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第九章

第219話9-12最終話:新女神誕生

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 フェンリル姉さんは僕に向かって頷いてからエルハイミねーちゃんの前に行く。
 

 「エルハイミ、いいわ。始めて」

 「それでは行きますわよ。私があなたの魂に触れますわ。ですから拒まないでくださいね」


 そう言ってエルハイミねーちゃんはフェンリル姉さんに手を向ける。
 するとフェンリル姉さんがぼうっと輝き始める。
 そしてその光は徐々に大きくなって行きとうとうフェンリル姉さんとエルハイミねーちゃんを包むほど大きくなってゆく。

 「ティアナの体もこちらに」

 エルハイミねーちゃんはそう言って宙に浮いているティアナ姫の体を引き寄せその光の中に取り込む。
 そしてフェンリル姉さんとティアナ姫の体を宙に横に寝かせる。


 「凄いな…… 創造と破壊の女神か、僕たち姉妹にはできない事だ……」


 「アガシタ様たちでも出来ないのですか?」

 思わず聞いてしまった。
 するとアガシタ様は僕を見てにっこりと笑う。


 「出来ないんだ。この世界で一番強かったのは僕だった。でもそれを超えるのがエルハイミ。そして他の姉さまたちをも凌駕しているのもエルハイミ。エルハイミはこの世界をお創りにになられた『あのお方』の端末となり、この世界で最強の女神となった。そして彼女にしか出来ないのが創造と破壊。君の姉となるフェンリルはそんな凄い女神に愛されていたんだよ……」


 そう言われ僕は光の中のフェンリル姉さんを見る。

 僕の姉は世界最強の女神様に愛されていた姉だったのかぁ。

 なんか誇らしいようなちょっとうらやましいよな変な気分。
 でも分かっている。
 僕の姉は世界最強の師匠なんだって。


 「さあ、フェンリル。心を落ち着かせてですわ。そしてティアナだった頃を思い出してですわ」

 「私がティアナ姫だった頃の事……」


 姉さんはそう言って目をつむる。
 そしてティアナ姫だった頃の事を思い出しているのだろう。

 すると横に寝かされ、ティアナ姫と平行に並べられた姉さんの胸のあたりにふわっと煙の様な光が出て来てだんだんと丸い球体が出来あがって行く。

 それは渦巻き、どんどん大きくなってゆく。


 「なるほど、確かに何度も転生してその魂の器が大きくなっていたんだね。まだまだ未熟だけどあの魂はどんどん成長する。そしていずれは僕らと同じくらい大きくなるだろう」


 アガシタ様はそれを見て目を輝かす。


 「これが女神創造。新たな女神の誕生だ!」


 そしていよいよフェンリル姉さんから立ち昇る光は途切れ、姉さんの胸の上に大きな球体の光の玉が出来あがる。

 エルハイミねーちゃんはそれを愛おしそうに両の手でつかむ。

 「やっと、やっと帰って来るのですわね、ティアナ。待っていましたわ」

 そしてその光の玉を隣に寝ているティアナ姫の体に持って行きその胸に押し込む。


 ぶわっ!!


 光があふれ出した。
 ティアナ姫の体が光っている。


 「ティアナ、私のティアナ。さあ、長き時を経て本当のあなたが復活ですわ!」

 「ぅ、ふぅううぅぅぅ……」


 エルハイミねーちゃんがそう言うとティアナ姫の体がうごめき始める。
 輝いていた光は徐々に収まり、寝ている様だったティアナ姫の体に生気が宿る。


 「ぅうぅん、んっ、はぁああぁぁぁぁ……」


 ティアナ姫が瞳を開き始める。


 「ティアナ! ティアナ、私が分かりますの?」

 「エ、エルハイミぃ……」


 その声は遠い昔聞いたティアナねーちゃんその人の声だった。

 「んっ、んんぅん……」

 隣に寝ていたフェンリル姉さんも目を開く。

 そして先に起き上がり自分の手を見る。
 それから隣にまだ寝ているティアナ姫とそれを愛おしそうに見ているエルハイミねーちゃんを見る。


 「本当だ、ティアナ姫の記憶はあるけど、私だ。フェンリルである私だ!」

 「もうあなたはフェンリルとして自由ですわ。今まで通りに生活も出来ますわ」


 エルハイミねーちゃんは優しく笑ってそう言う。
 そしてティアナ姫に目覚めのキスをする。


 ちゅっ!


 「おはようですわティアナ。お目覚めの気分はいかがですの?」

 「ぅううぅん、なんか長い長い夢を見ていたようよ。おはよう、エルハイミ」

 「はいですわ、おはようございますですわ、ティアナ!」


 そう言ってエルハイミねーちゃんはティアナ姫に抱き着くのだった。


 * * * * *


 「なんか変な気分ね。ティアナ姫が目の前にいるなんて……」

 「ティアナでいいわよ、フェンリル。元は私たちは一つだったのだから」

 「えへへへへへぇ~ティアナぁ~♡」


 いろいろとあったけどやっと落ち着いて豪華な食事も用意されみんながそのテーブルについている。
 ティアナ姫の横にエルハイミねーちゃんはくっついていて、その横にフェンリル姉さんが座っている。

 魂の分割は上手くいってフェンリル姉さんとティアナ姫は完全に二人に分かれた。
 そしてティアナ姫は新生の女神様としてエルハイミねーちゃんと永遠に共に居続ける事となった。


 「とうとう十四番目の女神かぁ、先輩として、姉として君たち女神には引き続きこの世界の維持を頼むよ。僕は回復に専念するからね」

 「いや、アガシタ様また引きこもる気満々でしょう?」

 「何処かをふらつかれるよりはましですけどね。探すのが一苦労なんですから」


 あのメイドのライムさんとレイムさんも来ている。

 
 「えっと、ティアナ姫が新しい女神様になるけど、ティアナねーちゃんとは別人になるのかな?」

 「ううぅん、ソウマそれは違うわ。私はあなたの事もちゃんと覚えているし、あの頃のティアナそのものよ。今まで通りティアナねーちゃんで良いのよ?」

 「ティアナ、ソウマには手を出しちゃだめだからね? ソウマは私のなんだからね!」

 「分かってるって、フェンリル。でも弟がいるってのもいいわよねぇ~、エルハイミにも弟がいたし、ジルも私にとっては弟みたいなもんだったしねぇ~」

 「ティアナ、浮気はだめですわよ?」


 なんかまた大変な姉が増えた様な気がする。


 「ソウマ君は私のお嫁さんよ?」

 「何を言っているのです、ソウマ君には責任取ってもらわなければならないのですわ! 私の実家に挨拶に来てくださいですわ!!」


 僕がそう思っているとミーニャとエマ―ジェリアさんも声を上げる。

 
 「え~、今回の事で私は当分ソウマお兄ちゃんの所に行く許可もらったんですから、ソウマお兄ちゃんは私に任せてくださいよぉ~」


 そう言えばなんかタルメシアナちゃんが僕の所に来るって言ってたっけな?


 「ソウマ、すまん、俺もソウマにくっついて行きたいんだがティアナ姫が復活しちまったからな。でもソウマ、俺の心はずっとお前と一緒だぞ、ソウマ!」

 「ほっほっほっほっほっ、女神様のお陰で我が娘も豊満な胸となる事が出来ましただ。これで嫁の貰い手もあるでしょうからいよいよ孫の顔が見れますなぁ」


 リュードさんはティアナねーちゃんに仕えると言う事でこの天界に残るそうだ。
 フォトマス大司祭様は娘さんの胸を大きくしてもらえたらしく、孫の顔が見れると喜んでいる。


 『とりあえず生き残れたけど、おすそ分けでソウマ君のもらいたいなぁ』

 『ミーニャ様、私たちはずっとミーニャ様について行きますからね! だからご褒美ください!!』


 リリスさんは僕をじっと見つめてそう言う。
 まだ僕の生き血を狙っているのかな?
 ソーシャさんはミーニャに足蹴にされて何故か喜んでいる。


 「色々あったけど楽しかったかもね。そうだ、タルメシアナがソウマの所行くならあたしも行くことにするわ。なんかその方が面白そうだものね」

 「ソウマはまだまだ成長するからな。将来が楽しみだ。ソウマよ、成長したらまた来い。手合わせをしよう」


 セキさんは骨付き肉をかじりながら、びっ! とその骨付き肉を僕に向けてそう言う。
 鬼神も僕を見ながら珍しく笑顔でいる。


 ぴこぴこ~。


 アイミは僕の後ろまで来て手を差し出す。
 ティアナねーちゃんが復活したからここに残りたいそうだ。
 
 大きな手のアイミと握手をする。


 「アイミ、また会いに来るよ」

 ぴこっ♪


 僕がそう言うとアイミは嬉しそうにする。


 「そう言えばソウマたちはこの後どうするつもりなの?」

 シェルさんはエムハイミねーちゃんに抱き着きながら僕に聞いてくる。

 「そうですね、タルメシアナは竜になっても自我を保てるようになったようですからもう心配はありませんし、ソウマ殿に娶ってもらう事になりましたから孫が出来たら呼んでください」


 「なっ!? コク何言ってるのよ!? ソウマはお姉ちゃんの! ソウマの子供を産むのは私よぉっ!」


 「ぶっ!」


 姉さんはそんな冗談を言いながらまた僕に抱き着いてくる。
 相変わらず大きな胸に顔が埋まり息が出来なくなる。


 「むぐぐぐぐぐぅぅ」



 「ソウマ君! ちゃんとお嫁さんにしてあげるんだからね!」

 「ソウマ君は責任取ってですわ!!」

 「ソウマお兄ちゃん、お母様のお許しが出ました! 私に任せてください!」

 「ソウマ、またよろしくね。あ、エルハイミ母さん骨付き肉追加!」

 「ソウマぁ~、俺ソウマの事忘れないよぉ~」

 「ソウマ、お前の成長が楽しみだ。手合わせを楽しみにしているぞ」

 『ソウマ君、なんなら私で筆おろししてもいいんだよ!?』

 『ソウマさんもいいですけど、やっぱり私はミーニャ様の方がいいですねぇ~』

 「ソウマ殿、何でしたら我が娘など如何ですかの?」

 「ソウマも大変ねぇ~。あ、エムハイミっ! ティアナの所に行かないの!!」

 「ソウマ殿、タルメシアナの事よろしくお願い致します。さてエスハイミお母様戻って二人目ですよ?」

 ぴこ、ぴこっ!

  
 みんなが僕の名を呼ぶ。
 そんな事よりなにより早く助けてよ!!
 もう息が続かないよぉっ!!



 「もう駄目ぇっ! ソウマはお姉ちゃんが立派な『男』にしてあげるんだからぁッ!! ソウマは私の大切な弟なんだからぁッ!!」





 最後に姉さんの叫び声を聞きながら僕は気絶するのだった。
 
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