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第九章

第217話9-10創造と破壊の女神

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 「う、うぅぅん……」


 エルハイミねーちゃんは気が付いたようだ。
 そして周りにいるみんなは一斉に緊張する。

 見た目は元のエスハイミねーちゃんやエムハイミねーちゃんと同じだけど、こめかみの上のトゲの様な癖っ毛だけがやたらと小さくなっている。


 「エルハイミ?」

 「う、うぅうぅぅん…… あら? 私…… ティアナっ!」


 姉さんに抱かれて介抱されていたエルハイミねーちゃんは目を覚まし姉さんと見ると同時に抱き着く。



 「やっぱり私を選んでくれるのですわね! ティアナ、愛してますわっ! ぶちゅっ!!」



 言いながら姉さんに口づけをする。


 「んむぅっ!!!!」


 ぶちゅぅ~っ!!!!


 まるでクラーケンが吸い付いている様だった。


 ちゅぽんっ!


 「ぷはっ! エ、エルハイミ! いきなり何するのよ!?」

 「ティアナ? だって、私を選んでくれたのではないのですの?」


 姉さんの首に手を回したままきょとんとするエルハイミねーちゃん。

 「あ、あのねぇ、あんたあれだけの騒ぎを起こしておいて何言ってるのよ? ショーゴだって……」

 「はえ?」

 姉さんにそう言われてエルハイミねーちゃんは変な声を上げる。


 「やはり嫉妬と欲望に支配され今までの記憶が抜けていますわね……」

 「まったく、本体の癖に。しかたありませんわ、連結しますわ」


 そう言ってエスハイミねーちゃんとエムハイミねーちゃんは目をつぶると一瞬三人のエルハイミねーちゃんたちがうっすらと光る。

 そして姉さんに抱き着いていたエルハイミねーちゃんが涙目になる。


 「そ、そんなぁですわぁ。やっぱりティアナは私よりソウマを選ぶのですわねぇ?」
 「だから、そこは、その、ごめん……」


 うる、うるるるるるるるるっ!


 エルハイミねーちゃんが涙目になる。
 するとエスハイミねーちゃんとエムハイミねーちゃんが大きくため息をつく。


 「エルハイミ、それよりショーゴさんの再生をしなさいですわ。運良く此処『女神の間』だったからまだショーゴさんの魂は霧散していませんわ」

 「そうですわね、ガーディアンとして長らく仕えてくれたのですもの。それに力の大半はエルハイミに残ったままなのですから」

 「ううううぅ、私が冷たいですわ……」


 「「ティアナを独り占めしようとするからですわ!!」」


 びしっ!


 エルハイミねーちゃんがエスハイミねーちゃんとエムハイミねーちゃんに怒られているのってなんか変な感じ。
 
 しかしエルハイミねーちゃんはため息をつきながら手を振ると光が集まってそこに鬼神が現れる。


 「うっ、お、俺は……?」


 「ご苦労様ですわ、ショーゴさん」

 「お陰様でエルハイミの暴走を止められましたわ」


 鬼神は軽く頭を振りながらエルハイミねーちゃんを見る。
 そしてため息をつきながら言う。

 「我が主よ。女神と言う立場なのだからもう少し気をしっかりと持ってもらわねばいけないぞ? あのような暴走、本当にこの世界が壊れてしまうぞ?」

 「ううぅ、ごめんなさいですわ……」

 目の端に涙をためて謝るエルハイミねーちゃん。
 まあ、この方がエルハイミねーちゃんっぽいんだけどね。



 『お取込み中悪いんだが、僕も回復してもらえないかエルハイミ?』


 「うわっ! びっくりしました!!」

 タルメシアナちゃんのポケットからアガシタ様の声がした。

 タルメシアナちゃんはポケットから折れたあのナイフを取り出す。
 するとそのナイフがしゃべりだす。


 『エルハイミの角を折るのに僕のほとんどが消費されてしまった。最後に残ったこの僕でさえこのままでは消滅してしまう。エルハイミ、早いところ回復してくれないか?』

 「アガシタ様ですの? えーと、ああ、エムハイミたちの記憶でわかりましたわ。すみませんでしたわ、すぐに魔素を練って女神様用の肉体を再生させますわ。でも、分割した魂の補充までは……」

 『それは、まあいいさ。この世界で飛散した魔素をまた少しづつ掻き集め魂を大きくしていくから。女神としての力も最低限は使えるだろうし、君がいればこの世界は大丈夫だろう?』


 そう言われエルハイミねーちゃんは「……はいですわ」と答えるしか無かった。
 そして手を振ると鬼神の時と同じく折れたナイフに光が集まりやがて人の姿になりあの銀髪美少女のアガシタ様になる。


 「ふう、とりあえず死なずに済んだ。魂を六つにも分割するなんて初めてだったからね」


 ピクン!
 

 「魂の分割ですの?」


 エルハイミねーちゃんがそれを聞いてアガシタ様を見る。
 そしてフェンリル姉さんを見る。

 何度かそれをしてからぱぁっと顔を輝かす。



 「それですわぁっ!!」



 びっと人差し指を立ててフェンリル姉さんを指さす。


 「ティアナ、いえ、フェンリル! これなら問題ありませんわ!!」

 「なるほど、それならできそうですわね」

 「となると、やっぱり初代ティアナが良いですわね!!」


 エルハイミねーちゃんがそう言うとエスハイミねーちゃんとエムハイミねーちゃんもいきなり何か言いだす。


 「へっ? な、なにっ? また変なことするつもりじゃないでしょうね!? もうお尻やだからねっ!」


 タジタジとお尻を押さえながら後ずさりするフェンリル姉さんを三人のエルハイミねーちゃんがじりじりと追い詰めて行く。


 「エルハイミ、協力しますから連結は切ってはだめですわよ?」

 「そうですわ、連結するなら我慢できますもの。ああ、なんならシェルとの感覚も差し上げますわ!」

 「とにかくこれなら上手くいきますし、みんなが納得いきますわ! そしてティアナの浮気も終わりですわ!!」
 

 脂汗をだらだら流すフェンリル姉さんはとうとうエルハイミねーちゃんたちに捕まる。


 「ちょっと、ティアナ姫の事は今のフェンリルである私には関係なーいぃ! フェンリルである私はソウマ一筋なのよ?」

 「ですから最高の打開策が有るのですわよ!」




 そう言うエルハイミねーちゃんは笑顔で言うのだった。    

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