも同じもののはずだったが?」
そう言いながら魔王はそれを見る。
全体的にトマトの赤い色が鮮やかだった。
魔王は人間が流す血を思い出す。
血は魔力を含んでいるので、吸血鬼共が好んで飲んでいた。
魔王も真似をして生き血をワインのように飲んでみたが、魔素が薄すぎてあまり好みでは無かった。
「ふん、まあいい。あいつが作ったこれが俺様が作らせた人間の料理より美味いかどうか試してやろう」
そう言って魔王は皿ごとそれを持ち上げ、その端に口をつけ皿を傾かせる。
スプーンが横にあったが、そんなまどろっこしい事はしない。
が、それが魔王の口の中に流れ込んだ瞬間だった。
「!?」
口の中に広がる優しい味わい。
魔族にもちゃんと味覚はある。
人間の食い物も喰う事は出来る。
そして、その昔は直接人間を喰い、その血肉から魔素を取り込んでいた。
だがこれはなんだ?
この味は生の肉や血の鉄の味とは程遠い。
優しく、刺激など全くないが複雑かつ各々の野菜の味もしっかりとする。
魔王は皿ら口を放し、それをまじまじと見る。
野菜がゴロゴロと入っている。
ローストされた鶏肉も入っている。
色々な食材がこの皿の中にあった。
魔王は思わず置いてあったスプーンに手を伸ばす。
そして皿の中にある具材をすくって口に運ぶ。
ばくっ
ばくばくばくっ!
魔王はその中身を一気に平らげてしまった。
から~ん
「う、うめぇ……」
「ま、魔王様?」
食べ終わった皿にスプーンを置き、カートに戻してから魔王はうめくように言う。
セバスジャンはそんな魔王の行動に驚きつつも、魔王を見るとふるふると小さく震えていた。
「うめぇぞ、これっ! なんだこれ? 今まで喰った事の無い味だぞ!!」
「だから言ったでしょ、ちゃんと料理すれば美味しいんだって」
鎖に繋がれたままのユーリィはそう言って自分の分のポトフを食べる。
それはいつも自分が作ってきた安定した味だった。
「うん、これこれ」
頷きながポトフを食べる。
「おいお前、これもっと食わせろよ!」
「まだまだおかわりはあるからご自由にどうぞ」
「すげーなお前! そういや名前なんていったっけ?」
「……ユーリィ」
ぶすッとしながらユーリィはそれでも自分の名前を言いながら、残りのポトフを食べる。
流石に魔王城へ来てからほとんど食べていなかったのでお腹が空いていたのだ。
「ユーリィか…… 気に入った、ますます気に入った! お前、俺の小姓に成れ!! こんなうまいもん作れて、お前の魂も美味いだなんて、お前は俺様専用の小姓にしてやる!!」
「はぁっ?」
上機嫌な魔王に思わず変な声を出して呆然と見上げるユーリィだった。
「お前が人間の食い物で美味い物ってのを作ってみろって言ってんだよ。この俺様が直々に、貴様の為に魔王軍で最高の料理人に直々に指示してやって作らせた喰いモンより美味いんだろ?」
魔王はそう言って玉座にふんぞりかえる。
そしてセバスジャンを呼び寄せいう。
「こいつに人間の料理とやらを作らせろ。材料も道具もこいつが欲しがるものを与えてやれ」
「御意」
執事のセバスジャンはそう言って一礼して、ユーリィの鎖を魔王の玉座の横から外した。
そしてユーリィを引っ張って魔王城の厨房へと連れて行くのだった。
* * *
魔王城の厨房はそれはそれは酷い場所だった。
おいてあるのは魔獣の処理された肉や、人族では毒となる様な植物ばかりであった。
「ここに在るものは自由に使ってもかまわない。ローゼフ、魔王様の勅命だ。この者に人間の料理を作らせよ」
セバスジャンはそう言って奥で肉の塊に包丁を叩きつけているエプロンと帽子をかぶった魔族に話しかける。
彼は振り向くと、ユーリィを見てニカっと笑う。
立派な角に茶色の短めの髪に魔族特有の赤黒い瞳を持ち、サッカー選手のようなさわやかさが漂う、なかなかの美形だった。
「お前さんが魔王様のお気に入りか! どうだった俺の作った人間の料理は? 魔王様直々に教えてもらったレシピだ、さぞかし美味かっただろう!?」
「あ、あの、あれ作ったのなたですか…… すみません、もの凄くまずかったです」
「な”っ!?」
ローゼフと呼ばれたその料理人は、あまりのショックにその場に膝を落す。
「そ、そんな! 俺の作った料理がまずいだと? しかも魔王様に直々に教わったレシピでだぞ!?」
相当ショックだったのだろう、わなわなと震えていたが、がばっと起き上がりユーリィの両肩を掴んで激しくゆすって来た。
「あれの何処がダメだったんだ!? 腐った肉のような味付け、微妙な酸味と口の中に残る腐敗臭、そして隠し味の効いた苦みとどれもこれも魔王様のおっしゃったとうりだったんだぞ!?」
「いや、腐ったミネストローフに死肉詰めたような最悪の味でした。あれ、人間の世界では残飯以下ですよ? 犬だって食わない、鼠の餌になるかどうかってレベルですよ?」
「な”っ!!!?」
ローゼフは背景を真っ暗にして稲妻を落し、衝撃を受ける。
しっかり自分でも味見して、完璧だったはずなのに!!
「もしかして、魔族の人ってまともな人間の食べ物食べた事無いんじゃないですか?」
「そ、それは確かに俺らは人間の食い物を喰う必要が無いからな…… たまに戯れ事で人間の食い物を喰ってみる事はあるが……」
「だとすると、魔王もちゃんとした人間の食べ物食べた事無いんじゃ……」
戯れ事で人間の食事を食べてみる事はあると言った。
では一体どんな状態で?
もしかしたら、滅ぼした村とか何かとかで残っていた食べ物が時間が経って腐った状態で食べていたんじゃ……
魔族と人族では根本的に違う。
魔族にとって人族はあくまで食糧であり、それ以上でもそれ以下でもない。
だから戯れに人族の食べ物を食べてみても、まっとうなものではなかったのかもしれない。
「ま、いいや。僕の食べ物もあるから厨房借りますよ。とは言え、これって何の肉です?」
「それか? それはオークの肉だ。城にいるケルベロスたちの餌を作っていた」
「そうすると食材からですね。こっちのトリカブトなんか人間が食べたら即死ですからね」
そう言ってユーリィは必要な食材と道具を要求する。
セバスジャンは一つ一つ確認を取りながら、それを魔族たちを呼んで持ってこさせる。
少々食材を確保するのに時間がかかるので、ユーリィはその簡易厨房の清掃を始める。
「なんだよ、なんで片付けたりするんだよ?」
「料理ってのはその環境だって重要なんです。汚い所では汚い料理にしかならない、雑菌や汚れ、危険な食材が散乱した所で作った料理はまっとうな形にならない。これ、人間族の厨房では当たり前ですよ?」
てきぱきと片づけをするユーリィにローゼフはややも押される。
そして少々弱々しく聞く。
「そういう、モノなのか?」
「そう言うモノです! あ、動物の餌はここでは作らないでくださいよ? 混ざっちゃったら最悪ですから」
言いながらユーリィはオークの肉を大きなたるに入れてどかす。
そして水を掛けながらたわしでシャカシャカ洗い始める。
「ふむ、確かに小奇麗になる事はやぶさかではないですな。ローゼフも少しは人間を見習いなさい。この魔王城では魔王様のお目にかかる場所が汚れているのは失礼になたりますからな」
「なっ! セバスジャンまで!! くぅ~、俺の厨房なのにぃ……」
ローゼフはぶつぶつ言いながらも、ユーリィと共に厨房の掃除をするのであった。
* * *
「さてと、まずは下準備です!」
ユーリィはそう言いながら掻き集めてもらった食材の下準備をする。
野菜を洗い、皮をむき適度な大きさに切ってゆく。
肉も人族が食べられそうな鳥肉を準備させ、それも一口サイズまで小さく切ってから塩コショウ、ワインビネガーを少々混ぜで揉み込んでおく。
ニンニク、オレガノ、バジルにパセリに唐辛子の種を抜いてから細切れにしてく。
「なんか、めんどくせぇな……」
ユーリィ下準備を見ていてローゼフはそうぼやく。
魔族がつくっ料理と言ったら、豪快なものが多い。
焼く、煮る、生で食べるが基本で、こうした下準備などした事がない。
たまに刺激を欲しがる者に対して、トリカブトとかコカの葉などを混ぜて出す事はあるが、基本魔王城にいる魔族以外の魔獣や配下のに対して提供するのがほとんどである。
ただ、稀に魔王が暇つぶしでそう言った食材を食べに来てはいたが。
ユーリィは味付けしておいた鶏肉をフライパンで焼こうとする。
が、火が無い。
「あの、このコンロ薪が無いんですけど?」
「ああ、俺らは魔法の炎で料理をする。どのくらいの炎が欲しい?」
ユーリィがローゼフにそう言うと、ローゼフは手をコンロに向けて炎を出す。
それは豪快で中華料理などの火の柱が立つほどの。
「ちょ、強すぎですってば!! こんなんじゃすぐに消し炭になっちゃいます!! このくらいの炎でお願いします!!」
そう言ってユーリィは手で炎の高さを見せる。
それを見てローゼフは鼻で笑う。
「まるで蝋燭の火だな。まあいい、はいよ」
そう言って火力を押さえてユーリィの欲しがる火の高さにする。
ユーリィはそれを確認してからフライパンを火にかける。
そしてオリーブオイル、ニンニクを入れて香りを立たせる。
すぐに部屋中にニンニクとオリーブオイルによるイタリアンな香りが漂い始める。
油にニンニクの香りが移ったら、ユーリーは漬けておいた鳥肉の皮の部分を下に鶏肉を焼き始めた。
焦げ付かない様に鳥の皮の部分をきつね色にしてから裏返し、ここでオレガノ、バジル、パセリに唐辛子も入れる。
すると、更に良い匂いが立ち込める。
「な、なんか嗅いだことない匂いだな……」
「ふむ、しかし悪くはない香りですな」
ローゼフもセバスジャンもその香りに驚く。
魔王城では今までなかった香りだからだ。
ユーリィは焼き終わった鶏肉を大きな鍋に入れる。
そしてフライパンに残った残り汁に野菜を入れて軽く炒め始める。
こうして炒めると、煮崩れし難くなるのだ。
軽く焦げ目がついた頃、その野菜も鍋に入れて同じく鳥の骨などを煮込んで取っておいた出汁をその鍋に入れる。
くつくつと煮え始め、あくが出るのを丁寧にお玉で取って煮込む。
その頃にはフライパンで焼いた刺激的な香りと違い、優しい香りが立ち込め始めていた。
ユーリィはあく取りが終わったら、今度はトマトとセロリを細かく切ってその鍋に入れる。
そしてゆっくりとかき混ぜながら煮込んでいく。
煮込む事、三十分ちょっと。
小さなお皿に少しそれを救って味見をして頷く。
「うん、いい感じ。出来ましたよ、トマト風味のポトフです!」
ユーリィのその言葉にローゼフもセバスジャンも顔を見合わせるのだった。
* * * * *
「魔王様、出来上がりました」
セバスジャンはそう言ってカートに持って来たその料理の蓋を開ける。
ふわっと優しい香りが漂うが、魔王は眉間にしわを寄せる。
「何だこれは?」
「はい、あの人間の少年が作った『ポトフ』という食べ物です」
「ポトフ? ああ、人間共がよく喰っているあの汁か。俺様が作らせたのも同じもののはずだったが?」
そう言いながら魔王はそれを見る。
全体的にトマトの赤い色が鮮やかだった。
魔王は人間が流す血を思い出す。
血は魔力を含んでいるので、吸血鬼共が好んで飲んでいた。
魔王も真似をして生き血をワインのように飲んでみたが、魔素が薄すぎてあまり好みでは無かった。
「ふん、まあいい。あいつが作ったこれが俺様が作らせた人間の料理より美味いかどうか試してやろう」
そう言って魔王は皿ごとそれを持ち上げ、その端に口をつけ皿を傾かせる。
スプーンが横にあったが、そんなまどろっこしい事はしない。
が、それが魔王の口の中に流れ込んだ瞬間だった。
「!?」
口の中に広がる優しい味わい。
魔族にもちゃんと味覚はある。
人間の食い物も喰う事は出来る。
そして、その昔は直接人間を喰い、その血肉から魔素を取り込んでいた。
だがこれはなんだ?
この味は生の肉や血の鉄の味とは程遠い。
優しく、刺激など全くないが複雑かつ各々の野菜の味もしっかりとする。
魔王は皿ら口を放し、それをまじまじと見る。
野菜がゴロゴロと入っている。
ローストされた鶏肉も入っている。
色々な食材がこの皿の中にあった。
魔王は思わず置いてあったスプーンに手を伸ばす。
そして皿の中にある具材をすくって口に運ぶ。
ばくっ
ばくばくばくっ!
魔王はその中身を一気に平らげてしまった。
から~ん
「う、うめぇ……」
「ま、魔王様?」
食べ終わった皿にスプーンを置き、カートに戻してから魔王はうめくように言う。
セバスジャンはそんな魔王の行動に驚きつつも、魔王を見るとふるふると小さく震えていた。
「うめぇぞ、これっ! なんだこれ? 今まで喰った事の無い味だぞ!!」
「だから言ったでしょ、ちゃんと料理すれば美味しいんだって」
鎖に繋がれたままのユーリィはそう言って自分の分のポトフを食べる。
それはいつも自分が作ってきた安定した味だった。
「うん、これこれ」
頷きながポトフを食べる。
「おいお前、これもっと食わせろよ!」
「まだまだおかわりはあるからご自由にどうぞ」
「すげーなお前! そういや名前なんていったっけ?」
「……ユーリィ」
ぶすッとしながらユーリィはそれでも自分の名前を言いながら、残りのポトフを食べる。
流石に魔王城へ来てからほとんど食べていなかったのでお腹が空いていたのだ。
「ユーリィか…… 気に入った、ますます気に入った! お前、俺の小姓に成れ!! こんなうまいもん作れて、お前の魂も美味いだなんて、お前は俺様専用の小姓にしてやる!!」
「はぁっ?」
上機嫌な魔王に思わず変な声を出して呆然と見上げるユーリィだった。
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